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連載特集

本当は怖い心房細動 通院・服薬中断後の不調、早めの受診を―8月10日は「ハートの日」

公開日

2021年08月10日

更新日

2021年08月10日

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2021年08月10日

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心房細動は「臨床の現場で遭遇する最も一般的な不整脈」とされる。年齢とともに有病率が増加し、高齢化が進む2050年の患者数は総人口の1%以上、約100万人と予測されている(不整脈薬物治療ガイドライン2020年改訂版) 。自覚症状がないことも多いが、放置すると死に直結する病気の原因にもなり得る。心房細動とはどのような病気で、どうすれば予防できるのか――岐阜ハートセンター循環器内科の佐橋勇紀先生 にお聞きした。

*この記事は横浜市医療局の「医療マンガ大賞」、日本循環器学会との連動企画です。

受診再開した患者「来てくれてよかった」

「心房細動と診断して薬を処方していた患者さんがいつの間にか通院をやめてしまい、ある日脳梗塞(こうそく)で運ばれてくる、ということがごくまれですがあります」。佐橋さんは残念そうに経験を語る。

もちろん、治療を受けるか受けないか、薬を飲むかやめるかなど、基本的には患者本人の意思が尊重され、医師や病院が強制できるものではない。

「それでも、もう少しできることはなかったのかということが気になります」

圧倒的多数の患者はきちんと通院を続け、服薬し、治療に向き合う。だが、医師としては治療を中断してしまった患者の方がより強く印象に残るという。

ただ、“悲劇的な再会”だけではない。いつの間にか受診しなくなった心房細動の患者が、会社の健康診断で心不全を指摘されるなどして戻ってくることもある。

「心房細動で薬を飲まないと、脳梗塞の危険性があることや心不全を発症することがあります。心不全の患者さんでは、命に関わるような重い心不全もありますが、むくみや体重増加・息切れなどの症状が現れることが多いです。そうした患者さんに対しては、『早く来ていただけると治療することも比較的簡単なのでよかった。これからも気軽に受診してください』とお話ししています」

患者側からは受診を“投げ出した”ことで後ろめたい気持ちを持つことがあるかもしれない。だが、医師は「なぜ来なかったのか、服薬をやめたのか」ではなく、「来てくれてよかった」と思うという。一度受診をやめてしまっても、ちょっとした不調や異常を感じたときにはためらわずに医師に相談することが大切だ。

放置してはいけない3つの理由

健康な心臓は、規則正しく拍動している。心房細動の「心房」とは4つある心臓の部屋のうち、上側にあって全身や肺から心房に戻った血液を心室に送っている。心房細動では、心房の筋肉がけいれんしたように細かくふるえ、脈が不規則になるのが特徴だ。

図:PIXTA

心房細動そのもので命を落とすことは少ないが、心房細動を放置してはいけない理由が大きく分けて3つある。

  • 脳梗塞(心房細動が原因で起こったものは「心原性脳梗塞」といわれる)
  • 心不全
  • 突然の動悸症状

――を引き起こすことがある。

心房細動が起こると心臓の中で血液が滞留してしまい、血栓(血の塊)ができやすくなる。その血栓が血流に乗って脳まで運ばれ、脳の血管に詰まると脳梗塞が起こる。

心房細動が起こると脈拍が毎分120~150回 に跳ね上がり、心臓が耐えきれなくなって心不全が起こる。症状が重い場合には人工呼吸器を使用する必要が生じることもある。

仕事中や就寝中、休んでいるときでも予期せず心臓が激しく鼓動するのも、心房細動で起こる症状の1つだ。

「心房細動を放っておいてはいけない理由がこの3つです。非常にありふれた病気ですが、自覚症状がないことも多いため、まずは早期に発見することが大切です」と佐橋さんは言う。

