連載特集

多様化・顕在化する女性医療のニーズ―時世を見据えたあすか製薬の挑戦

公開日

2022年05月25日

更新日

2022年05月25日

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2022年05月25日

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2020年に創立100年を迎えた「あすか製薬」は、産婦人科領域のリーディングカンパニーであり、甲状腺疾患に関する薬剤で圧倒的なシェアを有する、ホルモン製剤のパイオニアでもあります。女性の社会進出に伴い、女性が健やかで豊かな生活を送るために必要な医療・医薬品のニーズは多様化しています。長年培った知見を情報発信に役立てるなど啓発活動にも尽力する同社のあゆみと挑戦について、代表取締役社長・山口惣大氏にお話を伺いました。

1920年創業―「社会に貢献したい」という一貫した思い

あすか製薬(旧 帝国社臓器薬研究所)は1920年に創業しました。その大元には、曽祖父の山口八十八が1893年に開業した洋酒・食料品の輸入販売事業の存在があります。当時は外国からの供給に依存している食品が多く、曽祖父は食品の国産化が急務だと感じていました。そこで1908年に食品の加工・製造販売事業を開始。国内で初めてマーガリンの製造・販売を成功させ、牛脂・豚脂、野菜・肉の缶詰などの国産化を進めました。そして、製造の過程で廃棄されていた動物の臓器を有効活用するという発想から、ホルモン製剤に関する研究と製薬事業が始まったのです。

1921年に動物の睾丸から抽出・精製した男性生殖腺ホルモン製剤を初めて製品化、続けて女性ホルモン製剤、甲状腺ホルモン製剤「レボチロキシンナトリウム水和物」など、種々のホルモン製剤を開発。「社会に貢献したい」という思いで、現在に至るまで100年余り医療・製薬事業を展開してきました。 甲状腺ホルモン製剤発売100周年を迎えて 甲状腺ホルモン製剤である「レボチロキシンナトリウム水和物」は今年で発売100周年を迎えました。甲状腺機能低下症、粘液水腫、クレチン病、甲状腺腫などの治療で使われる薬剤です。私たちは、レボチロキシンナトリウム水和物をはじめ甲状腺領域の薬剤において国内シェアの多くを担う企業として、安定供給を維持するという使命感を強く持っています。

MN撮影

“インフラ”の1つである医薬品―安定供給の重要性

医薬品は人々の生活に欠かせないインフラの1つで、いったん供給が止まると人の命に関わります。2011年の東日本大震災では、福島県いわき市の工場が被災し甲状腺ホルモン製剤の製造が一時的にストップしました。復旧に向けて最優先で取り組み、工場は1か月かからずに復旧しましたが、同ホルモン製剤の国内流通の多くを当社が担っていたこともあり、有事を見越した安定供給の重要性を再認識するターニングポイントとなりました。

多様化・顕在化する女性の悩みやニーズに応えたい

女性の社会進出が進み、女性の就業率(15~64歳)が7割に達した*ことで今まで以上に、女性特有の健康・病気に関する悩みが多様化・顕在化しているのを感じます。たとえば月経困難症や子宮筋腫・子宮内膜症・貧血・甲状腺疾患などの治療と生活の両立、生理前の不調(月経前症候群:PMS)や生理痛・更年期障害に対する周囲の理解など、ライフスタイルやライフステージにより、抱える悩みはさまざまです。働きながら健やかに生きたいと考える女性のニーズに応えるべく、私たちは思春期から性成熟期、更年期、老年期まで幅広く、女性の健康をサポートできる薬剤の開発・提供に努めています。

*2020年総務省データ

医薬品にとどまらない新たな挑戦

2020年には「女性のための健康ラボMint」を設立しました。これは、当社が長年蓄積してきた女性ホルモンに関する知見を集約し、女性特有のつらい症状で悩む方々をサポートしたいという思いから作った組織です。自分の心と体について知ることは、健やかで豊かな生活を送るためにとても重要です。現在はWebサイトを中心に活動していますので、ぜひ一度ご覧ください。

