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「きょういく」と「きょうよう」で孤立防止―離れて暮らす両親は上手に周囲に頼ることも

公開日

2022年10月27日

更新日

2022年10月27日

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2022年10月27日

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少子高齢化に伴い、一人暮らしの高齢者は増加傾向にあります。離れて暮らす高齢の両親を心配したり、自身の老後の暮らしに不安を抱いたりする方もいるのではないでしょうか。さらに近年は、前編にあるように、新型コロナの影響で高齢者の孤立が深刻化しています。高齢者が陥りやすい「孤立」は、認知症や脳卒中の発症リスクになり得るなど健康に影響を与えることが分かっています。高齢期の孤立を防ぐために、中高年のうちからどのようなことを心がけるとよいのでしょうか。また、高齢の家族を孤立させないためにできることはあるのでしょうか。東京都健康長寿医療センター研究所 研究副部長の村山洋史先生にお話を伺いました。

そもそも「孤立」はダメなことか

そもそも論として、孤立するのはダメなことか、という問題はあります。しかし、孤立や孤独が健康リスクとなる以上、高齢社会で今後一人暮らしの高齢者が増えていくのが避けられない中、社会がどのような対策に取り組んでいくかが重要になります。

高齢者で特に課題となっているのは「孤立」といわれていますので、まずは高齢の方の孤立を防ぐために有効な対策をご紹介します。キーワードは、「きょういく」と「きょうよう」です。といっても、年を取ってからの“勉強”を押し付けるわけではありません。「今日行くところ」と「今日する用事」が孤立を防ぐために有効ということです。社会活動や地域活動を行っていないことは、孤立のリスクになり得るといわれているので、自分のできる範囲で、週に1回でも好きな活動に取り組むとよいと思います。ボランティアでも趣味の活動でも、町内会でも何でも構いません。

また、活動に参加する際には、何でもよいので役割を見つけることをおすすめします。「参加しているだけ」では長続きしないケースが多いからです。継続するためには、自分がそこに参加する意義を感じられることが大切だと思います。たとえばリーダー的役割を担当するのは分かりやすい例だと思いますが、お茶を出す、受付をする、道具を出すなど内容は何でもよいでしょう。何らかの役割を担うことで「そこにいる意味がある」「人の役に立てている」と思えることが活動を続けるモチベーションになると思います。

中高年のうちから準備を

お話ししたような「きょういく」や「きょうよう」を、退職してすぐに見つけるのは難しいかもしれません。中高年の方たちには、仕事を退く前から好きなことややりたいことを長い目で見て探しておくことをおすすめします。

週に5日取り組むような活動を探す必要はありません。退職後、週に1回でもよいので自分のできる範囲で取り組むことができる活動を探すようにしましょう。必ずしもボランティアや町内会、趣味のような活動でなくても構いません。それまで従事していた仕事と退職後の活動の落差に戸惑う方もいると思いますので、週に1〜3回ほど仕事をするのもよいと思います。実際にやってみて「週に3回はしんどい」であったり、「通勤が疲れる」などと感じたら、少しずつ勤務日数を減らしたり地元に根差した活動に変えたりしていけばよいでしょう。

また、「高齢になった時にあんな風になりたい」と思える人を職場や地元で見つけることをおすすめします。アドバイスをもらったり気になることを質問したりするなど、退職後の過ごし方のヒントをもらえる可能性があるでしょう。

離れて暮らす高齢家族、ご近所に不安を伝えることも

読者の中には、故郷が遠く、お盆とお正月だけ帰省しているという方も少なくないと思います。もし離れて暮らす家族が高齢で不安であれば、見守りセンサーのようなものを使うのも1つの方法ですが、思い切って近所の方たちに「両親が高齢で心配している」と打ち明けてみるのも非常に大切だと思います。

「お子さんが時々帰っているから大丈夫だろう」と思われているケースもあるからです。不安を伝えることが、地域の方たちがご家族を見守るきっかけになるかもしれません。さらに、可能であれば地域の行政機関に相談してみるのもおすすめです。

実際に、地域で高齢者を見守る活動が行われているケースもあります。一例としていくつかの地域で行われている「黄色いハンカチ運動」をご紹介します。これは、一人暮らしの高齢者が朝起きたら黄色いハンカチをベランダや玄関に掲げて、夕方戸締りするときに外す取り組みです。安否確認の意味合いで実施されています。このように、地域で独居の高齢者を見守る取り組みも行われていますので、ひとりで抱え込まず、遠方であるほど上手に周囲を頼ってほしいと思います。

写真:Pixta

「同居」が孤立のリスクにも

意外に思われるかもしれませんが、独居だけでなく「同居」も孤立のリスクになることがあります。誰かと同居している方が孤立しやすい、という複数の研究結果が明らかになっているのです。

これにはさまざまな理由が考えられます。同居していても、昔のように誰かが常に家にいるわけではなく、皆働いていたり生活は別々であったりというケースも多いようです。実際は孤立状態であるものの、周囲の方たちが「家族と一緒だから安心だろう」と注目しないことで、さらに孤立してしまうことが考えられます。

もし高齢のご家族と同居している場合は、「一緒に暮らしているから大丈夫」と思わず、まずは一日をどう過ごしているか把握するとよいと思います。ずっと家にいて、一人で過ごしているケースもあるからです。同居していながらも孤立状態であると分かった場合には、家族として関われる部分があれば関わるのもよいでしょうし、難しければ周囲にサポートをお願いするのも1つの方法だと思います。

「つながらない自由」も尊重する対策を

冒頭の「そもそも論」に戻ると、孤立は常に避けるべきものではないと思っています。誰しも一人になりたいときがあるでしょう。私は積極的に介入することだけが必ずしも善とは限らないと思っています。温かく見守ること、つまり「安心して孤立できる」ことも大切なのではないでしょうか。

助けがほしいとき、つながりがほしくなったときには、人とつながることができる社会になることも孤立予防に有効だと思います。「つながらない自由」も尊重しながらゆるやかにつながり、必要なときにはきちんと手を差し伸べるような対策が重要になるでしょう。

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