医療のDX(デジタルトランスフォーメーション)により医薬品や医療機器などの製造から廃棄までのライフサイクル全体を追跡可能にする「Seeプラットフォーム」構築を進めている医療トレーサビリティ推進協議会(医ト協)は、医薬品流通の可視化と最適化を実現するための第1段の実証実験を実施、有効性が確認されたと発表した。この結果を踏まえて次のステップの実験を行う。
人口の減少と高齢化の進行、医療資源の地域格差拡大、大規模災害の頻発などで医療従事者の負担が増大する中で、医薬品・医療機器などの流通情報や使用状況をトレースすることにより業務の円滑化を図ることは急務となっている。今回の実証実験は、平時から医療トレーサビリティ (追跡可能性)を確立しておくことが災害発生時にも有効であるかを検証するために行われた。
医ト協の「Seeプラットフォーム」構想は、医療資材を生産する工場から輸送、医療機関、患者への処方という“川上から川下”まで一貫した管理をすることで医療の効率化と患者の安心・安全確保に向けたサービス提供を目指すもの。加えて▽医療現場とデータの統合による医療ビッグデータの推進、新薬開発の効率化▽偽薬防止▽副作用情報・製品回収などへの対処の容易化▽災害・パンデミックの緊急時対応の高度化▽健康管理など新サービスの創出――なども見込まれるとしている。管理には国際的な商品識別コードGTIN(Global Trade Item Number)を用いる。
2021年1~2月にかけて行われた第1段の実験は、医薬品を対象にメーカーから医療機関までの流通、自治体との情報連携について検証した。
具体的には、神奈川県厚木市のメーカー倉庫から北海道函館市の病院までのダミー医薬品を用いた輸送で
1)GDP(Good Distribution Practice)遵守
・輸送及び保管時の位置・温度情報管理
2)在庫最適化
・医療機関の在庫量、使用量からの発注量及び地域包括ケアエリアの最適在庫量シミュレーション
3)災害時支援
・被災エリアへの最適供給量及び供給ルートのシミュレーション
・医療救護所での医薬品管理業務の標準化・デジタル化
・災害対応情報共有
――の機能別に検証した。
実験で、以下の成果が確認された。
1)GDP遵守
輸送・保管中のダミー医薬品を「品目」「ロット」で捉え、リアルタイムに温度・位置情報を集約、サプライチェーン全体を通じて適切に品質情報や入出荷情報が管理されていることを確認。
2)在庫最適化
・平常時:荷主が変わっても温度・位置情報を正確にトレース・管理することが可能。災害が発生した場合に素早く初期在庫として活用が可能に。
・災害時:平常時に救護所などの近隣医薬品流通機関の在庫を可視化したものを再分配し、必要な医薬品を確保する方法が有効。
3)災害時支援
・避難所・救護所と在庫、需要情報連携として▽在庫情報を精度高く維持することは困難▽発注業務に注力することが有効▽発注業務効率化の体制とプッシュ型支援の仕組みなどが現場の負荷削減に有効――などの示唆が得られた。
・GTIN読み取りスマホアプリの活用で医薬品取り扱い未経験者でも管理業務の作業効率が大幅に改善され、精度も向上した。
・ICT化を進めることで散在している医療システム情報の利活用を、医療者への負担を極力減らしながら実現できるか検証できた。
医ト協は今回の実験の結果を踏まえた改善も視野に入れ、第2、第3ステップで、医療現場での受け入れ・在庫管理、処方から患者服用までのトレーサビリティについて検証を続ける。
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