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胸部外科関連4学会が「働き方改革」で厚労省に要望書 背景にあるマンパワー不足の実態

公開日

2022年10月06日

更新日

2022年10月06日

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2022年10月06日

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胸部外科関連の4学会(日本胸部外科学会、日本心臓血管外科学会、日本呼吸器外科学会、日本食道学会)は2022年8月、厚生労働省に対して「医師の働き方改革」に関し、「今の医療の質を維持することは不可能で、外科医を目指す若手医師の減少に拍車がかかる」などとして「診療報酬の増額分の外科医への還元」など3項目を柱とする要望書を提出した。その背景には、外科医の深刻なマンパワー不足とそれを補う過酷な労働環境がある。学会の要望書を基に、現在検討が進められている「医師の働き方改革」の課題について解説する。

働き方改革で「“外科医の献身”はどうなる」

2024年4月に適用開始される「医師の働き方改革」は、勤務医の時間外・休日労働の上限を原則年間960時間以下(月100時間未満)、救急医療などを行う医師や技能向上を必要とする研修医などは、期限付きで年間1860時間以下(月100時間未満)とするものだ。

これに対し4学会は、「明らかなマンパワー不足を長時間労働で補てんすることで高い医療の質を確保している現状に対し、外科医の献身的な無償労働を制限=否定する制度になっている」と指摘。そのうえで、必要なことは「マンパワー不足解消と外科医志望者増加への取り組み」であるとして、

  1.  診療報酬の増額分の外科医への還元
  2.  ICU管理体制(closed ICUなど)の充実
  3.  特定行為研修修了看護師の診療科付配属

――の3項目を要望している。

これがどのように「働き方改革」に結びつくのか。要望書では、その前提となる外科医の過酷な労働状況を詳しく説明している。

「外科医の不養生」の実態

「自分自身の健康に不安を感じる」81%、「平日の平均睡眠時間が6時間未満」63%……外科医の過酷な労働環境の実態が垣間見える。日本胸部外科学会と日本食道学会が2021年秋に外科医9600人余りを対象に行った調査(回答者約1500人)の結果だ。

これまでの日本の医療は、医師の自己犠牲的な長時間労働により支えられてきた。医師の健康を確保することは、医師自身のためだけでなく、医療の質や安全を確保する、つまり患者がよりよい環境で医療を受けるためにも必要なことだ。前述の調査で、「医師の働き方改革」によって生活の質が改善すると考える外科医は54%にのぼった。

増加する手術件数と、横ばいの外科医数

高齢化などの要因もあり胸部外科で行われる手術の件数は、ここ20年ほどで2~3倍に増加している。厚労省の統計によれば、全体の医師数は右肩上がりに増加しているものの、外科医の数はほぼ横ばいで、医師全体に対する外科医の割合はむしろ減少している。つまり、外科医1人あたりの負担は年々増加しているのだ。

外科を希望する医学生の減少が続くことで、若手の外科医が不足し外科医の高齢化が顕著となっていることも問題だ。外科医は“一人前”になるまでに10年以上かかるといわれている。このまま外科医の減少が続くと、次世代の外科医が一人前として育つ前にベテラン医師たちが引退し、日本の外科医を取り巻く状況は“暗黒時代”に突入してしまう可能性がある。つまり、外科医の不足によって、適切なタイミングで必要な手術が受けられない――救えるはずの命が救えなくなる――という事態を招きかねない。

外科を希望する医学生が減少している背景には、労働に対する評価のあり方にも課題があるようだ。外科医の献身的な努力の積み重ねにより、日本における手術の治療成績と安全性は世界に誇るデータが確立されてきた。しかし、胸部外科における主な手術技術料はここ10年ほど横ばいのままである。要望書では「診療報酬の増額分を外科医に還元し、外科医の労働・リスク・技能に応じた適切な評価がなされることで、マンパワー不足の解消を期待したい」としている。

また、一般的に「外科医の主な仕事は手術」と認識されているが、実は手術以外にも多くの業務があることも忙しさに拍車をかけている。その1つが手術後の管理だ。胸部外科は心臓や肺、食道などの臓器を対象とし、複雑で繊細な手技を必要とする手術が多いため、手術時間が10時間を超えることも珍しくない。大きな手術になればなるほど、手術後は集中治療室(ICU)での慎重な管理が求められる。日本心臓血管外科学会が2018年に行った調査では、手術後の管理をICU医が担当している施設は25%ほどで、80%は心臓血管外科医が担当していた(複数回答)。ほとんどの心臓血管外科医は、1日に0~4時間または5~8時間ICUに滞在しており、その負担は大きい。

「医師の働き方改革」に対する胸部外科関連4学会からの要望書(令和4年8月29日)より引用

「医師の働き方改革」に対する胸部外科関連4学会からの要望書(令和4年8月29日)より引用

分業やタスクシフトで外科医の負担軽減を

こうした課題に対する解決策の1つが、医師の仕事の分業や他職種へのタスクシフトを導入することだ。前述の日本胸部外科学会と日本食道学会による調査でも、労働環境改善のために医療現場が期待する事項(複数回答)として、労働・リスク・技能に応じた評価(76.3%)とともにタスクシフトの導入(58.4%)があげられている。

日本小児循環器学会が2018年に行った調査でも、小児集中治療室(PICU)専従医が5人以上いる施設では、小児心臓外科医の術後管理に関する負荷が明らかに少なかった。要望書では、「外科医が長時間の手術を行った次の日も勤務するためには、手術当日の術後管理の役割分担は必須」と訴える。また、タスクシフトでは特定行為*研修修了看護師の診療科付け配属による補助にも期待している。日本心臓血管外科学会が2018年に行った調査では、30%ほどの施設で特定行為研修修了看護師が導入されており、導入した施設の60%で効果があったと報告されている。

*特定行為:看護師が行う診療の補助で、手順書により行う場合には、実践的な理解力、思考力および判断力並びに高度かつ専門的な知識および技能が特に必要とされる行為である。「侵襲的陽圧換気の設定の変更」など38行為が定められている(2022年9月現在)。

よりよい「医師の働き方改革」とは

胸部外科関連4学会は、医師の健康、ひいては患者の安全を守るためにも、あくまで「医師の働き方改革」自体は推し進めるべきだとしたうえで、時間外労働の上限を設けることが改革の中心となっている点に関して懸念を示している。

前述の日本胸部外科学会と日本食道学会による調査でも、「医師の働き方改革」で設けられる予定の労働時間内では、外科医の51%は地域医療の質が低下すると回答している。地域医療の質といってもなかなかイメージしにくいが、具体的には地域の医療機関での診療時間が短縮される、診療日が減少する、手術を受けられるまでの期間が長くなるなどといった事態が考えられる。2022年1月に厚生労働大臣から告示された「医師の労働時間短縮等に関する大臣指針」でも、「医師の働き方改革については、医師の偏在の解消を含む地域における医療提供体制の改革と一体的に進めなければ、医師の長時間労働の本質的な解消を図ることはできない」とされている。

これらを考慮すると、「医師の働き方改革」の実行にあたっては単に労働時間の制限を設けるだけでなく、外科医の担う労働時間そのものを減らしていくための施策と医師全体に対する外科医の割合を増加させるための施策を同時に実行していくことが不可欠だろう。

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