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診断まで36年―高熱と痛みを繰り返す希少疾患「家族性地中海熱」 患者が抱える課題は

公開日

2024年11月28日

更新日

2024年11月28日

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2024年11月28日

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家族性地中海熱は、発作的に起こる発熱や腹痛、胸痛、関節痛などの症状が繰り返される自己炎症性疾患(自然免疫系の異常により炎症が起こる病気)の1つです。発作を引き起こす主な原因として、ストレスや疲労、月経などが挙げられます。発作予防のためには無理のない生活を送ることが大切ですが、周囲からの理解が得られずにつらい思いをしている患者さんは多くいらっしゃいます。また、発作後はたちまち元気になったように見えるため、周囲から病気であることを信じてもらえないという方もいます。家族性地中海熱の当事者であり、自己炎症疾患友の会(以下「患者会」)代表を務める足立理緒さんは、「家族性地中海熱という病気を正しく知り、本人の言葉を信じてほしい」と語ります。足立さんに家族性地中海熱の患者さんを取り巻く現状と思いについて伺います。

生後6カ月で始まった発熱―診断遅れで臓器障害も

発熱が始まったのは生後6カ月の頃でした。2〜3日間続く高熱を毎月繰り返し、関東のあらゆる病院を受診しましたが、「赤ちゃんは熱を出しやすいからね」と言われて終わっていました。看護師だった母親は、もし感染症なら自分にもうつるはずだと何カ所もの病院で訴えましたが、「親が神経質になるからストレスを感じて発熱しているのだ」と言われたこともあると聞いています。父と祖父にも同じような症状があったので、やはり体質なのかなと思い5歳を機に受診をやめたそうです。その後も毎月のように発熱を繰り返し、19歳の時に発熱と同時に腹痛や胸痛、関節痛が出現。熱もなかなか下がらなかったため病院を受診し1カ月ほど入院しましたが、結局原因は分かりませんでした。

32歳で結婚して岐阜県に引っ越した頃、発熱と猛烈な胸の痛みに襲われ、病院を受診し、名古屋大学医学部附属病院を紹介されました。そこで、不明熱として総合診療科に数年間通院していた時、ふと主治医から「もしかして家族に外国人の方がいる?」と聞かれました。家族性地中海熱は地中海沿岸に多くみられる遺伝性の病気です。そこで祖父がイギリス人であること、祖父とその子どもにあたる父も同じ症状を持っていたことを伝え、初めて家族性地中海熱が疑われました。家族性地中海熱の治療薬であるコルヒチンを試してみたところ薬が著効し、36歳で家族性地中海熱の診断に至りました。

診断の遅れにより全身の炎症が長年繰り返されてしまったことで、現在は臓器障害を併発しています。発熱や腹痛がある期間は食事ができないので、解熱後に取り戻すように食べるということを30年以上繰り返していたために脂肪肝となり、肝硬変をきたしてしまいました。また、胸膜炎から心膜炎に至り、心不全も発症しています。

うそをついているのではないか…得られない周囲の理解

発熱などの発作症状が起こると心臓や肝臓にダメージを与えてしまうため、発作を予防するために毎日の服薬と、発作のきっかけとなる因子を避けることを心がけています。発作のきっかけは人によって異なりますが、ストレスや疲労が共通因子として挙げられます。私の場合、けがをすると防御反応による炎症で発作が起こってしまうので、けがにも注意しています。

日常生活で無理をしないことは発作予防のために大切なのですが、周囲からは怠けていると誤解されがちです。また、解熱後は何事もなかったかのように元気に見えるため、「うそをついているのではないか」「精神的な問題ではないのか」と言われることが多いのは家族性地中海熱患者の共通の悩みです。私は子どもの頃、毎月発熱で学校を休んでいると、担任から呼び出されて「なぜ学校に来ないのだ。保健室でもよいからきちんと通いなさい」と言われたことがあります。ひどいときには学校に行ったら「もう来ないと思った」と言われ、机が片づけられていたこともありました。家族性地中海熱という病気であることを周りにきちんと伝えてもなかなか理解が得られず、学校や仕事に行けなくなってしまう方はとても多いです。

