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多忙を極める日本の外科医―その背景にある課題とは?

公開日

2021年05月20日

更新日

2021年05月20日

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2021年05月20日

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外科医4万人以上が登録する「日本外科学会」は、明治時代の発足以来、外科学の研究・学術の発展、外科医療の向上に貢献してきました。近年ではドラマなどの題材にも取り上げられ、緊迫した医療現場で活躍する“格好いい外科医”のイメージをお持ちの方も多いかもしれません。しかし一方で、新たな研修制度の影響などにより外科医を志望する医学生が減少しているという課題があります。2017年より日本外科学会理事長を務める森正樹先生に、その経緯を伺いました。

国内最大級の学会である「日本外科学会」

日本外科学会は1899年に発足しました。120年以上続く歴史ある学会です。学会の最たる目標は外科手術・外科医療を通じて患者さんの健康に寄与すること、および会員である外科医の利益を守ること(体制構築や環境の整備など)です。

現在の会員数は4万人強(2021年1月時点)、1つの学会としては日本内科学会に次ぐ規模です。国内の活動にとどまらず、国際交流・他国からの若手外科医の受け入れなどを行い、世界の外科分野における日本の存在感を高める努力をしてきました。

手術中の医師 PIXTA

写真:PIXTA

外科医が不足する現状―患者さんへの影響は?

昨今の大きな課題は外科医を希望する医学生の減少と、それに伴う若手の外科医不足です。ここ15年間の推移を見ると、全体の医師数は右肩上がりで増えているにもかかわらず、外科医の数はほぼ横ばいです。つまり、実質的には外科を選択する医師が減っているということです。それに伴い、若手の外科医不足・外科医の高齢化が顕著になっています。

外科医を希望する医師減少の背景には、2004年の「新医師臨床研修制度(以下、新研修制度)」導入があります。というのも、新研修制度が始まる前は医学部在籍中に診療科を選択してその専門性を高める流れが一般的でした。そのため、卒業後はそれぞれの志やクラブ活動の先輩とのつながりなどで決めた診療科へそのまま進んでいたのです。しかし、新研修制度では卒業後2年間の臨床研修(厚生労働省指定の病院で実際に働きながら行う研修)が必修になり、卒業後に複数の診療科を経験することになりました。すると、その過程で外科医が置かれている環境の厳しさや業務の忙しさなどを経験し、元々外科に興味を持っていた人までが方向転換する、というケースが増えているようです。

このまま外科医の減少が続くと、外科医の不足によって思うように手術が受けられないという事態が起こりかねません。たとえば今、入院してから2〜3週間で手術が受けられるとして、それが数カ月後になってしまう可能性があります。通常、時間の経過とともに病気は進行するものですから、適切なタイミングで手術を受けられないという状況は非常に問題です。

病室のベッドで座っている男性

写真:PIXTA

多忙を極める外科医

そもそもなぜ外科医は多忙になりがちなのでしょうか。

一般的に「外科医の主な仕事は手術」と認識されていますが、実は手術以外にも多くの関連業務があるのです。手術前には、患者さんが適切な状態で手術を受けられるよう、血圧や血糖値など全身状態をコントロールします。たとえば、糖尿病の方の手術は血糖値をコントロールし、合併症を回避しなければなりません。また、術後の管理もあります。大きな手術になればなるほど管理も長期間に及びます。さらに手術記録の記載、手術以外の外来対応なども発生しますから、本当に目が回るような忙しさです。実際、かなりオーバーワークになっている現場が多いことは否めません。

他国だと事情は異なります。たとえばアメリカの場合、外科医は手術だけを専門に行い、術前・術後の管理は別の医師が担当するなど、かなり分業が進んでいるのです。人口あたりの外科医の数が少なくても日本のようにオーバーワークにならないのは、そのような仕組みを採用しているからと考えられます。

医師の「働き方改革」の必要性

このような課題を解決するべく、現在日本外科学会は外科医の働き方の改善に取り組み、厚生労働省では「医師の働き方改革の推進に関する検討会(以下、働き方改革)」が行われています。まずは現状を把握するために、外科医の勤務状況を個人・病院などの単位で記録し、そのうえで自動化・効率化できる部分の洗い出しとその具体策を検討しています。

具体策の例としては、カンファレンスの時間を短縮する、手術記録は術後の追加作業なく自動でプリントアウトできるようにする、看護師が担当できる業務はタスクシフトするといった方法が検討されています。また、患者さんに関わることでは、ご家族への説明などで「日曜日でないと来られない」などの要望があったとき、今まで主治医はリクエストに応えてその日に出勤していましたが、今後は決められた曜日の中でご家族にご調整いただくようにする、といった変化もあります。

ときに患者さんやご家族にも協力を仰ぐ場面もあるかと思いますが、どうか皆さんには現状を変えるための一歩と捉え、ご理解いただきたいです。こういった工夫の積み重ねにより、外科医を取り巻く環境が働きやすいものへと変容し、その結果より質の高い外科医療の提供が可能になると考えています。

次のページでは、外科分野のデジタル技術・遠隔手術の可能性についてお話しします。

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