新型コロナウイルスは「基礎疾患のある人は重症化のリスクが高い」といわれています。では、がんはハイリスクの「基礎疾患」に該当するのでしょうか。公益財団法人日本対がん協会が作成したがん研有明病院・院内感染対策部副部長、羽山ブライアン先生へのビデオインタビュー(2020年3月23日撮影)から、患者さんが日常生活で気を付けるべき点などについてまとめました。
――がん患者が新型コロナウイルス感染症にかかるリスクは、一般の人より高いのですか?
がん患者さんは、何の病気にもかかっていない、まったく健康な同じ年代の方に比べると、かかった場合の重症化リスクが高そうであるということは分かっています。かかりやすいかどうかについては実は分かっていません。
中国から得られているデータが大半なのですが、がん患者さんに関する情報はあまり多く含まれておらず、やや不透明なところもあるかなと思います。
――重症化しやすい理由は何でしょうか?
一般的には、高齢であったり、糖尿病や心臓の病気をお持ちであったりすることが、リスクを高めることにつながっているようです。がんの患者さんも、何がしか臓器の状態がやや悪いとか、がんそのものや抗がん剤などの影響によって免疫の機能が落ちているなどのために重症化しやすいのだろうとは推測されますが、理由に関してははっきりとは分かっていません。
――放射線治療はリスクがあるのでしょうか?
まだ十分なデータがないと思います。肺に放射線が当たっているかどうかで変わる可能性はあると思いますが、断言はできません。
今後分かってくることはもっと多いと思いますので、情報をよく見ておく、あるいは主治医に確認することが大事でしょう。
――乳がんなどにおけるホルモン療法はリスクがあるでしょうか?
ホルモン療法はリスクが低いだろうと推測しますが、今の段階では、疾患別の細かい内訳までは、はっきり分かっていないという状況だと思います。
――感染しないためにはどこに注意すればいいでしょうか?
怖がるべきところを怖がって、ただ、怖がり過ぎないということでしょうか。例えば、まったく外出できなくてずっと家にこもっていると、それ自体のダメージも大きいので、適切な対策をとって適切に行動するということが大事ではないかと思います。
もちろん、むやみな外出を控えることは必要だと思います。一番リスクが高いと言われる「3つの密」が重なる場所をしっかり避けるなどです。
逆に言うと、歩いて公園に行くとか、野外をちょっと歩くとかは、感染するリスクとしては低いと思います。
――がん患者さんへのメッセージはありますか?
がん患者さん全体へのメッセージとしては、「特別危ないとわかっているところには近づかないようにする」ことの徹底でしょうか。
あとは、手洗いと適切な形でのマスク着用ですね。手洗いは非常に大事です。こまめにしっかりと手を洗ってください。特に外出先でいろいろな人が触れるかもしれない場所に触れた後ですね。手についているかもしれないものを自分の体に持っていかないことです。手で鼻や口を触ると感染する可能性があるので、なるべく触らないように意識するといいと思います。
――マスクについて知っておいたほうがいいことは何でしょう?
マスクの一番の効能は、せきやくしゃみをしたり鼻水が出たりといった症状の人が周りに広げるのを防ぐことです。「ごほん」「くしゅん」としたときに飛ばなくするのであって、病原体が入ってくるのを防ぐという意味では、一般的なマスクには十分な効果はありません。
ですので、人混みに行かざるをえない場合などでなく、自宅近所の道路や公園を歩いているという場合には、必ずしもマスクは必要ではありません。
また、こういうときだからこそしっかりとした生活習慣を保つことも大事です。よく寝て、十分な食欲がある方はよく食べる。そして、しっかり睡眠をとることです。体が疲れている状態だと免疫の働きを低下させかねませんので、普段の自分の体調管理をしっかり保ちましょう。
――主治医に不安な気持ちを伝えたほうがよいのでしょうか?
不安を打ち明け、共感してもらうことそのものにいい作用があると思います。不安をためこまないことが大事です。医療者以外、家族にも相談したほうがいいと思います。
――主治医にもらった方がいいアドバイスはありますか?
感染が爆発的に広がった場合には、抜本的に、治療の方針自体をどうするかという話が出る可能性もあります。なので、外来の際に主治医に相談するほうがいいだろうと思います。
――家族や周りの方が気をつけることはありますか?
新型コロナウイルスにかかると家族内の感染が起こりやすくなります。家族にがんを治療している患者さんがいる場合には、患者さんと同じような注意をしっかり守ることがポイントになると思います。
――「感染が怖くて病院に行けない」といった相談も多いのですが。
例えば術後長期経過しているフォローアップの外来など、医学的に急いで行く理由がないなら、外来を延期することも合理的だと思います。
――通勤電車が心配との相談もあります。普通の人と同じ点に注意すればよいのでしょうか?
多くの会社で時差出勤やテレワーク(在宅勤務)が進んでいますので、それらも積極的にご利用いただければと思います。病院に行く場合も、できれば時間をずらして、あるいは他の交通手段も考えるということは、ぜひやっていただければと思います。
――スーパーで販売されている野菜や総菜から感染しませんか?
野菜に関しては、洗うもの、火を通すものであれば、あまり気にしなくていいかなと思います。手を加えずに直接食べるものは気になるかもしれませんね。
ビュッフェや会食の場、たくさんの人が通って飛沫(ひまつ)が飛ぶかもしれない状況で食べると、リスクが高いかもしれないという話があります。同じように、人が多く通るところに置いてあるものに関しては、封がされていないものをそのまま食べるのは、ちょっと気になるかもしれません。
――熱がある場合、何からすればいいでしょうか?
厚労省が比較的わかりやすい受診の目安の基準を出しています。37度5分以上の熱が、基礎疾患がある場合に2日以上続いたら相談を考えることになると思います。特に化学療法中などであれば、別の感染の確率の方が高いと思います。ですので、かかりつけ医に「厚労省の受診の目安を満たしていそうだけれども、普段の治療のことも気になる」と伝え、どうしたらよいか相談するのがいいと思います。
――がん患者が感染した場合は重症化しやすいのでしょうか?
難しいですね。少なくともみんながみんな重症化するわけではありません。がんの患者さんであっても、軽く風邪をひいた程度で終わってしまう可能性もあるだろう、と思います。
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