連載難病・希少疾患患者に勇気を

暗闇に光を届ける―希少難病の支援団体 検査・診断支援するサイトセミナー開催

公開日

2024年04月09日

更新日

2024年04月09日

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2024年04月09日

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“健やか親子支援協会”は希少難病の子どもと家族を支える団体だ。なかなか専門医に出会えず診断に至らない、治療法が見つからない――難病患者の難民化とも呼ばれる5つの「ない」を解決するため、“小児希少難病の精査診療機関検索サイト”(以下、検索サイト)の充実を目指している。本稿では、オンライン配信中のセミナーから、希少難病患者が感じる情報不足についてリポートする。

(「小児希少難病の精査診療機関検索サイトセミナー」)

【プログラム】

  • 開会挨拶
  • 来賓挨拶
  • 基調講演「難病に関わる社会的課題解決への取り組み」
  • 部会1 パネルディスカッション「希少難病に関する検査施設と専門医の情報不足を考える」
  • 部会2 パネルディスカッション「検索サイトの具体的な使い方の説明(事例)」
  • 部会3 パネルディスカッション「今後必要な情報(治験・薬剤)」

開会挨拶

河村秋さん(健やか親子支援協会 理事長)

事務局提供画像

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健やか親子支援協会は▽検査を行った際の検体輸送サービスの提供▽生活基盤を安定させるためのご家族の就労支援や経済的支援を目的とした基金・保険の創設▽希少難病に対する啓発・広報――など、多岐にわたる取り組みを行っている。

検索サイトの構築もその中の1つで、現在では掲載している疾患数も189まで増加した。ご協力いただいている検討委員会、専門医、患者会、検査機関、企業などに心から感謝している。難病患者が早期に専門医につながり、適切な治療・支援が受けられるように、多くの人に検索サイトを知っていただけるように願っている。

来賓挨拶

山田章平さん(厚生労働省 難病対策課 課長)

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厚生労働省では、児童福祉法に基づき小児慢性特定疾病に対する医療費助成を実施しており、慢性疾患を抱える子どもの自立を促す取り組みを進めている。早期に正しく診断され、診断後は地域の身近な医療機関で適切な医療を受けられるように医療提供体制の整備や、慢性疾患を抱える子どもが小児期から成人期にかけて切れ目なく支援を受けられるように移行期医療の整備について調査や検討を行っている。検索サイトセミナーを通じてより多くの方の利用を期待したい。

児童福祉法の改正により、2023年10月からは小児慢性特定疾病への医療費助成の支給開始日を遡ることができるようになった。これからも小児慢性特定疾病を抱える子どもが地域で安心して暮らせるよう取り組みを進めてまいりたい。

森和彦さん(日本製薬工業協会 専務理事)

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世界的には希少難病に対してもたくさんの新薬が生み出されており、日本の製薬企業も熱心に開発に取り組んでいる。一方で、2023年2月に希少難病の患者を対象に困りごとについて調査したところ、情報へのアクセスの難しさや情報が整理されていないことが上位にあがった。これらは医師や製薬企業も同じように感じており、まさに解決策を求めていた。製薬業界としても多くの方にサイトを活用いただけることを願っている。

基調講演「難病に関わる社会的課題解決への取り組み」

佐谷秀行先生(健やか親子支援協会 理事・検索サイト検討委員会 委員長、藤田医科大学がん医療研究センター センター長、慶應義塾大学 名誉教授)

事務局提供画像

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難病患者は、5つの「ない」▽治療法がない▽薬がない▽診断に至らない▽情報がない▽周囲に理解されない――に代表される数多くの困難を抱えている。がんと同様に専門家に巡り合うまで長い時間と多大な労力を要する、いわゆる「難民化」が大きな課題だ。

検索サイトは、難病患者または難病の可能性がある患者を日頃診察しているかかりつけ医に対して「専門医のいる医療機関、専門的な検査を実施している機関」の情報を提供することを目指している。

(「小児希少難病の精査診療機関検索サイト」)

サイトの情報は、専門家や学会・研究チームの指導を得て作成し、許可を得て掲載している。指定難病・小児慢性特定疾病に指定されていない疾患の情報も、専門家の判断と検討委員会での協議を経て対象としている。2024年3月には、臨床研究等提出・公開システム(jRCT)をもとに、難病に特化した治験の情報も追加する予定だ(2024年4月現在追加済)。将来的には難病の治療薬に関する相談窓口も設置したい。

5つの「ある」▽治療法がある▽薬がある▽診断に至る▽情報がある▽周囲の理解を得られる――を目指し、私たちのミッションである“患者・家族が希望を持てる社会”を目指していきたい。

部会1 パネルディスカッション「希少難病に関する検査施設と専門医の情報不足を考える」

部会1のパネルディスカッションでは、希少難病の情報不足について実例を交えながら語り合った。発言要旨を紹介する。

事務局提供画像

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◇  ◇  ◇

*司会・プレゼンテーター:難波栄二先生(医療法人晴顕会 大谷病院 副院長、鳥取大学 研究推進機構 特任教授)

