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その月経不順や不妊、甲状腺ホルモンの不足が原因かも

公開日

2026年01月16日

更新日

2026年01月16日

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2026年01月16日

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むくみや冷えがある、疲れやすい、だるい。これらの症状の裏に、甲状腺の病気が隠れている可能性があります。甲状腺ホルモンが不足する「甲状腺機能低下症」は女性に多く、月経不順や不妊といった女性特有の症状につながる可能性があります。さらに妊娠中や出産後に影響が出ることもあるといいます。適切な治療によって改善が期待できる病気なので、疑わしい症状がある場合は早期受診が大切です。甲状腺疾患を専門とする隈病院 内科副科長の久門 真子(ひさかど まこ)先生に、甲状腺機能低下症と月経不順・不妊との関係、具体的な治療法、受診すべき診療科などについてお話を伺いました。

隈病院 内科副科長の久門 真子(ひさかど まこ)先生

女性に多い「甲状腺機能低下症」

月経不順や不妊の原因が実は甲状腺機能低下症だったという患者さんは少なくありません。当院には近隣の医療機関からの紹介でさまざまな患者さんが受診されますが、中でも婦人科、特に不妊治療を専門にしているクリニックからの紹介で当院を受診し、甲状腺機能低下症の診断に至る患者さんが多くいらっしゃいます。不妊の原因をスクリーニングしてみると、実は甲状腺機能低下症だったというケースが少なくないのです。また、月経不順をきっかけに婦人科で検査を受けた結果、甲状腺の病気が疑われて当院に来院する方もいらっしゃいます。

甲状腺機能低下症は、喉仏の下あたりにある甲状腺という臓器のはたらきが低下することで、甲状腺ホルモンの分泌が不足する病気です。甲状腺ホルモンには主に3つのはたらきがあります。1つ目は、新陳代謝を盛んにすることで脂肪や糖分を燃焼させてエネルギーを作り出し、体の熱産生を高めるはたらきです。2つ目は、交感神経を刺激して、心機能や発汗を調整するはたらきです。そして3つ目は、成長や発達を促進するはたらきで、お腹の中の赤ちゃんや小さなお子さんが正常に発達するために非常に重要です。特に脳神経系の発達には不可欠だといわれています。

不妊や月経不順といった症状は、甲状腺ホルモンが不足することで代謝が悪くなり、卵巣機能が低下した結果起こると考えられています。また、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌が多くなる*と、プロラクチン(母乳を分泌させるはたらきのあるホルモン)が増加して月経が止まる**という説もあります。

なお妊娠可能年齢の女性の2〜5%程に、甲状腺機能低下症の方がいるという報告もあります。

*甲状腺機能低下症では、不足した甲状腺ホルモンを補おうとする生体反応により甲状腺ホルモンの分泌を促す甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌が多くなる。

**プロラクチンが多量に分泌されている期間は、通常月経が止まる。

妊娠・出産への影響――子どものIQ低下を招くことも

甲状腺機能低下症では、全身にさまざまな症状が現れます。先にお話しした女性特有の不調のほか、寒がりになる、疲れやすくなる、体がむくむ、食欲はあまりないのに体重が増える、声がかすれやすくなる、便秘になる、睡眠をとっていても眠くなるなど、症状は実に多様です。大なり小なり皆さんが普段感じることの多い不調が多く、特徴的なものがないので「まさか甲状腺が原因だと思わなかった」という声が聞かれることもあります。

若い女性の患者さんだと、むくみや冷え、疲れやすさ、だるさなどの症状を訴える方が多い印象があります。ただし、これらの症状はほかの原因でも起こり得るものです。たとえば、朝起きたら顔が少しむくんでいるように感じる、夕方にかけて足がむくんで靴がきつくなるといった症状から甲状腺機能低下症を疑うのは難しいかもしれませんが、気になる症状があれば医師に相談することも検討してみましょう。

また、甲状腺機能低下症を治療せずにいると、妊娠・出産に影響することもあります。不妊の原因になるだけではなく、妊娠が成立した後にも流産や早産、死産などの確率が高くなるといわれています。甲状腺機能低下症を治療しないまま妊娠が経過すると、将来的なお子さんの発達に影響を及ぼし、IQ(知能指数)が低くなるといった報告もあります。

ホルモンの補充が大切――妊娠中もきちんと服用を

甲状腺機能低下症の治療の対象となるのは、顕性甲状腺機能低下症と、潜在性甲状腺機能低下症の一部の方(TSH10μIU/mL以上、妊娠出産を希望する方)です。顕性甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモン(FT4)が低下し甲状腺刺激ホルモン(TSH)が上昇した状態で、明らかに治療が必要と判断されます。また潜在性甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンが正常値であるものの甲状腺刺激ホルモンが上昇した状態で、一般的にはTSH 10μIU/mL以上の場合に治療を行いますが、10μIU/mL以下の軽度の場合でも、高コレステロール血症のある方や何らかの自覚症状を有する方、また妊娠出産を希望する方は治療の対象となります。

甲状腺機能低下症自体を根本的に回復させる治療は残念ながら現状ではありません。レボチロキシンという飲み薬で不足しているホルモンを補充するのが基本的な治療法です。特に妊娠を希望している方や妊婦さんにとって、甲状腺ホルモンの補充は非常に重要です。妊娠初期にはお腹の中の赤ちゃんは自分で甲状腺ホルモンを作り出すことができないので、お母さんが赤ちゃんの分まで甲状腺ホルモンを増やす必要があるのです。そのため、基本的に妊娠中は通常よりも服用量を多くする必要があります。妊娠中に薬を飲むことに抵抗を感じられる方は多いので、患者さんには、赤ちゃんにとって必要不可欠なホルモンであることをきちんとご説明したうえで、妊娠しても治療を中断しないでほしいことをお伝えするようにしています。

「甲状腺が原因かも」と思ったら

甲状腺の病気を疑ったとき、検査自体は何科でも対応可能なことが多いと思います。特に婦人科は対応していることが多いので、相談されるとよいでしょう。また、一般の内科であっても「こういう症状があって甲状腺の病気がないか心配している」と伝えれば、基本的に検査を受けられると思います。ただし診断後の治療を見越して、より専門的な診療を希望される場合は、内分泌内科を標榜している医療機関を受診するのが確実だと思います。

甲状腺機能低下症は若い女性に多いものの、お話ししたように特異的な症状がないために発見が難しいという特徴があります。なんとなく体調が悪い、疲れやすいといった不定愁訴と呼ばれるものや、月経不順や不妊、不育症などで悩んでいる方は、甲状腺が原因となっている可能性があるので、早めに医療機関を受診することをおすすめします。もしも甲状腺機能低下症が見つかっても治療による改善が期待できます。また、医師の下で適切な治療を続ければ基本的に命に関わるような病気ではありません。甲状腺機能低下症と診断されたらきちんと治療を受けることが、ご自身の幸せにもつながっていくのではないかと思います。

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