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日本の「基幹産業」になりうる製薬業―世界の中で生き残るには

公開日

2022年01月11日

更新日

2022年01月11日

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2022年01月11日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2022年01月11日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

中外製薬・奥田修社長インタビュー【中編】

医療が進歩し、“治る病気”が増えた理由の1つに「新薬の登場」があります。「病気」そのものから「臓器」「遺伝子」「免疫機構」など、薬の標的は細分化が進む一方で、新薬の開発にはますます巨大なリソースを要するようになりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬として承認された抗体カクテル薬「ロナプリーブ(一般名:カシリビマブおよびイムデビマブ)」の開発・販売を手掛ける中外製薬、奥田修社長CEOへのインタビュー中編は、製薬業界の課題と展望などについてお聞きしました。

1つの新薬開発に資金は3000億円、成功確率3万分の1

製薬会社は新薬が作れないと患者さんに届けられませんし、売り上げ・利益が出せません。したがって、新薬を作ることが企業としてもっとも重要なことです。

では、最近の新薬開発事情はどうなっているか――。1つの新薬を作るのに、莫大な資金が必要となっています。医学の進歩で、分子標的薬のような薬が多くなっていることもあり、少し前のデータになりますが、新薬を1つ開発するのに失敗のコストを含めて26億ドル(約3000億円)かかり、成功確率は3万分の1といわれています。さらに臨床試験にかかるお金も増えています。かなりの投資余力がないと新薬が創り出せない状況になり、大きな製薬会社も合併をしてより大きなグローバル企業になることを繰り返してきました。

医薬品のもう1つの特徴は出願からの特許期間が20年で、その間は基本的に価格が大きく下がりません。それが、特許期間が切れた瞬間にジェネリック(後発薬)やバイオシミラー(バイオ後続品)が出て、価格が一気に下がり売り上げが激減します。これは「パテントクリフ(特許の崖)」といわれます。

大きな(売り上げのある)製品を持っている会社ほど、パテントクリフの影響が大きくなります。これをしのぐ1つの手段は、まだ特許が残っている大型製品を持っている会社と合併して収益を確保するとともに、重複している機能を効率化してスリム化を図り、利益体質を強化することです。これを繰り返してきたことが製薬業界の「メガマージャー(巨大企業同士の合併)」の基本です。

創薬力、つまり新薬を創り出す力がないと製薬企業は生き残れません。大型企業同士の合併は、今後あまりないかもしれません。ただ、低分子医薬品、抗体医薬、遺伝子治療薬、核酸医薬品、再生医療――と、製薬のモダリティ(薬の素材と機序、治療手段の総称)は増えています。そうした技術に特化したベンチャー企業に対するM&A(合併・買収)によって技術を取り込むことも選択肢としてあり得ますし、これからも増えていくのではないかと考えます。

日本の「基幹産業」になりうる製薬産業

世界を見渡しても「薬を作れる国」はそれほどたくさんはありません。アメリカ、スイスに次いで日本の新薬開発力は3位ぐらいです。

製薬産業は日本にとって重要な基幹産業であるべきだと考えています。日本の患者さんに必要な医療を届けるという意味もあります。同時に、ここから産業を回していく、もっと端的に言うとたくさん税金を納めて国の財政に貢献するという形がいいと思っています。実際、製薬産業の担税力は自動車産業に次ぐ力を有していました。担税力をさらに強化していくことは、日本の経済発展にも寄与します。

そうした中で、日本の製薬企業の進むべき道は2つに分けられると思います。

1つはグローバルサイズの会社になること。製薬企業の研究開発成功確率は低く、新薬を創り出すにはお金がかかります。グローバルトップクラスの会社は研究開発費に1兆円以上使っています。それだけの投資をするためには、5兆円程度の売り上げが必要です。売り上げも研究開発費も世界トップクラスの会社を目指すのが1つの道です。

もう1つは、日本をベースに研究開発をして海外での開発・販売はパートナーに任せることです。中外製薬はロシュという特定のパートナーを持っていますが、企業によっては特定のパートナーに限定する必要はないかもしれません。

どちらの道を選ぶにせよ、重要なことはグローバルに通用する創薬力です。
 

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