月経の3〜10日前に体や心にさまざまな不快症状が現れるPMS(月経前症候群)。 つい我慢してしまいがちなPMSは、毎日のちょっとしたセルフケアで改善できる可能性があります。3月8日の国際女性デーに合わせて「20代からのヘルスケア『PMS』×『漢方』の相性がよい理由」(ツムラなど協賛)をテーマにしたセミナーが行われ、池田裕美枝先生(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 健康情報分野 博士課程)がPMSの基礎知識やセルフケアの方法、さらに体質改善のための漢方活用法をお話しされました(司会:三原勇希さん)。セミナーの内容をダイジェストで紹介します。
※セミナーのアーカイブ配信はこちらからご視聴ください。
ツムラは20〜50歳代の女性1万人を対象に、不調なのに我慢して家事や仕事をしてしまう「隠れ我慢」の実態調査を行いました。その結果、回答者の約8割が「我慢している」と回答し、我慢を続けたことで約6割が体調を悪化させていることが分かりました。また、どんな不調を我慢しているか聞いたところ、1位が「疲れ・だるさ」、2位が「イライラ感」、3位が「不安感」、4位が「PMS」という結果でした。しかし、PMSの存在を知らない方も多く、疲れやだるさ、イライラ感もPMSの一症状である可能性を考えると、PMSを我慢している方は実際もっと多いのではないかと思います。
たった一度であればやり過ごすこともできるかもしれませんが、月経やそれに伴う不調は毎月繰り返されます。我慢するのではなく、ぜひ積極的なケアを心がけましょう。
女性は人生の長い時間を、とどまることのない“ホルモンの波”にのまれながら過ごします。その波の変動が心身の調子に大きな影響を及ぼすため、PMS対策のためにはまずホルモンの波を知ることが大切です。
ホルモンの波は大きく2種類あります。1つは、ライフサイクルにおけるホルモンの波です。女性には思春期、成熟期、更年期、老年期の大きく4つのライフステージがあります。思春期になり女性ホルモンが分泌され始めると、第2次性徴がみられ月経が始まります。ここで初めてホルモンの波が大きく変動します。以降、成熟期にかけて妊娠や出産、授乳を経験したり、過度なストレスが加わったりすることでもホルモンの波は大きく揺れ動きます。その後、更年期になると女性ホルモンが急激に低下し、老年期に至ります。
もう1つは、毎月の月経に伴うホルモンの波です。月経周期には月経、卵胞期、排卵期、黄体期があり、それぞれの時期でさまざまな症状が起こります。特に症状が起こりやすいのが排卵後から月経までの「黄体期」で、ちょうどこの時にPMSが現れます。こうした月経周期に伴う症状は「エストロゲン」と「プロゲステロン」という2つのホルモンの分泌が減ったり増えたりすることで起こります。気分や体調が安定する卵胞期にはエストロゲンの血中濃度が上昇し、PMSが起こる黄体期になるとプロゲステロンが上昇します。
PMSの症状は「体の症状」「心の症状」「社会的な行動の症状」の大きく3つに分けられます。
症状は非常に多彩で個人差があります。たとえば、眠くて仕方がないという方もいる一方で、全然眠れないと言う方もいます。また、体に悪いと頭で分かってはいるもののジャンクフードばかり食べてしまう方も少なくないようです。心の症状も、普段なら受け流せることが気になってしまう、怒りが抑えられない、うれしい/悲しい気分を繰り返すなど人によってさまざまで、これらの症状が社会生活に支障を引き起こす可能性もあります。
PMSの何らかの症状は女性の約8〜9割にみられ、そのうち約3割は治療対象となるPMSだといわれています。さらにPMS全体の約1〜5%の方は、生活の質に多大な影響を及ぼすほどの症状が起こる月経前不快気分障害(PMDD)であると考えられています(数値は統計により異なる)。
PMSは「ホルモンバランスの異常」と理解されていることがありますが、これは間違いです。PMSは卵巣がきちんと機能して排卵が起こり、ホルモンがきちんと分泌されているからこそ生じます。PMSの症状が出るのはホルモンバランスが保たれている証拠なのです。そのため、検査をしても異常が出ません。
