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ウーマンヘルスケアとの新しい向き合い方とは? 女性の人生・キャリアを守るために今できること

公開日

2022年04月06日

更新日

2022年04月06日

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2022年04月06日

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国内では2022年4月にHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン定期接種の積極的勧奨(自治体から対象者に個別に接種をすすめること)が再開されます。HPVは性経験を持つ女性の50~80%が生涯に一度は感染するといわれるごくありふれたウイルスで、子宮頸がんや肛門がん、尖圭コンジローマなど多くの病気の原因となります。定期接種の対象を過ぎた20~40歳代の女性はワクチン接種をどう捉えたらよいのか、後回しになりがちな自身の健康について誰に相談したらよいのかなど、「国際HPV啓発デー」の2022年3月4日に開催されたイベントから「ウーマンヘルスケアとの新しい向き合い方とは? 女性の人生・キャリアを守るために今できること」の内容をお伝えします。

*イベントは動画でも視聴が可能です。

HPVワクチン定期接種を過ぎた世代はどう考えたらよいの?

  • 宋美玄先生(産婦人科専門医、医学博士)
  • 三原じゅん子氏(参議院議員)
  • やまざきひとみ氏(Ms.Engineer代表)
  • 司会:松岡綾乃氏(メディカルノート取締役 CCO兼CPO)

松岡氏:定期接種の世代やキャッチアップ接種*対象の世代に対するHPVワクチン情報の発信が行われていますが、それよりも上の世代の方は接種についてどのように考えたらよいのでしょうか?

*1997年4月2日~2006年4月1日生まれの女子(過去にHPVワクチンを合計3回受けていない者)に対して、公費でHPVワクチン接種を提供すること(期間は2022年4月から2025年3月まで)

宋先生:こちらのセッションでもお話があったように、基本的にはセクシュアル・デビュー(初交)前にHPVワクチンを接種するのがもっとも効果的とされています。ただ、初交の世代を過ぎた方で「自分は打ったほうがよいのか」と気になる方も多いでしょう。HPVは性的な行為で人から人へ感染するウイルスなので、自分がどのくらいウイルスをもらうリスクが高いのかで考える必要があります。たとえば「私は一生、性行為をしない」「すでに結婚して決まったパートナーとしか性行為をしない」という方なら、今後感染するリスクは低いといえます。

一方、これから複数の人と性行為の機会を持つ可能性がある方であれば、たとえ初交後であっても接種する意味は大きいでしょう。また、パートナーに複数のセックスパートナーがいる場合にもリスクは高まります。このようにライフスタイルなどにより感染リスクは異なりますので、ご自身が新たにHPVに感染するリスクをきちんと評価して接種を検討いただくのがよいと思います。

MN撮影

松岡氏:やまざきさんはHPVワクチンに関してどのような印象をお持ちでしたか?

やまざき氏:母が子宮がんに罹患したこともあり、私自身は元々この分野へのアンテナが高く、自分もリスクがあると若い頃から思っていました。ただHPVワクチンを公費接種で受けられなかった“はざまの世代”で、どうなるのかなと思いながら20歳代が終わりました。特に気になり始めたのは、30歳代で子どもを持ってからです。「自分も子宮がんになるかもしれない。でも子どもを残して死ぬわけにはいかない」と。ワクチンやがん検診についてたくさん調べましたが、HPVワクチンを自費で打つ場合は非常に高額で、接種するか判断がつきません。私は37歳です。同じような状況の方は多いと思いますが、実際のところ、多少お金をかけても接種するべきでしょうか?

