第63回日本癌治療学会学術集会が2025年10月16~18日にパシフィコ横浜(横浜市)で開催されます。10月18日には医療を“見て・体験して・学べる”市民イベント「がんち いきいき パーク!」も同時開催。9月22日正午から参加申し込み受付が開始されました。会長を務める万代 昌紀先生(京都大学医学研究科 婦人科学産科学 教授)にイベントの詳細や学術集会の見どころ、がん患者さんと関わるなかで大切にしてきた思いを伺いました。

提供:万代 昌紀先生
今回の学術集会のテーマは「がんと生きる、がんを生きる」としました。ちょうど10年前、2015年に開催された第53回学術集会では、私の指導者であった小西 郁生先生(前・京都大学医学研究科 婦人科学産科学 教授)が会長を務められ、「がんと生きる」をテーマに掲げておられました。当時は医療の発展とともにがんが治る病気となってきた頃で、がんと共にどのように生きていくかが模索されていました。それから10年がたち、治療を続けながらがんと共に生きている人はさらに増えています。誰もががんになり得ることを前提に、人生のイベントの1つとしてがんを位置付けるとき、どのようにがんと向き合っていくのかという哲学的な意味を込めて「がんを生きる」という言葉を加えました。
学術集会のポスターにはクジラのマスコットを採用しました。開催地の横浜が港町であることもありますが、日本では古来よりクジラは海の向こうから福をもたらしてくれる縁起のよい動物とされています。また、クジラなど大型の動物はがんになりにくいことが知られています。クジラの細胞は遺伝子の異常を修復する能力が高く、がんになりにくい仕組みを持っているのだそうです。こうした仕組みの解明が進めば、将来ヒトのがん治療にも応用されていくかもしれません。
10月18日には、楽しく学べる体験型・参加型市民イベント「がんち いきいき パーク!」も開催します。子どもたちに楽しく体と健康の知識を学んでもらう取り組みを行う「ORGAN ROOMS PROJECT」とのコラボ企画「カラダワンダーランド~がんち特別授業~」では、小学校低~中学年のお子さん(推奨)と保護者の方を対象に、がんや体、命のことを学べる講義を予定しています。聴診器で心臓の音を聞いたり、実際の点滴などに触れて体験したりできる「医療体験コーナー」も準備しました。
がん経験者のリアルな声を届ける「NPO法人がんノート」とのコラボ企画「がんちラジオ=がん経験と想いをピアノにのせて=」では、がん患者さんとご家族を対象に、がんノート代表理事の岸田 徹さんにお越しいただき、ピアノの生演奏とともにさまざまな経験や想いを語り合っていただきます。9月22日正午から参加受付を開始しましたので、多くの皆さんのお申し込みをお待ちしています(https://congress.jsco.or.jp/jsco2025/index/page/id/530)。
提供:日本癌治療学会
今、日本では2人に1人ががんになる時代です。しかしそう聞いても、私自身も例外ではありませんが「自分は大丈夫だろう」と思っているものです。そのため、いざがんと診断されると、驚き動揺して急いで調べた結果、インターネット上の誤った情報にたどり着いてしまうことがよくあります。でも一番大切なのは、最初に正しい情報を得ていただくことです。がんは怖い、それを診る医療者や病院も怖いと思ってしまうかもしれませんが、私たち医療者の目標は患者さんと一緒に治療に向き合っていくことです。もしもがんと診断されたときは、落ち着いて癌治療学会などの学会が発信している正しい情報を参考にして、医療者と相談しながら、ご自身にとって一番よい治療を選択していただきたいと思っています。
(癌治療学会 患者・市民向けページ:https://www.jsco.or.jp/public/)
近年のがん治療の進歩のスピードには目を見張るものがあります。癌治療学会の学術集会は年1回の開催ですので、参加者の皆さんには前年からの1年間のアップデートについて学び、最新の情報を持ち帰っていただくことが最大の目標だと考えています。
今回は3日間にわたって多彩なプログラムを用意しました。中でも、がん免疫療法と副作用の対策、最近話題にあがることが多いAIの活用、そしてロボット手術を含めた最前線の手術手技などは、特に注目いただきたいプログラムです。
また、今回は10年ぶりに産婦人科が運営を担う大会ということで、女性の健康に関する課題にも多く焦点をあてました。乳がんや子宮体がんなど女性特有のがんのほか、妊娠を希望するあるいは妊娠中にがんが分かった場合の対応、外見の変化に対するアピアランスケア、遺伝性腫瘍と着床前診断など、関心が高まっている話題について活発な議論がされることを期待しています。
癌治療学会は、がん医療をよりよいものとするために、他の学会に先駆けて患者さんやご家族が学術集会に参加し、共に考え学びあうことを大切にしてきた歴史があります。今回もがん患者・家族支援プログラム(Patient Advocate Leadership:PAL)として、PAL委員会が運営と企画を担当したリーダーシップ養成のためのプログラムを準備しています。
さらにシンポジウムとして企画した「癌治療継続における課題 ~医療経済の視点から~」では、近年治療に用いられる薬剤が非常に高額化していることをどのように考えるか、患者さんと医療者双方の視点から議論いただく予定です。「緩和医療への移行における課題 ~臨床診療の現場~」では、積極的な治療からつらい症状を和らげる医療に移っていく際のコミュニケーションのあり方について、共に考えていきたいと思っています。
癌治療学会はがんに関する幅広い領域のテーマを扱うため、さまざまな専門分野の医師、そして多くの職種の医療者が参加します。ご自身の専門分野に留まらず、幅広い参加者と交流して視野を広げ、研究や診療に新たなアイディアを取り入れていただきたいと思っています。ぜひ多くの方にご参加いただけることを期待しています。
日本はこれまで世界に誇る国民皆保険制度の下で、世界でも最先端の治療が比較的安価に受けられる状況にありました。しかし、制度の持続性を鑑みると、既存の枠組みの中では高額な最新の医薬品や医療機器を導入することが、年々難しくなりつつあります。また、医師の働き方改革によって時間外労働時間に上限が設けられたこと、診療報酬の改定が物価の上昇に追い付かないために厳しい経営状況にある病院が多いことなどから、今後はがん医療においても地域格差が広がっていくことを懸念しています。
私自身は婦人科腫瘍を専門としてきました。これからも目の前の患者さん一人ひとりのために力を尽くす臨床医であり続けたいと思っています。がん治療の目的は単に「治す」ことに留まらず、患者さんの「どのように生きていきたいか」という思いや考えを考慮しながら、それぞれの方に応じた適切な医療を提供することに変化してきています。私の研究室で今最も力を入れて取り組んでいるのは、がん患者さんのサポートケアです。独自に開発したアプリを用いて患者さん自身に日々の体調を記録いただくことで、心身の状態を客観的に評価し、医療者とのスムーズなコミュニケーションを促すことを目指します。前向きに治療に取り組み、よりよい生活を送っていただけるように患者さんを支えていきたいと考えています。
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