早期発見のための「検脈のすすめ」

心房細動には

  • 1日24時間のうちほとんどは正常だが、時々脈が乱れる「発作性」
  • 常に脈がバラバラな「持続性」

――の2つのタイプがある。持続性は健康診断の際の心電図検査で診断されることが多いが、発作性心房細動の際は検診などでは指摘されないことも多い。

「検診や医療機関での心電図検査は長くても数十秒です。その間に心房細動は起こらないけれど、患者さんの話から心房細動の存在が疑わしい場合には24時間記録できる心電図を使って測定します。ほかに、自分で脈を触ってみる『検脈』をして、脈がバラバラになっていないか調べてみることも早期発見につながります」

検脈は、手首の親指側、触ると「トクトク」と感じられる部分に指2本を当て、30秒ほど脈のリズムを確かめる。

「脈が不規則になるのは心房細動だけではありませんが、そのような状態であることが分かったら、まずはかかりつけや近くのクリニックで相談してみてください。『検脈してみたら脈がバラバラなので来ました』とお話しいただければ、早期発見につながることもございます」と佐橋さんがアドバイスする。

患者の自覚症状で多いのは「動悸」「息切れ」だという。100mダッシュした後のように心臓がバクバクと拍動し、心拍も毎分120~150回になって呼吸も荒くなる。中には自分で動くことができず救急搬送されるケースもある。

最近の傾向として、心電計機能があるスマートウオッチなどウエアラブルデバイスで不整脈が見つかり、受診するケースがあるという。

「この3カ月で2回、スマートウオッチで不整脈が見つかったという方がいらっしゃいました。寝ている間に脈が毎分160回になっているのが分かったという方もいました。このような機器が今後普及すれば、より早期発見につながる可能性があるでしょう」と、期待する。

リスクファクター改善で予防を

心房細動になりやすい条件はあるのだろうか。

「心房細動は、年齢が上がるほど起こりやすくなります。ほかに、高血圧や心不全、糖尿病、喫煙、肥満と、睡眠時無呼吸症候群も心房細動のリスクファクターです。意外かもしれませんが、それらに加えて過度なアルコール摂取も心房細動を引き起こすといわれています」

したがって、心房細動を予防するにはこれらのリスクファクターを改善することが重要だ。生活習慣を見直して肥満を改善、高血圧や糖尿病、心不全は治療を受ける。禁煙し、アルコールも「適量」を守る――。それによって心房細動のリスクは低減できることが期待されている。

治療の重要性と選択肢

心房細動には、2つの治療法がある。1つはカテーテル手術や薬剤によって心房細動を抑える治療、もう1つは脳梗塞を予防するために血液をサラサラにして血栓ができにくくする薬(抗凝固薬)を服用することだ。

カテーテル手術は、足の付け根などの太い血管からカテーテルという管を差し込み、心臓の中で心房細動の原因になる電気刺激が左心房に入らないようにする「肺静脈隔離術」と呼ばれるもの。局所麻酔で行い、少ない体への負担で根治が期待できる。

また、心房細動の患者は、脳梗塞を予防するために抗凝固薬も飲み続けなければならない。

「患者さんの中には自覚症状がない方がいらっしゃいます。自覚症状もないのに、薬を飲み続けるのは大変だということは理解できます。しかし薬をやめ、脳梗塞になって重い後遺症を残してしまった方もみてきました」と話す。

脳梗塞は命を落とすことも珍しくなく、そうでなくても寝たきりになったり、つらい思いをしながら長期間のリハビリを余儀なくされたりすることも多い。

「医療関係者は、脳梗塞がいかに大変な病気かを知っていますが、患者さんは実際に脳梗塞になった姿やリハビリ生活を想像しにくいのでしょう。その意識をすり合わせることが、しっかりと治療を継続することにつながると考えます」

ここ数年で、患者の心房細動への理解は深まり、薬剤やカテーテル治療の有効性が高まっている。

「心房細動は怖い病気で、早期診断ができ適切な治療を受けることが非常に重要です。こんな病気があるということを知り、普段からご自身の“脈”に関心をもっていただきたいと思っています」
 

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