がんに関連した症状やがん治療に伴う体や心の苦痛を和らげることで、患者さんやご家族をサポートする「がんサポーティブケア(がん支持療法)」。第10回日本がんサポーティブケア学会学術集会が2025年5月17〜18日、和歌山市の和歌山城ホール/和歌山県立医科大学薬学部キャンパスの2会場で開催されます。多種多様なプログラムが用意されており、患者さんやご家族の方が参加できるプログラムもあります。会長を務める山本信之先生(和歌山県立医科大学内科学第三講座 教授)に、学術集会の見どころ、がんサポーティブケアの今後に向けた思いについて伺いました。
がんサポーティブケアはがん医療を幅広くカバーしていますが、まだまだエビデンス(科学的根拠)が不足している分野でもあります。そのため、患者さんやご家族にとってよりよい医療を提供するためには、数少ないエビデンスを踏まえながらも、それを超えた工夫が必要とされる場面が多々あります。そこで本学術集会では「最高のがんサポーティブケアを目指して beyond evidence」をテーマとして掲げました。
私自身、がんサポーティブケアにおいては、許容範囲内の工夫を恐れないことを日頃から大切にしています。エビデンスの有無を理由にして診療方針を決めてしまうと、できないことばかりになってしまいます。たとえエビデンスのない医療行為であったとしても、それが患者さんやご家族のためになるのであれば、工夫次第で行うことができないか模索していく必要があるでしょう。一方で、医療ですからエビデンスがあるに越したことはありません。学会としては今後、がんサポーティブケアに関するエビデンスを生み出していくことも大切だと考えています。
今回の学術集会では、シンポジウム、パネルディスカッション、ワークショップ、ハンズオンセッション、教育講演、Year in Reviewなど2日間で50以上のプログラムを用意しました。企画提案は学会のワーキンググループから受け付け、それらの中から厳選したものを採用しています。非常に多岐にわたった企画を用意しているので、どれに参加しても十分に満足していただけると思います。
会長企画は3つ用意しています。1つは朴成和先生(東京大学医科学研究所附属病院 腫瘍・総合内科)の「サポーティブケアのBeyond Evidence」です。学術集会のテーマであるBeyond Evidenceとは具体的にどのようなことなのかをお話しいただきます。2つ目は上野直人先生(ハワイ大学がんセンター)に「ハワイおよび太平洋諸島における医療の課題と展望」というタイトルでご講演いただきます。上野先生はハワイ大学のがんセンター長として、太平洋諸島における遠隔医療を司ってこられました。都市と地方の医療格差が広がり遠隔医療の重要性が増している日本の医療において参考になるお話が聞けると思います。
3つ目は「高額療養費制度の見直しをめぐる議論」です。もともと会長講演を予定していましたが、急遽こちらのプログラムに変更しました。高額療養費の引き上げに関して、政府に積極的なはたらきかけをされた全国がん患者団体連合会の轟浩美さんと天野慎介さんをお招きし、高額療養費の見直し案が提案されてからの過程を踏まえ、今後取るべき対応についても議論していきたいと考えています。
そのほか昨年に引き続き、国際がんサポーティブケア学会(Multinational Association of Supportive Care in Cancer:MASCC)や韓国がんサポーティブケア学会(Korean Academy for Supportive Care in Cancer:KASCC)との共同シンポジウムも開催します。
今回、第6会場(和歌山県立医科大学薬学部キャンパス3階 中会議室302)で行う企画は、ほとんど全てが患者さんやご家族に参加いただけるものとなっています。1日目には、▽がん治療における栄養指導▽続・がん患者とがんサバイバーの境目を考える▽がん患者さんにおすすめのワクチン▽子供も大人もがん教育〜誰もが自分らしく過ごせる社会のために〜、2日目には▽がん支持医療研究における患者・市民参画を広げるために▽これからの患者力の話をしよう〜Patient Empowermentとは〜▽それぞれの立場から考えるアピアランスケア――など多彩なプログラムを用意しました。いずれも事前申し込みは不要です。患者さんなど一般の方の参加費用は低額に抑えているので、費用面はあまり心配せずにお越しいただければと思います。当日はがんサポーティブケアの現状について知っていただくと同時に、皆さんの声をぜひ私たちに聞かせていただきたいと考えています。患者さんやご家族にとってよりよいがんサポーティブケアを生み出していくために、私たちに力を貸していただければうれしいです。当日はぜひお気軽に第6会場にお越しください。
がんサポーティブケアはさまざまな職種が力を合わせて取り組む医療です。当学会は医師が約半数、看護師や薬剤師などの多職種が約半数であり、会員の構成としてはとても理想的なあり方だと感じています。また、役員も医師ばかりではなく、複数の職種で構成されるように工夫しています。2024年5月に初の理事選挙を行った際は、最低3割は医師以外の職種が選出されるようにしました。これからもいろいろな職種を巻き込みながら、がんサポーティブケアの向上を目指していきたいと考えています。
一方で、がんサポーティブケアに専門的に携わる人が少ないことは課題の1つです。学会の会員数は1500人ほどであり、日本癌治療学会や日本緩和医療学会など会員数が1万人を超えるような学会に比べると規模も小さいのが現状です(2025年4月時点)。しかし、がんサポーティブケアはがん医療において非常に重要な役割を担っており、2023年3月に定められた「第4期がん対策推進基本計画」でも、分野別目標として「がん支持療法の推進」が明記されました。がんサポーティブケアの重要性を多くの方に知ってもらい、専門性を持って取り組む人材を輩出することで、がんサポーティブケアの発展に寄与することが当学会の使命だと考えています。学術集会後には専門認定制度を開始予定ですので、興味があればぜひ取得していただき、がんサポーティブケアの専門家として活躍していただきたいと思います。
がんサポーティブケア学会は2015年に設立され、10年間で少しずつ成長をしてきました。今学術集会は10年間の集大成となる節目の会であり、医療従事者、患者さんやご家族に向けたたくさんのメッセージが込められています。多くの皆さんのご参加をお待ちしております。
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