連載特集

附属6病院の臨床データからイノベーションを―順天堂「GAUDI」とは

公開日

2021年09月13日

更新日

2021年09月13日

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2021年09月13日

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東京・埼玉・千葉・静岡に6附属病院を有し、年間300万人以上の外来患者さんと100万人以上の入院患者さんを診ている順天堂大学。同学は膨大な症例数に裏付けされる“臨床力”を新たな研究開発の実用化に生かすべく、オープンイノベーションプログラム「GAUDI(ガウディ)」を2019年に始動。2年が経過し、さまざまな成果が生み出されています。GAUDIの特徴や可能性について、順天堂大学学長の新井一先生に現地でお話を伺いました。

始動から2年、製品化に至った事例も

GAUDI(Global Alliance Under the Dynamic Innovation)は、順天堂大学6附属病院からなる「臨床プラットフォーム」の中心にある、研究開発を加速・社会実装させるための支援部門です。企業からの相談の内容は▽医療機器▽医薬品▽医療IT(ヘルステック)▽再生医療など――が中心です。これまでに複数のプロジェクトがスタートし、実際に製品化されたものもあります。

たとえば、学内のプロジェクトでは電子カルテに付随するシステムを改善するための相談を受けて実証実験を行いました。また、乳がん術後の創部のにおいを改善する衛生用具の研究開発を行い、製品化に至った事例も。後者は一般向けの製品ではないため市場は大きくありませんが、患者さんの悩みを解決するために必要な価値ある研究開発支援ができたと認識しています。

GAUDIを通じて、「1+1=2」ではなく、より大きな可能性を秘める「1+1=2+α」を実現していきたいと私たちは考えています。

会員は企業や研究者、実際にラボを使うプロジェクトも

GAUDIが提供するのは会員制の研究開発支援プログラムで、会員は企業や研究者の方々です。企業会員はベンチャー企業から中規模企業、大企業まで幅広く、さまざまなフェーズや規模のニーズに応える支援機能を備えています。

企業会員は会費制で、現在の企業会員登録企業は30社ほどです。会員は医師や看護師その他の医療従事者との面談から製品開発まで多岐にわたる支援を受けることができます。研究のステージに合わせて、臨床研究・治験センターや建物内のオープンラボを使用している事例もあります。

オープンラボの様子 MN撮影

オープンラボの様子

これまでの企業の研究開発においては、臨床医との接点が少なく研究開発に知見を生かしにくいという課題がありました。さらにコロナ禍を経てMR(医療情報担当者)が従来のように病院などに出入りすることが困難になり、企業と医療機関(臨床・研究)のつながりが大幅に減ってしまったのです。そのようななかで、GAUDIが企業と医療現場をつなぐ新たなオープンイノベーションの空間になればと考えています。

医療者と患者のニーズを集約する「GAUDI」

GAUDIオフィスは順天堂大学の研究棟3階に位置し、会員用のフリーアドレス空間や会議室、プロジェクトオフィスを有します。同じ研究棟には、臨床研究・治験センターや各診療科の研究室などがあり、隣接する順天堂医院とは上空通路でアクセス可能です。

当社撮影写真

このように、GAUDIは開発シーズを発掘・育成する研究部門と実際の臨床現場と物理的につながっています。これは、医療分野の研究開発をスピーディに行うために欠かせない要素です。実際に、1つの研究に関わる者同士が近くにいることで気軽に言葉を交わし、進捗の確認などを自然に行える環境がここにはあります。

GAUDIオフィスの様子 MN撮影

GAUDIオフィスの様子

実際の医療現場と近いGAUDIは、「患者のニーズと医療者のニーズが集約されている場所」とも言えます。これまでも医療の現場には患者さんが求めること、医療者が求めることは数多く存在しました。しかし、それを活用しきれていなかったのです。

「もっとこうだったらいいのに――」という現場のニーズを取りこぼさず、具現化するために活用できる場所、それがGAUDIの特徴です。

MN撮影

膨大なデータとAI融合「リアルワールドデータ」活用へ

順天堂で実現したいことの1つが、順天堂大学の有する臨床データとAI(人工知能)を融合させた「リアルワールドデータ(RWD)」の活用です。

医療分野におけるリアルワールドデータは、日常の実臨床で得られる医療データの総称です。近年、医療ICTの進展や個人情報基本法の改正、次世代医療基盤法の施行などにより、個人情報を守りながらRWDを活用する環境が整備されてきました。

たとえば、電子カルテのデータを解析し病気の発症条件を仮説検証する、コロナ禍における精神的な落ち込みについて看護日記内のキーワードで解析して早めの介入をサポートするなど、いろいろな可能性があります。実際に学内からそのような相談があり、研究開発支援を行うケースも出てきました。これだけ膨大な医療データを有する順天堂大学では、データを生かして医療・医学の進歩につなげたいとの思いがあり、RWDの活用がそれを実現するための強力なツールになることを期待しています。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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