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連載難病・希少疾患患者に勇気を

診断が難しい希少疾患「ライソゾーム病」―疑いあれば専門機関受診を

公開日

2021年02月26日

更新日

2021年02月26日

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2021年02月26日

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遺伝子の異常によって全身にさまざまな症状が現れる「ライソゾーム病」。希少疾患で、限られた専門家でなければ診断が難しいため、この病気とは分からずに苦しんでいる患者さんがいるかもしれません。ライソゾーム病とはどのような病気で、どんな時に疑ったらいいのでしょうか。30年にわたりライソゾーム病と向き合ってきた東京慈恵会医科大学附属病院の井田博幸病院長に伺いました。

60歳を過ぎて判明した症例も

私は1981年に大学を卒業してからライソゾーム病の診断・治療に関与してきました。特に専門とするゴーシェ病とかかわるようになったのは、アメリカ留学から帰国後の1992年ごろからです。ゴーシェ病は希少疾患ですので、この30年で診断した患者さんは200例に届きません。

その中でも印象深いのが、15年ほど前に血液内科から紹介された当時63歳の患者さんです。その方は血液成分の1つである「血小板」が少し少なかったものの、明らかに異常を疑うほどではありませんでした。慎重に診察すると、肝臓や脾臓(ひぞう)が軽く腫れていました。

血小板というのは、傷ができたときに血液を固めて止血する働きをする成分です。この方の場合は血小板の低下が軽度だったので、少し血が止まりにくいというぐらいで顕著な異常は感じてこなかったのだと思います。ゴーシェ病は治療が可能ですので、78歳になる今も元気でいらっしゃいます。

ゴーシェ病も含めライソゾーム病は遺伝的な病気で、普通は子どものころに発症します。ところが、大人になってから発症したり、この患者さんのように高齢になるまで分からなかったりする方もいらっしゃいます。

原因は細胞内「消化管」の機能不全

ライソゾームは「細胞内小器官」の1つで「リソソーム」とも呼ばれます。細胞の中には比較的有名な核やミトコンドリアをはじめとしてさまざまな小器官があり、それぞれが独自の機能を持っています。このうちライソゾームは、人体に例えると「消化管」にあたり、細胞内に取り込まれた物質を分解=消化する役割があります。

PIXTA/MedicalNote

消化するために、内部にはさまざまな酵素が含まれています。酵素は遺伝子の指示によってつくられるたんぱく質ですが、遺伝子に異常が起こると酵素がつくられなくなったり、あるいは機能が悪くなったりするために“消化不良”のような状態になります。そうなると、ライソゾームの中に消化しきれない物質がたまってしまい、体にさまざまな不具合が生じてしまいます。

それがライソゾーム病の原因で、どのような酵素がうまく働かなくなったりするか、それによってどんな物質がたまっていくのかなどによって、細かく病名がつけられています。

例えば、ゴーシェ病は「グルコセレブロシド」という糖脂質を分解する酵素の不足・欠損が原因で起こります。この物質は肝臓、脾臓、骨髄にたまるので肝臓や脾臓が肥大したり、貧血や血小板の減少が起こったりします。

ムコ多糖症という病気だと、「グリコサミノグリカン」という物質が分解できなくなります。「ムコ多糖」とも呼ばれ、骨や軟骨の成分です。したがって、これがたまると、関節が固まったり(拘縮)、骨が変形したりといった症状が現れます。整形手術をイメージすると分かると思いますが、骨が変形すると顔貌が大きく変わります。ムコ多糖症に特有の顔つきになるのも症状の1つです。

これらはあくまで1例で、ライソゾーム病は現在60種の病気が分かっています 。どういう酵素が欠損しているか、それで何がたまるのかによって症状が変わってきます。また、酵素活性(物質を分解する反応の速度や効率)がどれぐらい低下するかによって、分解できない物質がたまる速度が変わり、それによって発症の時期や症状の進行、予後なども変わってきます。致死的なものもある一方、冒頭でお話ししたように高齢になるまで気付かずに一生をほぼ全うされる方もいます。