宋先生:お金の価値や感覚は人それぞれ違うので難しいですよね。現在HPVワクチンには2価・4価・9価の3種類あり、自費診療では3回接種の合計で2価・4価が5万円ほど、9価が10万円弱です(※医療機関により異なる)。2価・4価では50~70%ほど、9価では90%ほどの子宮頸がんを防ぐことができます。

では、実際に子宮頸がんや異形成(前がん病変)になったとしたらどうでしょう。異形成であれば命を失う可能性は低いですが、数か月おきに通院が必要で、控除があるとはいえ医療費はかかりますし、円錐切除術(子宮の入り口をくり抜く手術)が必要となればさらに医療費はかさみます。経済面にとどまらず、精神的な負担も大きいでしょう。5万10万というのは大きな金額ですが、実際にワクチン未接種で異形成や子宮頸がんが見つかった方の多くは「打てばよかった」と悔やんでいらっしゃいます。

松岡氏:三原先生は公費接種を受けられなかった“はざまの世代”に対する無償接種の議論にも関わっていました。

三原氏:私は、実際に子宮頸がん(浸潤がん*)に罹患して子宮を全摘しました。子宮全摘後の女性の苦しみや心の葛藤がよく分かるがゆえに、感染するリスクが少しでもあるならばHPVワクチンの接種をしてほしいと思います。検診だけでがんを見つけるのは難しいので、ワクチンを接種することでがんの心配をせずに長い人生を明るく楽しく過ごしてほしいのです。がんを予防できる素晴らしいワクチンがあるなら、自分と同じような思いをする女の子を1人でも減らしたいと思い、孤軍奮闘しました。ようやく積極的勧奨の再開が決まり、本当にありがたいと感じています。

*浸潤がん:子宮頸がんのうち、進行し周囲の組織に入り込んだ状態のもの。

働き盛りの世代の女性が将来の健康ために気を付けるべきこと

松岡氏:感染リスクやがんにかかる可能性をどれだけリアルに捉えられるかが重要かと思います。20~40歳代など働き盛りの女性が意識すべきことや、将来の健康ために今から気を付けられることはありますか?

MN撮影

宋先生:子宮頸がんの予防としては、まず「HPVワクチン」です。もちろんコンドームをしたほうが感染しにくいですが、それだけで防ぐのは困難です。またセックスパートナーをできるだけ固定することも、性感染症予防の観点では大事ですね。早期発見の観点では「検診」が重要になります。20~30歳代であれば子どもを産むか産まないか、あるいは何人産むのかというのが1つの命題になってきますよね。そして、仕事ではキャリア形成期でもあると。そういう大切なことがギュッと詰まっているのが20~40歳代の特徴です。

それらの判断に必要な知識を学校などで得られたらよいですが、残念ながら現在の義務教育や高校・大学で学ぶ機会はありません。そのため、日々更新される情報を自らアップデートし続けなければいけない状況なのです。私は企業の方向けに「女性の健康セミナー」を数多く開催しています。そのような機会を通じて知識を得るのも1つですし、あるいはかかりつけの産婦人科医に生理やがん、妊活などを丸ごと相談できる環境があるとよいですね。そして必要に応じてピルやホルモン療法を受けるというイメージです。

やまざき氏:私は、体力的な負荷による体への影響が心配です。働くことと子どもを産み育てるというライフイベントが一気にやってきて、何とか乗り越えようとしていますが、これをあと10数年続けたとき心身にどのようなリスクがあるのだろうと不安を感じています。

宋先生:私も2人の子どもを育てながらワンオペ状態で仕事もセーブせずにいるので、体がボロボロです……。若い頃に自分の体力を過信して無理をすると後々影響が出るでしょうし、過労によるメンタルの失調も起こりえます。産業医の話を聞いてみると、厳しい労働環境やワークライフバランスの崩れが心身の健康を乱し、働けなくなってしまうケースも多いようです。この問題に関しては医療のサポートだけでは難しく、社会全体で子育ての負担を軽くする仕組みを構築する必要があると感じています。自戒の念を含め、1つ言えるのは「無理は禁物」だということです。

三原氏:働き盛りの女性たちは本当にすごい。働きながら子育てや家事をして……。昭和には終身雇用が前提の夫と専業主婦という家庭も多かったですが、今は状況が違いますからね。諸外国のように男性が普通に家事や子育てをする、それが当たり前の国を作らないといけません。女性ばかりが負担を背負うなんて、たまりませんよね。たとえば、男性の育児休業はただ育児をしてもらうための時間ではなく「育児や家事を一緒にするのが当たり前」という意識を持つための大事な時間なのです。そういう理解を進めていきたいですね。

