毎年2月の最終日「世界希少・難治性疾患の日(Rare Disease Day:RDD)」に行われる国際的な社会啓発イベントRare Disease Day 2024。その一環で「Rare Disease Day 2024 シンポジウム」(共催:武田薬品工業株式会社、RDD Japan事務局)が2024年2月8日(木)に東京で開催されました。テーマは、染色体や遺伝子の変異によって起こる、患者さんの数が非常に少ない病気「希少遺伝性疾患」の理解促進。本稿ではパネルディスカッションの概要をリポートします。
希少遺伝性疾患を専門とする医師、認定遺伝カウンセラー、患者家族会代表の3人が登壇し、会場およびオンライン配信の参加者からの質問に答えつつディスカッションを行いました。
西村さん:
希少遺伝性疾患の患者さんを取り巻く環境が時代とともに変化するなか、患者・家族はどのように情報と向き合い、医療者と関わっていくとよいのでしょうか。
武田さん:
遺伝カウンセリングに来られた方からは「同じ病気の患者さんやご家族とつながりたい」「体験談を知りたい」と仰る方もいます。患者さんのSNSやブログの情報を見ると生活の様子をイメージしやすいでしょう。しかし、一人ひとり症状や状況は異なるため、その情報が全ての方に当てはまるわけではありません。同じ病気を持つ患者さんの1つの例としてとらえていただきたいと思います。
柏木さん:
ご自身でインターネット上の情報を検索したり、SNSの投稿を読んだりすることは構わないと思います。しかし、病気の症状や状況には個人差があるので、検索して出てきた情報を全て鵜呑みにすることは危険です。その点については、主治医の先生や認定遺伝カウンセラーの方からしっかりと伝えていただけたらと思います。
村山先生:
インターネット上には正しい情報もそうでない情報もあります。私は率直に、患者さんに「ネットに何か書いてありましたか?」とたずねることもあります。患者さんが抱えている悩みや疑問を共有いただいたうえで「その情報の一部は正しいけれど、私はこう思います」「この情報は見解が分かれます」とオープンに話し合える関係を築くことが大事なのだと思います。
認定遺伝カウンセラーだけでなく遺伝看護専門看護師のように、遺伝に関して深い知識や理解を持った専門家がいます。私たち医療者も理解を深めていくことが大切と考えます。
西村さん:
認定遺伝カウンセラーの数は今後も増えていくのでしょうか。
武田さん:
遺伝子検査が少しずつ一般診療の中で行われるようになってきたこともあり、認定遺伝カウンセラーの需要は高まってきています。養成専門課程を新設する大学院も増えてきました。今後、雇用体制や遺伝カウンセリングを行う体制などの課題が解決されることで、さらに増員につながるのではと期待しています。
西村さん:
遺伝カウンセリングが普及していくなかで改善すべき点はありますか。
武田さん:
単に認定遺伝カウンセラーの人数を増やすだけでなく、質を担保していくことも大事です。遺伝リテラシーが高く、患者さんとご家族に真摯に対応できる方に志していただきたいと思っています。また、現在遺伝カウンセリングは基本的に一部を除き自費診療で行われているのですが、今後は費用面からも受けやすい環境が整うとよいと思います。
西村さん:
地域によって医療提供体制が異なる現状があります。今後は、全ての都道府県で同じような医療サービスを受けられるようになるのでしょうか。
村山先生:
病気の種類によって異なると思います。たとえば、2018年から行ってきた拡大新生児スクリーニング*の取り組みは、近年少しずつ認知が広まってきました。しっかりとデータを蓄積して公表し、問題点も挙げながら進めていくことが、全国的な格差の是正につながっていくと思います。
*拡大新生児スクリーニング:現行の新生児マススクリーニング(先天性代謝異常等検査)よりも検査対象を拡大して行うもの。
西村さん:
拡大新生児スクリーニングの対象疾患はどのような基準で選ばれるのでしょうか。
村山先生:
現行の新生児マススクリーニングは、厚生労働省の通知に基づき自治体が主体となって実施されています。拡大新生児スクリーニングは、新生児マススクリーニングの対象になっていない疾患を検査するものです。
疾患の選定にあたっては、検査の精度、診断された後に適切な治療を受けることによって予後が大幅に改善するか、それらにかかる費用、受け入れ可能な専門医や施設の有無などを考慮して、総合的に判断されています。
西村さん:
遺伝カウンセリングをオンラインや電話でも受けられれば、遠方にお住まいの方などにとって希望になると思います。このような取り組みは進んでいるのでしょうか。
武田さん:
オンラインで実施している施設は徐々に増えてきています。今後、病院でもICT(情報通信技術)の活用がさらに進み、普及していくことを期待しています。
柏木さん:
専門の医師が全国に数人しかいない病気もあります。身近な地域内で解決することは難しい場合が多いので、患者とその家族にとってはオンラインで専門家と気軽につながれる仕組みが整えばとてもありがたいです。
西村さん:
希少疾患では患者数そのものが少なく、専門医も限られています。患者さんやご家族はどのような行動を起こしていけばよいと考えられますか。
柏木さん:
私は病気についてもっと深く理解したいときは、専門的で難しい論文でもまず自分で読んでみて、主治医の先生に1行ずつ質問して解説してもらうことから始めました。利用できる制度についてはソーシャルワーカーの方に教えてもらいました。制度も変化していくので、一度調べた時には対象外だったけれどその後使えるようになったものもあります。常にアンテナを張って、諦めずこまめに情報を探す行動は大事なのかもしれません。
柏木さん:
誰もがインターネットで情報を検索する時代になりました。それによって、希少遺伝性疾患の病名から画一的なイメージを持たれて、判断されてしまうことがよくあると聞きます。この機会にぜひ知っていただきたいのは、同じ病名であっても個人差が大きいということです。そして、病名だけを見て怖がらないでほしいと思います。
武田さん:
希少遺伝性疾患と診断された後、遺伝に関する偏見やネガティブなイメージからつらい気持ちを抱えてしまう方もいます。病気の有無にかかわらず、全ての方が生きやすい社会になるよう社会全体で考えていくことが重要かと思います。
村山先生:
私は小児科医として希少疾患の診療や新生児のスクリーニングに長く携わってきました。早期に病気を発見して診断、治療につなげていくことはとても大切です。しかし、医療者にできることは限られているので、一人ひとり、社会全体が子どもたちを育てていくという意識を持っていくことが何よりも大事だと思います。
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