家族にさえ理解してもらえない方も多く、患者会の皆さんはよく「敵は身内」とおっしゃいます。「どうして学校/仕事に行かないのだ」「どうして動けないのだ」など、理由を問われるのがとてもつらいという話をよく耳にします。家族性地中海熱は、発作期間とそうでないときの体調に差が大きいことが特徴です。主治医から病気の説明を受けて頭では理解していても、実際に目の前にすると信じられない気持ちが勝ってしまうのかもしれません。

誤解されがちな病気であるからこそ、私たちには1人でも多くの理解者が必要です。家族に疑われるのは非常につらいことですし、それがストレスとなり発作を誘発させてしまうこともあります。せめてご家族の皆さんには、どうかよき理解者であってほしいと願います。

「感染する病気」との誤解も

家族性地中海熱は主症状が発熱なので、感染症と間違われやすい病気です。新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)の流行により、社会全体が「発熱」に対して敏感になりました。発熱のたびに新型コロナを疑われて検査や隔離をされた、通常の受診もできなくなった、新型コロナかもしれないからしばらく学校に来ないように言われた――といった話を多く耳にしました。発熱を繰り返していることを理由に会社を解雇されてしまった方もいます。特に地方の場合、一度失業してしまうと正社員としての再就職が難しく、そこから貧困に陥ってしまうこともあります。

新型コロナが落ち着いてきた今でさえ、「熱があるなら近寄らないで」と言われることもあると聞きます。家族性地中海熱は感染症ではないので当然人にうつることはないのですが、本人がそう言ってもなかなか信じてもらえない現状があります。新型コロナの流行を通して、家族性地中海熱に対する差別的な風潮がより顕著になってしまったように感じます。家族性地中海熱は昔に比べて社会的認知度は上がってきていますが、患者会として今後は正しい情報・知識を広めていく必要性を感じています。少しでも多くの人に家族性地中海熱について正しく知っていただけたらうれしいです。

誤情報の“増殖”を危惧―「知識の普及」に取り組む

以前に比べて家族性地中海熱の社会的認知度が上がってきた分、病気に関する誤った情報がどんどん増えていることは大きな課題です。患者同士がSNSなどで情報交換を行っているのを見ていて思うのが、とにかく情報が古く、正確でないことです。どの患者も自分の主治医から言われたことを咀嚼(そしゃく)し、情報を共有し合っていますが、その主治医が持っている情報が、自己炎症性疾患の研究班*や学会が公表している情報とはまったく異なる知識や独自の見解である場合があるのです。研究班の医師たちもそうした現状を非常に危惧されています。

どこから情報を得るかによって、患者の将来は大きく変わってしまいます。誤った診断・治療により私のように重い症状が残ってしまった方もいます。患者会には数カ月おきに研究班から直接新しい情報が伝わってくるので、家族性地中海熱と診断されたらまずは患者会に入って情報を得てもらいたいと思います。ただ、家族性地中海熱は遺伝性疾患であることから個人情報を明かすことに抵抗を感じる方も多くいらっしゃいます。そのため、患者会では会員/非会員の枠を取り払って、当事者であれば誰でも参加できるオンライン講演会を開催するなどの取り組みを行っています。正しく新しい知識を普及するために、患者が適切な情報にアクセスしやすい環境を整備することが今の目標です。

私が「赤ちゃんだから熱を出しやすい」と言われて診断がつかなかったように、いまだに原因不明と言われ、親御さんが必死になっていろいろな病院を受診してようやく診断に至ったという話をよく聞きます。社会的認知度が上がってきていても、いまだに子どもや親のせいにされてしまう現状をとても悔しく感じますし、この現状は何とかして変えなければならないと思っています。患者会のスタッフには、私を含め重い臓器障害を併発しているスタッフが多く所属しています。これから家族性地中海熱と診断されてくる子どもたちには、どうか私たちのように重症になる前に助かってほしいというのが、患者会スタッフ全員の願いです。

自己炎症性疾患とその類縁疾患における、移行期医療を含めた診療体制整備、患者登録推進、全国疫学調査に基づく診療ガイドライン構築に関する研究班

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