MN撮影

宋先生:内閣府の少子化危機突破タスクフォースに携わったときに、少子化や女性の生きづらさといった問題の根底には「子育ての負担が女性に偏りすぎている現状」があると感じました。男性の育児休業に関しては、プッシュ型で義務化すると取得率の向上に大きな効果があります。大学生・大学院生向けキャリア調査では「育児休業を取って積極的に子育てしたい」という男性の割合がどんどん上がっているそうです*。自分たちの世代の価値観がこれからガラッと変わることは難しくても、次世代の価値観や意識は今後の改革で大きく変化する可能性はあると思います。

*2021年3月「マイナビ2022年卒大学生のライフスタイル調査~今の自分と未来編~」(対象:大学生・大学院生3,938人<男子1,215人、女子2,723人>)によれば、「育児休業を取って積極的に子育てしたい」と回答した男子は56.5%(前年比5.0ポイント増)であった。

信頼できる「かかりつけ医」をどう選ぶ?

松岡氏:働いていると忙しくて自分の健康管理がおろそかになりがちです。やまざきさんは「クリニックや病院がこうなったらいいのに」というご意見はありますか?

やまざき氏:どうやったら信頼できる医師に出会えるのか分からないですね。よく体を壊してクリニックにかかりますが、症状ごとに違うところへ行っています。都内にはクリニックがたくさんありますが、選択が難しいです。宋先生のお話を聞いて、かかりつけ医を持つことが重要なのだと感じました。

MN撮影

松岡氏:かかりつけ医はどのように選べばよいのでしょうか?

宋先生:まずは、ホームページなどでその医師が何を大切に診療しているかを確認するのがよいと思います。その理念と自分のフィーリングが合わなければやめたほうがよいでしょう。インターネット上の口コミよりも実際にそのクリニックにかかって医師の人となりを知っている方の口コミが信頼できると思います。皆さんにはぜひかかりつけ医を持ち、不安な症状があればすぐに相談してほしいです。

3人から働く世代の女性へのメッセージ

松岡氏:やまざきさんから本日の感想を、宋先生と三原先生からは働く世代の女性に向けてのメッセージをお願いします。

やまざき氏:HPVワクチン接種を迷いながら何年も経過してしまいましたが、今日お話を伺って多少お金がかかっても接種したほうがよいと思いました。早速、行動に移します。また、働き盛りかつさまざまなライフイベントを迎える私たちの世代はさまざまな負荷がかかる状況にいることを認識できました。自分たち自身がそれを認識するだけで、健康への向き合い方が変わるような気がします。「もっと頑張らなきゃ」と思いがちですが、自分自身のヘルスケアをもっと主体的に考えていくことが大事だと教えていただきました。

宋先生:HPVワクチンを打ってがんを予防することも非常に重要ですし、接種をきっかけにして幅広い世代にかかりつけの産婦人科を持っていただきたいと思います。定期接種の対象である小学6年生~高校1年生はちょうど生理が始まる世代でもあるので、生理や自分の体のことを相談できる相手がいると安心できますよね。そして、将来的には健康や子育て・社会との関わり方などをかかりつけ医に相談でき、それらを考慮したケアを行うことができたら理想的です。私たちは産婦人科医として皆さんのお役に立ちたいと思っていますので、ぜひ頼ってくださいね。

三原氏:HPVワクチンの接種を迷っている方や保護者の方は、宋先生のような医師に相談してみてはいかがでしょうか。インターネット上の情報だけに頼らず、産婦人科医に直接相談することも非常に大事です。働き盛りの世代の皆さんには「頑張りすぎないで」とも思います。女性、特にお母さん世代はご自身の健康を後回しにしがちですが、母親が元気でないとお子さんも笑顔でいられません。これから少しずつ皆の意識が変わり、一人ひとりの生きづらさが減っていくように私たちも努力しますが、大変なときは抱え込まずにかかりつけ医に相談してみてください。

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