日本リウマチ学会総会・学術集会が2023年4月24〜26日、福岡国際会議場/福岡サンパレス/福岡国際センター(いずれも福岡市博多区)で開催されます(現地開催・教育研修講演のみオンデマンド配信予定)。大会長を務める田中良哉先生(産業医科大学 医学部第1内科学講座 教授)は、関節リウマチの「ドラッグ・ラグ*」をゼロにすべく、世界を舞台に奮闘してきました。本学術集会にも海外から多くのエキスパートが集結します。田中良哉先生が世界に目を向ける理由とともに、本学術集会の見どころなどについて伺いました。
*ドラッグ・ラグ:海外で使用されている薬が日本で承認されて使えるようになるまでの時間差
かつて関節リウマチは進行が防げない病気でしたが、自己免疫疾患であることが明らかとなり、抗リウマチ薬(メトトレキサート)が1999年に、生物学的製剤(インフリキシマブ)が2003年に国内承認されると、関節リウマチの治療は大きく変わりました。
非常に喜ばしい出来事であった半面、手放しでは喜べない現実もありました。これらの薬剤は5〜10年も前から、アメリカではすでに患者さんに使用されていたのです(メトトレキサートは1988年から、インフリキシマブは1998年から)。産業医科大学の教授になった2000年、私は「この10年のドラッグ・ラグをゼロにしよう」と決心しました。
そのためには、世界のトップリーダーと肩を並べられる存在として、彼らのコミュニティに仲間入りする必要がありました。実力もなく行動もしなければ誰も見向きをしてくれません。松下村塾を開いた吉田松陰先生が知見を深めるために日本中を遊学したように、積極的に海外に出向くことにしました。国際学会での発表や質疑応答での発言、多くの論文執筆などの地道な活動に加え、膠原病疾患に関わる欧州の診断基準作成委員会や、治験のグローバル・ステアリングコミッティ(運営委員会)のメンバーとしても活動してきました。
そんな努力が結果として現れたのが、JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤(トファシチニブ)の開発・承認でした。トファシチニブは初の「経口関節リウマチ薬」としてアメリカのファイザー社が開発を主導。その開発に際し「一緒にやりませんか」と声をかけていただき、日本とアメリカで治験がスタートしました。そして、2012年にアメリカでトファシチニブが発売されたのに続き、日本でも2013年に発売に至ったのです。さらに、それ以降に登場したJAK阻害剤も、欧米とほぼ同時期に日本でも承認されています。まさに「ドラッグ・ラグ」がなくなったのです。今では関節リウマチに対する新たな薬剤は十数種類も存在し、その中から患者さんに適したものを処方できれば、寛解導入や関節の構造的破壊を防げるようになっています。
ただし、これは関節リウマチに限った話であり、いまだ治療が難しい膠原病疾患は少なくありません。こうした疾患の新薬開発も少しずつ進歩している段階にあり、今はちょうどその変革期です。今後10年の動き次第で、これまで太刀打ちできなかった疾患の治療も大きく変わっていくことでしょう。
本学術集会では、一般の方を対象とした市民公開講座を予定しています。テーマや詳細については準備中ですが、当学会の竹内勤理事長(埼玉医科大学副学長/慶應義塾大学名誉教授)に基調講演を、日本リウマチ友の会の長谷川三枝子会長に公開討論会に参加していただく予定です。
もう1つ考えているのが、“公開診察”です。私が普段どのように検査・診断を行って薬剤を選択しているのかを、皆さんの前で実演する予定です。患者さんやご家族に納得いく治療を受けていただくために、診断や治療の過程を知ってもらう機会になればと考えています。
市民公開講の詳細はウェブサイトを確認してみてください。
本学術集会には、欧州やアジアを中心とした各国から著名なエキスパート約100人にお越しいただきます。一般演題も海外から100題以上が集まり、中には戦争の最中にあるロシア、ウクライナからの演題もあります。
ここ数年、新型コロナウイルス感染症の影響により海外からの参加ができない状態が続いていましたが、今年は世界に向けて英語のポスターを配布し、こうして多くの演題が集まりました。さらに一般演題の座長を海外の著名な先生にお願いすることも考えていて、昔から親交のある先生方に「ボランティアで引き受けてくれないか」と依頼をしているところです。高名な先生を前にしての発表は、特に若い医師にとって大きな刺激になるはずです。自身がグローバルな環境に身を置いていることを福岡の地で実感してほしいと思います。
今回、一般演題の募集終了後に最新の研究発表を応募できる「Late breaking abstracts」の枠を設けています(受付期間:2023年3月24日正午まで)。学術集会直前に査読者が採点して、演題を採用します。
この企画の1番の狙いは、2022年秋に開催された米国リウマチ学会の“アンコール発表”です。米国リウマチ学会では最新データが続々と発表されるので、その発表が日本でも聞けたら面白いだろうと思い企画しました。米国リウマチ学会での発表者にとっても、もう一度日本で話せるビッグチャンスになるので、すでに想定以上の問い合わせが来ています。日本リウマチ学会は、リウマチ領域において世界で3番目に多くの参加者が集まる大規模な学会です(米国リウマチ学会、欧州リウマチ学会に次ぐ)。世界中の研究者が一堂に会し、活発な議論や交流がなされることを期待しています。
私は今後、世界に通用するスター人材の育成がもっとも重要だと考えています。今回の学会テーマ「至誠通天〜その先へ…〜」には、「その先」を担う若い世代を育成したいという思いが込められています。
そこで今回企画したのが、初期臨床研修医・医学部学生がポスター発表する「近未来のリウマチ医セッション」です。最優秀・優秀演題賞も用意しました。いまだに膠原病疾患の講義がない大学もあるので、これを機に膠原病疾患に興味を持ってもらえればという期待もあります。また本学術集会は、専攻医および医学部学生、初期臨床研修医の参加費は無料です。たくさんの方々のご参加をお待ちしています。
もう1つの目玉が、聴衆参加型教育プログラム「Meet the Expert」です。リウマチ学における各領域の専門家である講師と参加者が、直接交流して双方向に議論するための企画です。講師には日本リウマチ学会の竹内勤理事長を筆頭に、学会の副理事、理事全員が名を連ねています。
講師との距離をなるべく近くしたいと思い、収容人数30人ほどの小さな部屋で行います。薬剤選択など日常診療で困っていることがあれば何でも質問してもらってよいですし、研究について議論していただいても構いません。自分自身が積極的になればなるほど、たくさんのものが得られることでしょう。参加方法についてはウェブサイトをご確認ください。
こうして学術集会を開催するもの、全て「患者さんのため」というゴールがあるからです。
今年11月には北九州市で日本臨床リウマチ学会が、2025年には福岡市でアジア太平洋リウマチ学会議が開催予定で、いずれも大会長を拝命しています。まずは本学術集会を実り多き大会にして、次の大会へとつなげていきます。1人でも多くの患者さんを救うために、日本からリウマチ領域全体を盛り上げられればと思います。
今年の学術集会は、3密になるポスター発表は減らすなど十分な感染対策を施したうえで、全面的に現地開催としました(教育講演のみオンデマンド配信予定)。多くの方と福岡の地で交流できることを楽しみにしています。
取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。