「代謝異常」とは

ライソゾーム病は「先天性代謝異常症」という、病気の大枠に含まれる疾患群です。

「代謝」とは、あるものが体の中で別のものに変わることを指します。例えば食事をすると体を動かすエネルギーや、髪の毛、皮膚、血液などの「最終産物」に変わります。しかし、食べたもの=Aがいきなり最終産物=Xになることはありません。AからB、BからC……というようにいくつものステップを経てXができます。そして、それぞれのステップの反応を進めるのが酵素です。ここでBからCに変化させる酵素がうまく働かないと、Bがどんどんたまり、不具合が生じてしまいます。それが「代謝異常」です。「先天性」とは、遺伝によって起こるということです。

酵素補充や骨髄移植などで治療

遺伝子を修復することができれば根本的な治療になるのですが、残念ながら今の医療はそこまで至っていません。ではどう治療するか。

考え方としては、酵素を補充するか活性を何らかの形で上げてやる、あるいは分解できない物質をたまりにくくするということです。

まず、「酵素補充療法」は、足りない酵素を点滴で体内に入れる治療です。ゴーシェ病をはじめとして、いくつかの病気で酵素製剤が薬事承認を受けています。

酵素が分解するものを「基質」といいます。基質もそれ以前の反応で生成されるので、基質をつくるための酵素を抑制すればある程度、分解できない物質がたまるのを抑えることができます。これが「基質合成抑制療法」です。

血液の病気の治療で行われる骨髄移植も、ライソゾーム病の一部に効果があります。骨髄には、いろいろな細胞に変われる「幹細胞」が含まれます。幹細胞が肝臓や脳などの組織に生着し、そこで正常な酵素を含むたんぱく質をつくり出します。そのたんぱく質が、それまで分解できなかった物質を分解してくれるようになります。

ライソゾーム病は、たんぱく質の“設計図”にあたる遺伝子の一部が通常とは異なる並びになることで起こり、この異なる並びのことを「遺伝子変異」といいます。その変異の仕方によって、起こることは大きく3つのパターンがあります。1つはその設計図に基づいてつくられるはずのたんぱく質が全くつくられなくなる。2つ目はたんぱく質の構造が変わってしまい、機能が果たせなくなる。3つ目は物質の分解にとても重要な部分が損なわれる――。この2つ目のパターンに関して、たんぱく質の構造を変えることによって酵素活性を高める薬がつくられました。これが、日本では2018年に導入された「シャペロン療法」です。

どんな症状があったら疑うべきか

どんな時にこの病気を疑うべきか。ポイントは(1)家族歴(2)進行性(3)多臓器症状(4)治療抵抗性――の4つです。

(1)家族歴:家族や親類に同じ症状が出ます。この病気のほとんどは「常染色体劣性遺伝」といって、2本のDNA鎖の両方に遺伝子変異があることによって発症します。両親は片方のDNA鎖に遺伝子変異をもつ「保因者」です。したがって、4分の1の確率で発症します。また、2分の1の確率で、症状は出ないものの原因となる遺伝子を持つ「保因者」になります。

(2)進行性:細胞の中で分解できない物質がたまっていくために起こるので、放っておいて止まることはないし、良くなることもありません。必ず進行します。

(3)多臓器症状:酵素は全身に分布しているので、さまざまな臓器に症状が出ます。

(4)治療抵抗性:酵素欠損が根本的な原因なので、対症療法的な薬を投与しても改善しないどころかだんだん悪くなっていきます。

他にもそれぞれの病気に特異的な症状はありますが、上記4つがあるときにはライソゾーム病を疑ってみてください。

希少疾患なので、一般臨床の医師や、まして患者さんやご家族が、先天代謝異常症だなどと思いつきもしないでしょう。ライソゾーム病を診断するには最終的に酵素を測ったり遺伝子を調べたりする必要があります。ところが、一般の検査機関ではほぼ測定ができません。私でもできない酵素測定もあります。

ではどこで診断できるかというと、私が日本先天代謝異常学会の理事長を務めていたときに、精密検査施設の一覧をつくってホームページに掲載しました。これを見ると、どの医療機関がどの疾患を得意としているかが分かると思います。

早期発見が重要

疑いがあれば、正確に診断することはとても重要です。例えば骨や関節に影響が出る場合、病気が進んでしまうと、治療をしても元に戻らないということもあります。ですから、早期に見つけて、治療できるものは治療してあげることがまず大事です。

ただ、ライソゾーム病の中にはまだ治療法がないものもあります。それでも、診断をつけることによって、その後の進行や遺伝に関する説明などきちんとお伝えすることができます。ですから、疑いがあれば、検査ができる施設を受診して診断をつけていただきたいと思います。