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コロナで一般病床減、診療体制維持に東大阪医療センターが導入 「入退院支援システム」

公開日

2022年07月11日

更新日

2022年07月11日

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2022年07月11日

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新型コロナウイルス感染症の拡大は、コロナ患者以外の診療にも多大な影響を及ぼしている。流行が始まった当初から「コロナの患者さんが増えることで、コロナ以外の患者さんを助けられなくなる恐れがある」との危機感が、医療関係者にはあった。大阪府東大阪市の救急指定病院、市立東大阪医療センターは、その対策として2021年8月に入退院支援クラウド「ケアブック」を関西地区で初めて導入。その狙いや有効性などについて、同センターに聞いた。

病床の“回転率”アップ狙い導入

東大阪医療センターが「ケアブック」を導入したのは、新型コロナウイルス感染症の拡大で、同センターに求められる「新型コロナウイルス診療、一般医療の両方の急性期医療提供すること」を継続していくために急性期医療が終了した患者さんの転退院を促進する必要が生じたためだったという。

導入した2021年8月はコロナの第4波から第5波にかけての時期。同センターは520床のうち106床をコロナ病床としており、コロナ以外の患者さんのためのベッド数が通常から約2割減っていた。そうした中でもできる限り以前と同じ診療体制を維持し、地域の医療ニーズに応えるためには、患者さんの在院日数を減らして病床の“回転率”を高める必要があった。そのための方策を模索している中で、入退院支援クラウドを知り、導入の検討を始めたという。

システムを円滑に運用するためには、転院先となる地域包括ケア病棟や回復期・リハビリテーション病棟、慢性期病棟のある病院ができるだけ多く参加することが必要となることから、導入にあたり地域の病院にも参加を促した。

地域の病院とは個別に電話やファクスで連携する“線”のつながりしかなかった。しかし、それでは効率が悪い。一度に多くの病院とつながる“面”の状態で地域と連携するために、ケアブックはちょうどいいシステムだったという。

結果、中河内地域(大阪府の東部中央)の後方15病院と同時にスタートすることになった。

患者との信頼関係も向上

市立東大阪医療センターは地域医療構想で急性期医療を担当していて、急性期の医療が終了した患者さんは、退院して帰宅もしくは介護施設などに移るか、リハビリを中心とした亜急性期・回復期医療が必要となり、早期にそれらを専門とする地域包括ケア病棟や回復期・リハビリテーション病棟のある病院に転院されるのが望ましい。

転院が必要な患者さんにはまず、病棟を訪れて本人や家族と相談し、希望に沿った転院先の病院を何カ所かピックアップ。それぞれの病院に一軒一軒電話し、当該の患者さんの情報を送り、返事を待って……という作業を転院先が決まるまで繰り返す。その間、何度も電話でのやり取りが生じ、転院候補先の担当者が不在であれば、作業が滞る。一方で、ほかの患者さんの転院に向けた作業も並行して進めるため、病棟を訪れている際に先方から電話が入っても対応できなかったり、並行作業が中断したりすることも珍しくなかった。

システム導入後はどのように変わったか。

患者・家族の希望を聞き調整をすることに変わりはないが、候補として挙がった病院に対して一斉に患者さんの情報を流し、候補の病院からの返事がシステム上で戻るのを待つ間、ほとんど電話でのやり取りはなく、ほかの患者さんの転院調整に専念できるようになったという。問い合わせなどは「チャット機能」を使って文字でやり取りができるため、どちらかが電話に出られず作業が滞るということもなくなった。

転院調整を実際に担当している同センター地域医療連携室室長の山口仁江さんは「病棟で患者さんと話をしているときでも、転院先からの電話がどんどん入るということは日常茶飯事で、そのたびに業務を中断したり、話が途切れたりしていました。それがなくなって患者さんとの話に集中でき、終わってからチャットで転院先との事務的なやり取りを確認できるので、効率的になったうえに患者さんとの信頼関係も向上していると感じます。また、担当者が休んでほかの職員が代理で担当したときも、チャットのやり取りが残っているのでスムーズに業務を継続できます」とメリットを話す。

東大阪医療センター地域医療連携室の山口仁江さんと中野知佐さん、辻井正彦院長(左から)

担当者全員「電話の回数が減った」

ケアブックは転院調整に関する業務をオンラインで可能にするクラウドサービス。従来電話で行っていた転院打診をウェブフォームで一括/選択で送り、チャット機能によって病院間の連絡および関連書類を送付することができる。パソコンのブラウザから利用できるため、導入にあたって特別な機器類などを準備する必要がない。

ケアブックを開発した「3Sunny」が導入から3カ月間(2021年8~10月)の稼働状況などについて、同センターと後方病院の転院調整担当者にアンケートを実施した。

その結果、双方の担当者全員が「電話の回数が減った」と回答。ほかにも手続き上のメリットとして▽時間短縮になった▽タイミングを考えずに連絡できる▽伝達ミスがなくなった――などが挙げられた。また、従来からの変化として、▽患者さんや家族の細かい話が聞けるようになりトラブルを未然に防ぐことができた▽手間だった電話が減らせる分、別のことに時間を使えたり調整を早められたりする――などの感想があった。

「あるべき病院のDX」とは

システムが導入されていない病院との間の転院調整は、従来通り電話とファクスを介したやり取りになる。また、転院調整は東大阪市内、中河内地域だけで完結することはない。関西地区初導入のため、転院先を大阪府下全域に広げたり県をまたいだりする場合は、これまで通り電話やファクスも利用しながら対応することもある。導入から7カ月後の2022年3月末現在、大阪府内の参加病院は100を超え、より広範囲でケアブックを使った調整が可能になっている。

「患者さんの希望や背景などから、やはり第一選択は近隣の病院になるので、まずはケアブックで調整になります。ただ、新型コロナのクラスターが近隣の病院で発生して患者さんの転院そのものが止まってしまい、本当に困ったケースがありました。その時にはケアブックと電話・ファクスをうまく併用しながら、転院先の範囲を非常に広げて乗り切ることができました」と、地域医療連携室の中野知佐さんは振り返る。

患者さんの転院調整に本システムが導入されて地域の病院に広がってきているが、さまざまな面で医療機関のデジタル化は遅れている。

同センターの辻井正彦院長はあるべき病院のDX(デジタル・トランスメーション)についてこう語る。

「まず、ケアブックに関しては病院だけでなく在宅医療をされている開業医の先生、介護福祉施設とも連携して広めていくことが、今後は必要です。患者さんの転院は中河内地域で完結するわけではありません。大阪全域、あるいは近隣府県、さらには全国で転院先を探せると、もっとよくなるでしょう。さらに欲を言えば、電子カルテの一部を載せられるといいでしょう。受診者がスマートフォンやパソコンから使える予約システムもあったらいいと思っています」

現状でも、これらの機能は個別のシステムとして存在はする。だが、個々に導入する場合にはそれぞれに初期費用、ランニングコスト、一定期間後の更新費用がかかるうえ、統一したシステムとして連携させるのが困難なケースもある。

そのため、理想的なシステムは一本化に近い状態にできるもの。今後、そうした病院のさまざまなニーズをワンストップで満たしてくれるシステムが期待される。

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