医師会は国民や現場で働く医師を守るためにさまざまな活動を行っています。しかし、医師会がどのような団体であるのか、なかなか具体的なイメージがつかない方は多いかもしれません。「若手医師が抱える不安や困り事、医師会への疑問などを聞き、医師会の活動につなげていきたい」と語る神奈川県医師会理事の磯崎哲男先生(小磯診療所院長<横須賀市>:53)と小松幹一郎先生(小松会病院名誉院長<相模原市>:50)が、若手医師4人の意見、質問に答えます【座談会前編】。
(写真左から)
鈴木先生
皆さんは今それぞれ大学や医局に所属されていると思いますが、いざそこから離れたときに医師を守ることができるのが医師会だと思います。現場で働く医師に対し、なぜ医師会の存在や取り組みがなかなか伝わらないのか、今日は皆さんの質問や意見を聞きながら勉強したいと思います。
櫻井先生
「医師会」がどういうものなのか、これまで見聞きする機会がほとんどありませんでした。唯一あるとしたら、「開業したら地元の医師会に挨拶に行く」といった話を研修医時代に聞いたことがあるくらいです。私たちが医師会に加入するとどのようなメリットがあるのかなど、具体的に教えていただきたいです。
磯崎先生
医師会がどのような団体なのかが現場の先生たちに伝わっていないのは、こちらからの情報発信が不足している証拠だと思います。もしかすると「開業したら医師会という縄張りに入れてもらう」みたいな少し怖いイメージがあるのかもしれませんね。開業をきっかけに医師会に入る先生は確かに多いですが、入る/入らないはもちろん自由です。私も医師会に入るまでは「医師会は開業医のための団体」というイメージを持っていましたが、実は医師や国民を支えるためにさまざまな活動を行っています。
加入するメリットの1つには、日本医師会医師賠償責任保険制度(医賠責)があります。これは医事紛争が起こった際、紛争解決の全面的な支援が得られる制度で、保険料は医師会の会費に含まれています。また、神奈川県医師会の会員は、低金利で融資が受けられる神奈川県医師信用組合を利用することができます。医師は医局人事などで勤務先が頻繁に変わるため、銀行からすると「数年おきに転職を繰り返している人」とみなされてしまい融資のハードルが高くなるので、信用組合を利用できることは大きなメリットになると思います。
小松先生
医師会は「医師が医師であることを守る団体」です。病院で仕事をしている間は何かあれば病院という組織が守ってくれますし、今は病院の中に夢中になれることがあるので、病院の外に目を向ける機会は少ないかもしれません。しかし近い将来、先生たちの中にも、病院以外に活動の場を広げたり、フリーランスの道を選んだりすることもあるかもしれません。そうして、自分で自分の身分を守る立場になったときに「医師会に入っていてよかった」と感じる機会が増えると思います。病院で働く医師に対しては、彼らが仕事に専念できる環境をつくるために行政との交渉などを行っていますが、何か直接的なメリットを提供できているわけではない、というのが正直なところです。日本医師会会員の半数以上は勤務医ですので、そうした先生たちにも、もっとメリットを感じてもらえる団体を目指していく必要性は感じています。
また医師会は、予防接種や学校健診・乳幼児健診、学校医、介護認定審査委員など、地域におけるさまざまな医療活動を担っているので、病院で働いているだけでは得られない経験を積むことができます。また、小さなお子さんを育てていて常勤で働くことが難しい医師でも「この仕事なら手伝えそう」というものが、医師会の活動で見つけられるかもしれません。
紫葉先生
神奈川県医師会や日本医師会など、医師会にもいろいろあると思うのですが、どのような医師会があって、それぞれどのような役割を持っているのかがよく分かっていません。また実際に「医師会に入ろう」と思ったとき、どの医師会に加入すればよいのでしょうか?
磯崎先生
医師会は「郡市区等医師会(以下、地域医師会)」「都道府県医師会」「日本医師会」の3層構造で成り立っています。先ほどお話しした地域での医療活動を行う医師を取りまとめているのが「地域医師会」。その地域医師会の声を吸い上げて、都道府県とともに医療政策を考えるのが「都道府県医師会」です。そして、国(官公庁)に対してはたらきかけ、国レベルで医療問題を解決するのが「日本医師会」です。
医師会に加入する際は、原則として3つ全ての医師会に入ることになっています。なお、郡市区や県をまたぐ転勤があった場合、同時に転勤先の医師会に異動する必要があります。加えて、手続きはインターネットでできず面倒なので、転勤が多い医師については日本医師会だけの加入を認めることや、異動手続きを簡便にすることなどが医師会内の検討課題として挙がっています。
小松先生
若手医師など条件によっては医師会会費が無料なのはよい点ですが、それでも加入や異動の手続きが面倒であれば入りたくありませんよね。ですから、個人的には日本医師会だけの加入というカテゴリーを設定してもよいのではないかと考えており、その点は今後変わっていけばよいなと思っています。
山本先生
ほかの先生方と同じように、医師会が何をしているのか分かりづらい、というのは正直感じていました。また、加入することによって、かえって負担が増えてしまうのではないかという心配もあります。
磯崎先生
医師会の規模によると思いますが、規模の小さな地域医師会だと確かにいろいろな仕事が回ってくる可能性はありますね。
小松先生
メリットだけを考えれば、ほかにもっとよいアルバイトはたくさんあるでしょう。日々の診療だけでも忙しいなかで医師会の仕事をするには、ある程度のボランティア精神は必要だと思います。ただ、いくら協力したいというボランティア精神があっても、周りの医師がどれくらいの仕事を請け負っているのかが見えないと、自分だけが頑張っている気がして「引き受け損」だと感じてしまうと思います。医師会の活動に参画してもらうためには、「どのくらいの仕事量を何人で分担している」ということが分かるデータをきちんと示していき、納得感を持ってもらうことも大切だと感じています。地域の医療事業を継続するための人材確保と適切な采配を行うことは、地域医師会の重要な責務ですね。
中島先生
磯崎先生も小松先生も日々の診療や病院運営で非常に多忙であるにもかかわらず、医師会理事としても活躍されていますが、そのモチベーションは一体どこから湧いてくるのでしょうか。医師会の活動にかける思いなどを知ることができれば、私たちも協力したいと思うきっかけになると思うので、ぜひ聞かせていただきたいです。
磯崎先生
同じく理事の立場にいる先生たちは、みな高いモチベーションを持っていることは近くにいて感じていて、それぞれに違う思いを持っていると思います。私の場合は「日本の医療をよりよく変えていきたい」と考えたときに大きな組織に所属していたほうが実現できる可能性が高いのではないかと思い、これまで医師会での活動を続けてきました。
小松先生
私は急性期病院で神経内科医をしていたときに、父が経営していた療養型病院を引き継ぐことになり、同時に相模原市医師会や病院協会での活動が始まりました。そこで初めて回復期リハビリテーションや慢性期医療のことを知り、自分が知らない医療の世界がたくさんあることに気付きました。医師会や病院協会の先生方は、私に対してとても寛容に接してくださり、無邪気な意見にもきちんと耳を傾けてくれました。意見をしてきた立場として、その責任を果たしていかなければという思いを持っています。
また1人の病院経営者として、地域医療構想や医師の働き方改革など今病院を取り巻いている課題を医師会内で伝えていかなければならないとも感じています。何かを変えていきたいと思ったとき、自分1人(I)ではなく、私たちみんな(We)として力を発揮できる場所が医師会だと感じています。
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