大阪市で2024年1月27日、胸部外科学会の次世代を担う若手医師が中心となって企画・運営する独自の大会「JATS-NEXT Annual Conference」が初めて開催された。記念すべき第1回目のテーマは「胸部外科のcrossoverを目指して」。本稿では開催を振り返って先生方からいただいたメッセージとともに、史上最年少の26歳で芦屋市長となった髙島崚輔氏の特別講演を紹介する。
JATS-NEXTとは、胸部外科領域のリーダーとなる人材の育成を目的に、2021年に日本胸部外科学会が設立した委員会である。▽人材育成のためのプロジェクトの企画立案、実行▽心臓、呼吸器、食道3領域の横断的セッションの開催▽外科医の意見集約――をミッションに掲げ、委員とコアメンバー計54人が活動を行っている。
JATS-NEXT Annual Conferenceでは、知識や手技の向上を目指す解剖講義や手術セミナーのみならず、論文査読、学会の座長を務めるコツ、留学先の見つけ方など、キャリアを広げていくうえで関心が高いテーマも取り上げられたことが特徴的だ。
特別講演では、髙島・芦屋市長が「未来を切り拓く対話と協働」と題して講演し、困難に向き合うモチベーションの源泉について語った。
中学校3年生になる春に発生した東日本大震災が人生の大きな転機。翌年から被災地を訪問し地域のために活動している同級生と交流を重ねるなかで、学んだことを社会に生かす方法を考えるようになった。ハーバード大学に進学してからは環境工学と公共政策を学びながら、計3年間休学してインターンシップや国内外の現場視察を行い、自然エネルギーの社会実装について現場経験を積んだ。学びを社会にどう還元するか考えたとき、市民に一番近い立場で社会を変えたいと思い市長になった。
今後は人口減少に伴い行政ができることは減っていく。行政がセーフティネットの役割を担うのは大前提に、これからは市民の力を引き出すことが重要だ。対話を通じて市民を励ましながら、自ら動きやすい環境を作り、市がそれを後押しすることで、一緒に未来を創り上げていきたいと語った。
髙島氏は「新しい取り組みを行うなかで、組織の中には今までやったことがないという戸惑いもある。市長が先頭に立って市民と対話する姿勢を見せることで組織の文化を変えていきたい。実現のために一番大切なことは市民の可能性を信じることだ」と呼びかけた。
「中堅・若手から発信される初の学会が盛況に開催できたことを喜ばしく思います。
普段の学会では見られないユニークなテーマが多く取り上げられ、若手を中心に活発に議論される様子は非常に熱気あるものでした。臨床、研究、将来への悩みや不安を先輩たちがどうやって解消してきたのか、理想とする胸部外科医への道をどのように切り拓いていくのか、日々の業務に追われるなかで、本会をきっかけに若手の先生方がそれぞれに、“何か”を掴んでいただけたのではないかと思っております。
このような活気ある会が第2回、第3回と続いていくことが、次世代を担う胸部外科医らのみならず、学会全体が活気付くよいきっかけになるのではないかと考えます。今後のJATS-NEXT世代の活躍を祈念します」
「中堅世代のリーダー育成が急務となるなかで、今回JATS-NEXT Annual Conferenceが開催されました。プログラム委員で会議を重ね、有意義でかつ、新しくておもしろいセッションを試案しました。当日は高難度領域横断手術など従来の学会に出しても遜色のない議論もあれば、こだわりの手術器具の紹介、外科医が発信するSNS、自施設のプロモーションビデオで魅力を知ってもらうセッションなど、多岐にわたるユニークな内容となりました。とりわけスピーチコンテストでは外科医が思っていることを赤裸々に、体当たりで主張し、リーダーシップに欠かせないアウトプット能力を発揮していただきました。終われば大変盛会であり、参加者に心地よい新風を吹き込めていたのではないかと思います。私にとっても50歳以下の胸部外科医のみで全国学会を開催したことは貴重な成功体験となりました。次回開催は2025年春~初夏頃を予定しています。私たちが現在地および未来に向けて必要な会を追い求める所存であり、ぜひご支援いただければ幸いです」
「“第一回JATS-NEXT annual conference”を終え、あらためて、期待以上の成果、新しいアイデアを取り込んだ素晴らしい学会を経験、開催できました。アンケート結果からも、学会参加者の満足度は高く、通常の学会とは異なった形での開催として認識していただいたことも伺い知れ、当初の我々の目標もある程度達成できていたものと考えられました。実際、研修医の先生から、50歳代の先生までの幅広い年代の先生方から、活発なプレゼンテーションをいただき、胸部外科医、胸部外科学会の明るい未来を展望することができました。
さらに、この学会では解剖講義、外科医としてのSNSの嗜み、キャリアに関するセッションなど、次世代の胸部外科医が医学会のみならず、社会においても成長するためのさまざまなプログラムも提供されました。
広報担当として、この学会が次世代を担う胸部外科医をより強化し、学会の未来を担うリーダーを育成するための重要な一歩になったことと信じ、今後もJATS-NEXTが次世代による参加を奨励し、新たなアイデアや展望を取り入れることで、胸部外科分野の発展を継続して支援し、発信していきたいと思います」
「日本胸部外科学会には70年以上の歴史があります。これは外科系の組織としては、日本外科学会に次いで長い歴史と伝統を有するものです。当学会は多くの教授を輩出しており、大きな組織ですが、その規模ゆえに若手が中心的な役割を担うことはこれまで難しい状況にありました。
今回、若手の先生方が中心となって、企画立案から趣意書の作成、TEDスタイルのピッチコンテストや髙島市長による講演会など、多彩な新しい取り組みを主体的に実現してくださいました。私たちは、今後も次世代のリーダーを育成するための取り組みが発展していくことを心から期待しています」
「第1回JATS-NEXT Annual Conferenceを無事、成功裡に開催することができました。JNAC開催のもととなるJATS-NEXTは、日本の胸部外科領域の診療・研究の将来を託すことになるであろう若手世代に、現代的な思考を取り入れながら自ら考えて進んでもらうことにより、将来的には日本胸部外科学会の核となっていただき、日本の胸部外科領域の診療と研究が今後も世界に伍して戦っていけるものであり続けられるように、祈りを込めて理事会での喧々諤々の議論を経て生まれたものです。日本胸部外科学会は、若い皆さんの活躍を真に期待しています」
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