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日本癌学会 次世代の若手研究者を応援―秋の学術総会で学生向けがん研究体験セミナーも

公開日

2023年06月21日

更新日

2023年06月21日

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2023年06月21日

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「がん研究者の減少」という重大な社会課題を解決するために、日本癌学会では「#がん治療の種を育てよう」を合言葉に、若手研究者の応援プロジェクトを実施。過去2年の学術総会では、ポスター発表で若手研究者の表彰イベントを行ってきた。2023年9月21〜23日にパシフィコ横浜で開催される第82回学術総会では、これまでの表彰イベントに加え、今年は初の試みとして高校生・大学生を対象としたがん研究体験セミナーが予定されている。プロジェクト発起人の大槻 雄士先生(藤田医科大学医科学研究センター 研究員/慶應義塾大学医学部 先端医科学研究所 訪問研究員)に、がん研究者減少の実態と第82回学術総会におけるプロジェクトのイベント概要を聞いた。

先方提供

がん研究を実体験―高校生・大学生を対象に

今年の学術総会では、未来のがん研究を担う可能性のある高校生・大学生を対象に、がん研究を実体験できるセミナーを行う。企業の展示ブースを利用し、顕微鏡を使ったがん細胞の観察(協力:株式会社ニコン)や簡単な生化学実験などを予定している。それに加えて、現役研究者と気軽に話せる座談会も設ける。参加上限人数は各日程で30人を予定している。

大槻先生は、「学生がサマースクールなどで研究に触れる機会はあっても、『がん研究』を実際に体験できる機会はほとんどありません。これをきっかけに、がん研究に興味を持ってくれる学生が1人でも増えてくれたらと思い、今年初めて企画しました」と、セミナー開催への思いを語る。

会員数5年で900人減―がん研究衰退の危機

日本癌学会は設立当初から、がん研究の発達を目的にさまざまな取り組みを続けてきた。そうしたなかで次世代のがん研究者の育成と支援に力を入れる背景には、日本におけるがん研究者の深刻な減少がある。特に近年は若手の会員が減り、40歳未満の会員数は2016〜2021年の5年間で約900人減少したという。

「癌学会から毎年退会していく人の約半数は若手です。このままではがん研究は衰退し、新たながん治療の登場も遅れてしまいます。今回、学生向け体験セミナー開催にあたり協力企業を募った際は、すぐに複数の企業が手を挙げてくれました。企業もがん研究者の減少に強い危機感を抱いているのでしょう」と、大槻先生は考察した。

「みんな」で育てるがん治療の種―若手へ研究費授与

今年も例年と同様、学術総会でポスター発表をした若手がん研究者(大学生・大学院生)を対象に表彰イベントも実施する。資金はクラウドファンディング(クラファン)で募る。普段、表彰される機会の少ない若手のがん研究者にスポットライトを当て、研究成果を評価することで、研究への意欲を高めるきっかけになればとの思いで始まった企画だ。

昨年の表彰イベントでは65人を選出し、賞状とトロフィー、奨励金を授与したが、今年は受賞者を8〜10人に絞り、研究費として30〜50万円(クラファンの達成金額により変動の可能性あり)を授与する。

「本プロジェクトは、がん研究に関わっている人だけでなく、普段はがんと接点のない人たちも含めて、『みんな』で一緒にがん治療の種を育てていきたい、という思いで始動しました。クラファンで資金を募ることにしたのはそのためです。集まった資金には、支援者一人ひとりの思いが込められています。受賞者には、この貴重な資金を大切に活用して、がん研究の発展に尽力してほしいと願います。日本だけでなく、グローバルな舞台で活躍することを目指してもよいでしょう。このプロジェクトを通して、たくさんの種が育ち、大きな花を咲かせることを祈っています」

ポスター

 

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