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子宮頸がんなど防ぐHPVワクチン 「知らなかった」で後悔してほしくない

公開日

2024年09月18日

更新日

2024年09月18日

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2024年09月18日

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子宮頸がんなどを防ぐHPVワクチンのキャッチアップ接種の期限が迫っています。3回の接種を理想的なスケジュールで完了するためには9月中に1回目の接種が必要です。一時、積極的な接種の呼びかけが中止されていたため「打つのは怖い」と感じている人もいるかもしれません。そんな不安を解消する一助になればと「みんな意外と打ってるんだ」を可視化した小児科医がいます。“マザーキラー”とも呼ばれる子宮頸がん。「旦那さんとお子さんを残して天国に行ってほしくない」――勝田友博准教授(聖マリアンナ医科大学 小児科)と伊藤秀一主任教授(横浜市立大学大学院医学研究科 発生成育小児医療学)の緊急インタビュー。

無料で接種するためには9月中に1回目を

子宮頸がんなどを防ぐ効果があるヒトパピローマウイルス(以下、HPV)ワクチン。日本では現在、小学校6年~高校1年の女性を対象に定期接種が行われています。しかし、一時、積極的な接種の呼びかけが中止されていたため、接種の機会を逃した一部の年代の女性に対する無料の接種である“キャッチアップ接種”が実施されています。

小児の感染症とワクチンの専門家である勝田友博准教授は「キャッチアップ接種は来年(2025年)3月末まで。HPVワクチンは決められた間隔をあけて3回の接種が必要で、完了まで6か月かかります。1回目を今年(2024年)9月中に打たないと間に合わないのです」と切迫した表情で話します。

「みんな意外と打ってるんだ」がみえるサイト

HPVワクチンをめぐっては接種後に体調不良を訴えた人が相次いだことなどから、一時、積極的な接種の呼びかけが中止されていました。しかし、その後の調査で、副反応と疑われた“多様な症状”はワクチンを接種していない人たちにも同じ頻度でみられることが明らかとなり、HPVワクチンが原因ではないことが確認されました。

「『それでも、やっぱり打つのが怖い』と感じるのは自然な感情です。だから、実際にHPVワクチンを接種した人のデータを確認できるサイトを作りました」と勝田准教授。

日本小児科学会 神奈川県地方会が神奈川県産科婦人科医会と協力して作成しているwebサイト*では、県内のHPVワクチンの接種状況がリアルタイムに更新されています(神奈川県HPVワクチン接種状況:https://kanagawa-hpvgraph.azurewebsites.net/)。

先方提供

出典:神奈川県HPVワクチン接種状況(2014~2017年の接種件数は一部施設からの参考値)

* 神奈川県内でHPVワクチンを接種している医療機関のうち研究への協力が得られた56施設から、2018年1月1日以降にワクチンを接種した患者の情報(年齢、性別、ワクチン接種を希望した理由、接種直後の状況など)を収集している(2027年3月31日までの予定)。過去の接種情報が得られる場合は遡っての登録も推奨している。

先月(2024年8月)の接種件数は364件と、調査開始以来もっとも多くなりました。キャッチアップ接種の期限が迫っているため、駆け込みで接種する人が急増しているのだといいます。

同サイトでは、接種者一人ひとりの「接種希望理由」(何をきっかけに接種しようと思ったのか)、「接種直後の状況」(接種した直後の体調)が公開されています。勝田准教授は「『お友達が打った、隣のお姉さんも打った』と聞くと、『みんな意外と打ってるんだ……自分も打とうかな』と思ってもらえるのではないでしょうか。正しい情報を得たうえで判断してほしい。『知らなかった。有料**だから打てなかった』は避けたいのです」と話します。

出典:神奈川県HPVワクチン接種状況

出典:神奈川県HPVワクチン接種状況

** キャッチアップ接種の期限を過ぎ、自費でHPVワクチンを接種する場合、医療機関により異なるが、3回で10万円程度の費用がかかる(9価ワクチンの場合)。

「旦那さんとお子さんを残して天国に行っていいの?」

実は、同サイトは先行して「静岡HPVワクチン接種推進プロジェクト」として開発・運用されていたシステムを神奈川県でも導入したものです。日本小児科学会 神奈川県地方会の代表幹事でもある伊藤秀一主任教授は、HPVワクチンの接種をすすめる理由を次のように語ります。

「子宮頸がんは子育て世代の母親が子どもを残して亡くなるケースも多く、別名“マザーキラー”とも呼ばれています。日本では毎年約3000人の女性が子宮頸がんによって亡くなっており、その多くは20~40代です。このままHPVワクチンの接種が進まなければ、10~15年後、世界中で日本の女性だけがたくさん子宮頸がんで亡くなります。それは“どこかの誰か”ではなく、女性であればあなた自身かもしれないし、男性であれば大切な奥さんや娘さんかもしれません。私は常日頃からキャッチアップ接種世代と定期接種世代の女性に『旦那さんとお子さんを残して天国に行っていいの?』と問いかけています。小児科医として正しい知識を子どもたちと保護者に伝え、防ぎうる悲しい死を防ぎたいと思っています」

キャッチアップ接種を受けるには

  • 対象:誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日の女性
  • 期間:2025年3月末まで

3回のHPVワクチンの接種を無料(公費)で受けるためには、今年(2024年)9月末までに接種を始める必要があります。かかりつけの産婦人科などの医療機関で相談してください。キャッチアップ接種のための接種券はお住まいの市区町村から発行されます。もし手元にない場合は、接種前にお住まいの市区町村に相談してください。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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