連載難病・希少疾患患者に勇気を

息切れや胸の痛みが出る難病PAH(肺動脈性肺高血圧症)とは―市民公開講座「60 minutes together –PAHバーチャルキャンプ–」レポート

公開日

2021年06月04日

更新日

2021年06月04日

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2021年06月04日

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難病に指定されている「PAH(肺動脈性肺高血圧症)」は、心臓から肺へ血液を送る血管(肺動脈)の圧力が高くなる肺高血圧症の1つです。国内の患者数は3700人ほど(2018年)と多くはありませんが、近年増加傾向にあります。問題は、病気の認知度が低く初期症状に特異性がないことから、診断・治療までに長い時間がかかってしまうことです。このような背景を踏まえ、1人でも多くの方にPAHを知ってもらうために2021年5月27日に市民公開講座「PAHバーチャルキャンプ」が行われました。田村雄一先生(国際医療福祉大学医学部循環器内科学教室教授、国際医療福祉大学三田病院肺高血圧症センター代表)による講演「PAHについて」の内容をレポートします。

【プログラム】主催:ヤンセンファーマ株式会社

・PAHについて:田村雄一先生(国際医療福祉大学医学部循環器内科 教授)

・PAH患者さんのアンケート結果発表:土屋美寿々さん(ヤンセンファーマ広報)

・PAHとともに:重藤啓子さん(NPO法人肺高血圧症研究会 代表理事/声楽家)

・6 minutes togetherプロジェクト紹介:土屋美寿々さん(ヤンセンファーマ広報)

・歌に込めた想い:一青窈さん(歌手)

PAHとはどんな病気?

初めに、田村雄一先生からPAHの概要と特徴についてお話がありました。

田村雄一先生

PAH(肺動脈性肺高血圧症)とは心臓から肺へ血液を送る動脈、すなわち「肺動脈」の血圧が高くなる病気です。「高血圧」という言葉が含まれてはいますが、全身性の高血圧症とは異なります。PAHは肺動脈の流れが悪くなることでその血圧が上がり、心臓の負担が大きくなり息苦しさが増していく病気で、厚生労働省により難病に指定されています。PAHの患者数は3700人(2018年データ)で、近年は年々増加しています。その背景には、患者さんが多く発見されていることと、長生きできるようになったことがあります。

肺動脈性肺高血圧症とは

課題は「診断・治療の遅れ」

PAHは進行性の病気であり、できるだけ早い段階で発見して適切に治療することが非常に重要です。しかし、PAHの症状は胸の痛みや息切れなど、心臓や肺の病気で割とよく見られるもので、この病気に特異的なものではありません。そのため診断までに時間がかかることが多く、問題となっています。また、PAHは子どもを持つ若い世代に多く見られ、女性の患者数は男性の2倍以上であることが分かっています。

PAHはどのように診断するの?

PAHを疑うときは心電図や超音波心エコー検査、あるいは心臓のカテーテル検査などを行い、結果を複合的に見て状態や重症度を調べます。

検査の1つに「6分間歩行検査」があります。これは、PAHをはじめとする肺の病気でよく行われる検査です。6分間しっかりと歩けるかどうかという運動能力を調べ、重症度や予後を予測します。6分間しっかりと歩くのは健康な方なら何ともないかもしれませんが、患者さんにとっては想像よりも大変なものです。

近年は新たな治療薬が出てきた

治療薬がない時代、PAHは完治させるのが非常に難しいとされていました。治療しない場合は診断からの平均生存期間が2.8年で、非常に予後の悪い病気だったのです。

しかし近年では飲み薬や点滴薬などが登場し、病気の進行を抑えることが可能になっています。ただし、適切なタイミングで治療を行わないと病気の進行を抑えることは困難です。進行性の病気であること、そして症状からは気付きにくく診断が難しいため、いかに早期発見できるかがPAHの治療におけるポイントとなります。特に最近では、複数の薬を使うことでPAHの症状や状態が大きく改善する例もあります。新たな治療薬や治療戦略によって状態が改善する例も増え、以前よりも多くの患者さんが長生きして元気に日々の生活を送れるようになっているというのが現在の動きです。

本人の意思や希望を共有する「SDM」の大切さ

新たな治療薬の登場で患者さんが長生きできるようになり、今は「生きるためだけ」の治療ではなく、いかに生活を充実させるかをご本人・ご家族・医療者が共に考えることが重要になっています。

医療者は、患者さんの希望や気になること、挑戦したいことについて伺います。自分らしい生活を送るためには、病気と向き合う大変な気持ちだけでなく、希望を持って治療のゴールやステップを考える必要があるからです。このように、患者さんと医療者が共同で、本人の意思や希望を共有しながら治療における決定を検討する過程を「共同意思決定(SDM:シェアード・ディシジョン・メイキング)」といいます。

PAHは日常生活に支障をきたす症状もあり、不安を感じる方も多いでしょう。SDMを適切に行うことで患者さん本人の生活が充実する可能性がありますので、SDMについて主治医と相談してみてはいかがでしょうか。

SDMとは

新型コロナとPAH

最後に、PAHと新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)についてお話しします。あるアンケート調査では、PAHの患者さんは肺高血圧症の症状について心配なだけでなく、COVID-19感染拡大の影響でそれまでと同じ生活ができなくなった、あるいは感染したら重症化するのではないかという不安を抱いている方が多かったです。

一方で、本日のイベントのようにオンラインでさまざまな情報に触れることができたり、テレワークが進み会社への通勤の負担が減ったり、さらには学校の保護者会がオンライン化されるなど、療養生活へのよい影響もあったようです。

また、COVID-19の影響で変わったことの1つに「オンライン診療の浸透」があります。国際医療福祉大学三田病院 肺高血圧症センターでは、2016年からオンライン診療サービスを提供してきました。それがコロナ禍において患者さんのニーズと合致し、価値を発揮しています。たとえばPAHでは定期的に薬の処方を行う必要とするケースなどがあり、そのような場合にはオンライン診療を併用することで、通院の負担や感染のリスクを減らしながら適切な治療を継続的に受けることが可能になります。

田村雄一先生からのメッセージ

PAHはまれな病気であるがゆえに、適切な診断を早期に受けられず困っている方が多くいらっしゃいます。つらい息切れなどの症状が続いているのに、PAHの可能性が考慮されていないために薬による治療が受けられない、診断すらされていない患者さんがまだまだいるのです。そのため、1人でも多くの方にPAHという病気を理解していただきたいと思い、このような活動を続けています。医療者だけでなく一般生活者の方々にPAHを認識いただき、PAHの適切な診断・治療が日本中で行われることを願います。

※レポートの続きはこちらのページをご覧ください。

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