そこで、診断のために欠かせないのが「毎日の症状記録」です。月経周期と症状の波の関連を見るために、毎日の症状を記録してほしいと患者さんにお伝えしています。さらに、症状記録はメンタル面の不調ケアにも役立ちます。「イライラしている」「不安で仕方がない」など、今の心の状態を言語化してその程度を記録することで、自分の症状が客観視でき、安心につながります。心の状態が把握できたら、どのように自分をケアしてあげるかを考えることができます。また、どうしようもなく気持ちが安定しないときでも、過去の記録から症状の持続期間を振り返ることで「これは〇日間限定の症状だから大丈夫」と思えば、少し落ち着くこともできるでしょう。
もう1つ、PMSへのケアでおすすめしたいのがメンタルケアです。「心の持ちよう」に頼るのではない、以下“4つの神器”によるメンタルケアをご紹介します。
メンタルケアを実践していくうえで抑えておきたいのが、幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」です。PMSが起こる黄体期にはエストロゲンが減少します。エストロゲンにはセロトニンを活性化させるはたらきがあるため、黄体期にはセロトニン活性が低下してしまいます。そこで、セロトニン活性を補う工夫がPMSのメンタルケアに役立ちます。太陽光にはセロトニンを活性化させるはたらきがあり、また眠りのサイクルを整える効果もあるので、朝起きたら5分間太陽光を浴びる習慣を取り入れてみるとよいでしょう。リズミカルな運動(歩く、縄跳び、かむなど)にもセロトニンを活性化させる効果があります。また、誰かを思いやる気持ちもセロトニン活性につながります。「ありがとう」と伝えることが自分の心にもよい影響をもたらしてくれます。
食事に関しては▽血糖値の乱高下を防ぐ▽カフェインを控える▽たんぱく質を取る▽鉄分、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、ビタミンB6を含む食事を取り入れる――などを心がけてみましょう。
PMSの薬物療法では低用量ピル、選択的セロトニン阻害薬、漢方薬が用いられます。このうち東洋医学の流れを汲んでいる漢方薬による治療は、PMSとの相性がよいと考えます。というのも、PMSは症状がある時だけケアしてもあまり改善しないためです。PMSの時に我慢できなくなる症状は、実は通常から少し気になる症状だったりします。そのため、普段から自分の体調を少し底上げしておくとPMSの時にも症状が楽になるでしょう。
漢方では「気(生きるエネルギー)」「血(血液と栄養)」「水(血液以外の水分)」がバランスよく巡っている状態を健康な状態と判断します。PMSの時期は、「気」と「血」がうまく巡らず(気持ちが安定しない、血液循環の悪化で便秘や冷えが生じるなど)、「水」が過剰になっている(むくみや頭痛が生じるなど)ことが多いです。もともと胃腸が弱い方は、より水の巡りが悪くなりやすく、PMSの症状も出やすくなる傾向にあります。
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PMSへの東洋医学的なひと工夫としては、▽胃腸が弱い場合は根菜類をよくかんで食べる▽疲れているときは棗茶で一息つく▽ストレス過多であればシソやミント、春菊などの香味野菜を取り入れる――などがおすすめです。また、胃腸虚弱に対しては半夏白朮天麻湯、イライラ感には抑肝散が処方されることが多いです。病院で処方される漢方薬のほとんどは保険適用ですので、困っている症状があれば病院で相談してみてください。
漢方のよいところは病気ではなくても飲むことができ、効果がなくてもあまり悔しくないことだと思います。気軽に飲めて、なおかつ自分の不調にきちんと向き合っている実感が得られるので、私は普段から漢方を生活に取り入れています。
本日お話しした女性ホルモンの波や漢方について知っておいていただくことで、PMSに対して自分に合ったケアがしやすくなるでしょう。そうやって自分で自分の体を上手に乗りこなして、しなやかな健康を手に入れてほしいと思います。健康であることは自分にとってはもちろん、元気で自分らしく生き生きと過ごしていることは、何にも代え難い社会貢献につながります。誰かを一生懸命サポートすることももちろん大切ですが、まずは自分自身の体をよく知って、セルフケアに取り組んでみてください。
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