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腎細胞がんの免疫チェックポイント阻害薬治療 中断後も効果は続く? ―臨床試験「JCOG1905」の内容や意義

公開日

2021年10月18日

更新日

2021年10月18日

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2021年10月18日

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がんの薬物治療の1つとして知られる「免疫チェックポイント阻害薬」は、進行して手術ができない腎細胞がんでも可能な治療法として知られています。この薬に関しては、投与を中断しても治療効果が持続するといった報告があること、患者さんの身体的・経済的な負担が大きいことなどの理由から、継続的に投与する必要性について議論されてきました。そこで泌尿器科領域のがんの標準治療を確立することを目的とする研究グループ「JCOG泌尿器科腫瘍グループ」では、投与期間を検討する臨床試験を開始しています。この試験の内容や意義について、試験の研究代表者である九州大学大学院医学研究院泌尿器科学分野教授の江藤正俊先生にお話を伺いました。
※ JCOG(Japan Clinical Oncology Group):日本臨床腫瘍研究グループ

「免疫チェックポイント阻害薬」が効く仕組み

もともとがん細胞には免疫細胞の1つ「T細胞」にブレーキをかけ、がん細胞を攻撃できないようにする力が備わっており、この力のことを「免疫チェックポイント」といいます。免疫チェックポイント阻害薬はT細胞へのブレーキがかからないようにし、「がん細胞を攻撃する力」を保つ効果が期待できる治療薬です。有効性の高いがん治療である一方、さまざまな副作用が現れる側面もあります。なぜなら、免疫のブレーキを外してしまうことによって、本来は攻撃の対象とならない正常な細胞さえも攻撃してしまう可能性があるためです。

治療中や治療後しばらくしてから副作用が現れることも

副作用やその発症時期は患者さんによって多様であり、使用する治療薬によっても異なります。たとえば、腎細胞がんにも用いられるニボルマブは、疲労感のほか、吐き気、下痢などの胃腸の症状、かゆみなどの皮膚の症状が見られることが一般的です。また、内臓機能や甲状腺などの内分泌系に障害を引き起こすこともあるなど、全身にさまざまな症状が現れる可能性があります。このような副作用を「免疫関連有害事象(irAE)」といい、腎細胞がんの場合、治療開始から半年の間におよそ60%の方がこれらの副作用に悩まされます。実際に投与している間はもちろん、治療終了後数カ月たってから生じることもあるため、長期的に全身の状態を診察することが大切です。

投与を中断しても効果が続く可能性

抗がん剤など通常がんの薬物治療は、投与をやめてしまえば効果がなくなり、がんが進行してしまうことが懸念されるため、現在の標準治療では、がんが小さくなった後も継続することが一般的です。しかし免疫チェックポイント阻害薬については、治療をある一定期間に絞って行っても効果が持続する可能性があるといわれています。
実際に腎細胞がんにおいても半年ほど継続投与すると、その後の治療成績が横ばいになることや、副作用などを理由に中断したケースであっても効果が持続することが分かってきています。さらに、腎細胞がんでは免疫チェックポイント阻害薬が登場する前から「サイトカイン療法」という別の免疫療法の効果が認められて保険適用になっている背景もあり、もともと免疫療法の効きやすいがん種として知られています。
また、先ほどお話した免疫チェックポイント阻害薬の仕組みをみても、一度免疫のブレーキを外すことができれば、理論上は投与を中断しても効果が持続するはずです。逆に長期的に投与すればそれだけ副作用の発生率も高まるため、一定期間投与した後中断すれば、副作用のリスクを最小限に抑えて治療効果を得られるのではないかと考えられています。

投与期間を検討する「JCOG1905試験」を開始

このような理由から、JCOG泌尿器科腫瘍グループでは、2020年7月より腎細胞がんで免疫チェックポイント阻害薬*による治療を半年以上受けており、効果が十分に現れている患者さんを対象に、治療薬の投与を中断する臨床試験「進行性腎細胞癌に対するPD-1経路阻害薬の継続と休止に関するランダム化比較第III相試験(JCOG1905)」を開始しました。この試験では、対象の患者さんを長期間フォローして、治療薬を中断した場合と継続した場合(標準治療)のがんの進行度合いや生存期間などを比較します。標準治療といわれる治療を途中で中断する試験なので、実施する患者さんの条件を絞り、安全性を十分に担保して行う必要がありますが、結果によっては投与に期限を定めることで、より副作用が少なく患者さんの負担を減らす治療を行えるようになる可能性があります。

*中断する免疫チェックポイント阻害薬は、「ニボルマブ」あるいは「ペムブロリズマブ+アキシチニブ」が対象です。「ペムブロリズマブ+アキシチニブ」による治療の場合、臨床試験では免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブのみ投与を中断します。

中断したことで状態が悪化したら?

元来の標準治療である治療薬の継続的投与を6~9カ月程度で中断するため、患者さんがその後のがんの進行を心配するのは当然です。そのため私たちは投与中断後も定期的な経過観察を行い、少しでもがんの増大が認められる場合にはすぐに治療薬を再開します。特に開始してすぐの段階では、がんの進行だけでなく免疫チェックポイント阻害薬による副作用などが見られる可能性もあるため、より小まめに検査を行い、安全性を担保します。

対象者や試験の期間は?

今回の臨床試験では250人の患者さんを登録し、およそ10年にわたってフォローしていくことを予定しています。対象となる患者さんは、進行した腎細胞がんで免疫チェックポイント阻害薬を半年以上投与している20歳以上の方のうち、治療薬によって全ての腫瘍が縮小している方に限られます。ぜひ多くの方に受けていただきたいと思いますが、基本的にはJCOGの参加施設で行われる試験ですので、臨床試験の参加を検討したい場合、まずは主治医の先生にご相談ください。なお、今回の臨床試験で用いられる治療薬は全て保険収載されていますので、患者さんの負担する費用については標準治療を受けた場合と同様となります。

医療経済に好影響も期待

免疫チェックポイント阻害薬の投与期間を短縮することは患者さんの身体的な利益につながるだけでなく、医療経済にもよい効果をもたらすことが期待されます。
日本は国民皆保険制度が破綻寸前ともいわれる危機に直面しており、医療費の削減をめざすさまざまな政策が行われています。免疫チェックポイント阻害薬は非常に高額な治療薬で、多くの患者さんが長期間投与すれば、それだけでかなりの医療費がかかることが懸念されます。そのため、この臨床試験によって腎細胞がんに対する投与期間の短縮が可能と判断されれば、患者さんが支払うべき医療費の負担も軽減するほか、国や事業主、個人が負担する医療費の削減につながることが期待できます。現在の日本の高い医療レベルを継続して維持するためにも、このような取り組みは非常に重要だといえるでしょう。

結果次第で有効性より大きく

腎細胞がんに対して免疫チェックポイント阻害薬を中断する試験については、これまでも類似した試験が各国で行われており、多くの患者さんが投与を中断した後もがんが進行せずに済んでいるという報告があります。また、仮に進行が認められたケースでも、その段階で治療を再開することで再び腫瘍が小さくなったという報告があります。一方で、肺がんなど別のがんでは免疫チェックポイント阻害薬中断後に病状が悪化した方もいることが海外で報告されているため、今回の臨床試験を通して日本の腎細胞がんの確立した結果が出ることに期待します。結果によって継続的に投与する必要がないとなれば、免疫チェックポイント阻害薬の有効性はさらに大きいものとなり、患者さんの負担や不安を少しでも解消できると考えます。臨床試験について詳しくはこちらをご覧ください。

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