連載難病・希少疾患患者に勇気を

“原因不明突然死”もある希少疾患「後天性血栓性血小板減少性紫斑病」 新治療薬承認

公開日

2022年12月05日

更新日

2022年12月05日

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2022年12月05日

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自己抗体によって血液中の酵素がはたらかなくなり、血管が詰まってさまざまな臓器が障害される希少疾患「後天性血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)」に対する新しい作用機序の治療薬が9月、日本で製造販売の承認を受けた。ラクダ科のラマの抗体を基にした「ナノボディ」と呼ばれる低分子の薬剤で、TTPの微小な血栓形成を阻害する初めての薬品という。奈良県立医科大学輸血部の松本雅則教授を招いて、このほど製造販売元のサノフィが開いたセミナーから、TTPの原因や病態、新薬がどのように作用するかについて紹介する。

松本雅則教授(サノフィ提供)

未診断患者もいる可能性

数日前から不調を訴え、自宅で療養していた20歳代前半の男子大学生。「なんだかおかしい」とトイレにこもったのち、数時間後に倒れているのが発見された。救急搬送されるも死亡を確認。法医学教室で解剖されたが死因を確定することができず、残った臓器の組織を特殊な染色方法で調べ、やっと判明した死因はTTPによる心停止だった――。松本氏が紹介した症例の1つだ。

TTPは、血液を固める成分の血小板が塊(血小板血栓)になり抹消の細い動脈に詰まって臓器に障害を起こしたり、貧血を起こしたりする病気。難病に指定されている。無治療の場合は発症から2週間以内に約9割が血栓症で死亡するとされる。年間の患者数は約500人とされているが「未診断の“隠れた患者”はまだいるのではないか」と松本氏は推測する。

血栓 なぜできる?

TTPは「ADAMTS13」と名付けられた、血管内で血栓が作られるのを防ぐ酵素に対する自己抗体(多くはIgG)が産生されることが原因で発症する。

血管の内側の組織が傷つくなどしたとき、血液中の「von Willebrand因子(VWF)」というサイズの大きい糖タンパク質が、傷ついた場所の組織と血小板を粘着させ、出血を止める役割を果たしている。血管内に分泌されたばかりのVWFは多岐にわたる多重体(マルチマー)構造になっている。通常はADAMTS13がVWFを切断するため血小板と接着しても血栓はできにくい。ところが、自己抗体によってADAMTS13の活性が大きく低下するとVWFが切断されず、細い動脈の中など「ずり応力(液体の流れに対する抵抗力)」が高い場所では小さく折り畳みができる「伸展構造」をとって血小板と結びつき、血栓が形成されて血流が遮断される。

サノフィの資料より

こうして形成された血栓の影響で、精神神経症状や腎機能障害、血小板減少、溶血性貧血などの症状が現れる。心臓の動脈に血栓ができると致死的な不整脈が起こり、急死することもありうる。患者のほとんどは後天性だが、まれに先天性の患者もみられる。女性の先天性患者は、妊娠すると20週を過ぎたころに発作が起こるタイプもある。流産するだけでなく母体にも危険が生じ、子宮全摘や死亡例もあるという。

従来の治療は血漿交換、免疫抑制剤投与

発症すると血小板が減少するが、血小板輸血は血栓をより悪化させるため禁忌とされる。後天性TTPの従来の治療法は▽血漿交換とステロイド、またはステロイドパルス療法を併用することによりADAMTS13を補充するとともに自己抗体を除去▽免疫抑制剤により自己抗体の産生を抑制する――の2つが行われている。抗がん剤・免疫抑制剤のリツキシマブが有効と報告されているものの適用は難治・再発例に限られ、最初の治療として使うことができない。また、微小血栓の形成を直接阻害する治療薬はこれまでなかった。

今回承認された新薬「カブリビ(一般名:カプラシズマブ)」は、活性化した血小板が結合するVWFの「A1ドメイン」という場所に特異的に結合。血小板との結合を阻害することで血栓の形成を抑制し、臓器への影響を抑える。

サノフィによると、カブリビは分子量が従来の抗体の約5分の1と小さい「ナノボディ」。分子量が小さいため、組織内で通常の抗体が接近できない抗原の部位を認識することができる。ヒトやマウスなどが産生する抗体は「重鎖」と「軽鎖」の2種類のタンパク質で構成されている。一方、ラクダ科の動物やサメなどの軟骨魚類は重鎖のみの抗体を持ち、ナノボディはその「可変領域(抗体のうち異物と結合する領域)」。カブリビはラクダ科のラマの抗体をヒト化したもので、同社が欧米で承認を取得したナノボディベースの薬剤としては初の製品としている。欧州では2018年、米国では2019年にそれぞれ承認されている。

「ナノボディ」とは(サノフィの資料より)

新薬使うべきケースは

新薬はどのようなケースで使われるべきなのか。

「国際血栓止血学会のガイドラインでは、ADAMTS13が著減している症例についてはこの薬を使うことに関し躊躇すべきではないと記載されている。医療経済的な観点からも、使うべき症例を考えなければならないが、臓器障害が強い、精神神経症状が出ているなど予後が悪い患者さんにはファーストライン(第1選択薬)で使うべきだろう」と松本氏は説明する。

また、未診断の隠れた患者の存在が想定されるが、そうした患者を発見するためにはどうすればよいのだろうか。

「かなり症状が進まないと不調が自覚できないことが多いので、患者さんが自分でこの病気の兆候に気付くのは難しいだろう。医師は、血小板減少の症状が現れる病気の中で症例数が多い特発性血小板減少性紫斑病の治療が効かないなど、おかしいと思われる症例についてはTTPの可能性を考慮し、すぐにADAMTS13の活性を測定してもらいたい」と話した。

*本記事には医療用医薬品や開発品の情報が含まれますが、情報提供を目的としたものであり、プロモーションや広告、医学的なアドバイス等を目的とするものではありません。

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