また、当社は2021年4月にホールディングス化しました。今後の展開として、医薬品の開発にとどまらず、検査を通じた“未病”段階からのアプローチ、医療周辺機器などに事業を拡大し、トータルヘルスケアカンパニーとしての価値を高めていきたいと考えています。

先方ご提供

甲状腺ホルモン製剤「チラーヂン」発売100周年を迎えて

「チラーヂン」という甲状腺ホルモン製剤は今年で発売100周年を迎えました。甲状腺機能低下症、粘液水腫、クレチン病、甲状腺腫などの治療で使われる薬剤です。私たちは、チラーヂンをはじめ甲状腺領域の薬剤において国内シェアの多くを担う企業として、安定供給を維持するという使命感を強く持っています。

甲状腺の病気にはさまざまな種類がありますが、男性よりも女性が特にかかりやすいことをご存知でしょうか。近年では、甲状腺疾患の一部が不妊や流産・早産などのリスクになることも指摘されています。女性医療のリーディングカンパニーとして甲状腺疾患の克服は我々の大きな課題であるとともに、病気に気付かずつらい症状を抱えながら生活している潜在患者さんへの啓発活動や検査によるスクリーニングの重要性を感じています。その意味でも、検査事業への取り組みは新たなソリューションの開発になると期待しているのです。

オープンイノベーション戦略―偶発的な出合いが生むチャンス

今、あらゆる研究開発は一企業にとどまらず、他企業や異業種・分野といかに協働するかが肝要になっています。そのようななか、私たちは2020年に創薬機能の再構築に向けて、研究所を神奈川県藤沢市の湘南アイパークに移転しました。すでに複数の共同研究が進んでおり、オープンイノベーションの重要性を感じているところです。

湘南アイパークには協働先を求める企業や組織が集まり、互いにアンテナを張っているため、元々意図していたものや戦略的な道筋以外の偶発的な出合いも格段に増えました。面白いことに、偶発的な出合いが次のチャンスにつながることもかなり多いのです。我々は今後も「戦略」と「偶然」の両輪を大切にして創薬事業を進化させていきます。

先方ご提供

実際のラボの様子

長年培ったノウハウを生かしアジア展開へ

我々はグローバル戦略としてアジアでの展開にも力を注いでいます。その1つとして、ベトナム国内大手の製薬企業に出資し、工場新設の技術支援を進めています。長年培ったノウハウを生かして日本の医薬品製造の品質を維持しつつベトナムで市場を拡大し、薬を必要とする人々の役に立ちたい――そんな思いで現地と密にやり取りを重ね、信頼関係を構築しているところです。ベトナムでの事業を基軸にしながら、今後は東南アジア全体での事業展開にもアンテナを広げていきたいと考えています。

オペレーション/マーケティングにおけるDX推進

現在、オペレーションに関してはコロナ禍を機にペーパーレス化とオンライン化を急速に進め、業務改善・効率化を図るとともに、ゼロベースで新たな働き方を模索しているところです。

一方、マーケティングに関してはMR(医薬情報担当者)活動のオンラインへの切り替えや、オンライン講演会の開催を進めました。コロナ禍を経て、「オンライン」と「対面」それぞれに違った価値が生まれ始めていることを感じています。ビッグデータの活用を模索していることも取り組みの1つです。たとえば血液検査結果のビッグデータ解析により、従来では見つけることが困難な、患者さん本人も気付いていない潜在的な病気を発見できないか、などを検討しています。環境の変化とともに以前とは異なる営業戦略やアプローチが必要になっているのだと思います。

あすか製薬の「これから」

私たちは「先端の創薬を通じて、人々の健康と明日の医療に貢献する」という経営理念のもと、内科(消化器・甲状腺)、産婦人科、泌尿器科を重点3領域として新薬を中心とした事業に取り組んできました。時世・環境の変化とともに顕在化する女性医療のニーズに幅広く応え、アンメット・メディカル・ニーズの解決に向けて、今後は医薬品にとどまらないトータルヘルスケア領域で社会・人々に貢献していく所存です。

MN撮影

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