現在、希少難病に関する情報は以下のようにさまざまなサイトで提供されており、集約されていない。

1. 難病情報センター リンク:https://www.nanbyou.or.jp/

対象は、国が指定する指定難病338疾患。診断基準などの疾患情報や助成制度などの情報が中心。

2. 小児慢性特定疾病情報センター リンク:https://www.shouman.jp/

対象は、国が指定する小児慢性特定疾病788疾患で、指定難病以外も多く含まれる。診断基準などの疾患情報や助成制度などの情報が中心。

3. 一部の学会による情報提供

4. 全国遺伝子医療部門連絡会議 リンク:http://www.idenshiiryoubumon.org/search/

遺伝カウンセリングなどを実施している施設の情報。

5. 遺伝学的検査の情報

・遺伝学的検査検索システム リンク:http://www.kentaikensa.jp/

 日本人類遺伝学会により運営。対象は、保険収載されている遺伝学的検査と実施施設の情報。

・かずさDNA研究所 リンク:https://www.kazusa.or.jp/genetest/test_insured.html(保険収載)、https://www.kazusa.or.jp/genetest/test_non_insured.html(保険収載以外)

保険収載の有無にかかわらず実施している遺伝子検査の情報を掲載。

指定難病、小児慢性特定疾病以外の希少難病については、国による情報提供は充実していない。医師も患者・家族も情報を得ることが困難で、なかなか専門の診療機関や専門医に結び付かず悩むことが多い。

指定難病では全体の7割程度について遺伝子検査の保険収載が進んでいる。2024年度の診療報酬改訂では、複数疾患におよぶ遺伝学的検査全体が保険収載される予定だ。これを皮切りに網羅的な解析が保険診療で行えるようになると、診断へのアクセスも改善されると思う。

鈴木歌織さん(HNRNP疾患患者家族会 HNRNP JAPAN代表)

HNRNP疾患とは、主に遺伝子の突然変異によって起こる神経発達障害で、乳児期から顕著な発達遅滞、てんかんなどの症状が認められる。非常にまれな疾患で患者数は世界全体で700人ほどである(2023年時点)。確定診断のためには未診断疾患イニシアチブ(IRUD)に参加するなど詳しい遺伝子検査が必要だ。そのため、HNRNP JAPANの会員は初診から診断まで平均3.7年かかっており、内訳として、専門医につながるまでに数年を要していることもある。

情報が圧倒的に不足しているため、文字どおり真っ暗闇の中で途方に暮れてどこにも行けない。患者・家族は知らないことに対しては決断も選択もできない。そのため、まずは選択肢を示し、対話し、決断に寄り添ってほしい。たとえ現時点では治療法がなくても、診断がつくことでつながれるコミュニティや支援、研究などがある。日本語の情報が存在することそのものが非常に大きな助けになる。

辻邦夫さん(一般社団法人日本難病・疾病団体協議会(JPA) 常務理事)

JPAは難病や慢性疾病などの患者団体や地域難病連など、約100団体が集まる患者・家族の会の全国組織だ。直近の実態調査でも、約4割の患者さんが確定診断まで長くかかったと感じたと回答し、中でも染色体や遺伝子に変化を伴う症候群の患者は診断まで5年以上かかっている例も非常に多かった。また、約1割の患者さんは確定診断に至るまでに10以上の医療機関にかかっていた。長かったと感じた理由として最多だったのは「医師もその疾患について知識や経験が不足していたため」という回答だったことは印象的だ。

患者は症状が進行するなかで大きな不安を抱え、診断がつくことで「正直ほっとした」という方も多くいる。今後、遺伝子治療など治療が進展していくなか中、患者にとって確定診断は治療につながる大きな期待だ。有益な情報は患者だけでなく医療者にとっても助けになる。今後は治験情報の充実にも期待したい。

宇佐美真一先生(信州大学名誉教授 人工聴覚器学講座 特任教授)

遺伝学的検査は多くの疾患で行われているが、難聴はその社会実装がもっとも進んでいる領域だ。難聴は、難聴が唯一の症状である非症候群性難聴とほかの症状も伴う症候群性難聴の2つに分けられる。症候性難聴は300~400の症候群で、一部は国の指定難病になっている。難聴の原因でもっとも多いのは遺伝子で、非症候群性難聴だけでも120以上の遺伝子の関与が分かっている。日本人難聴患者1万人のデータを集計した研究では診断率は約40%、先天性難聴に限れば約50%が診断に至っている。そのため遺伝子検査によって原因を調べることは、患者にとっても医師にとっても重要だ。

先天性難聴の遺伝子検査は当初研究として開始されたのち、2008年に先進医療として承認され、2012年に保険適用となった。何度かのアップグレードを経て、2022年からは50遺伝子1135変異のスクリーニングが可能となっている。難治性聴覚障害に関する調査研究は全国の60施設とともに実施しており、各都道府県に1~2か所の拠点を設けている。これらの拠点が窓口となり、診断、そして治療につなげていきたい。

難聴領域では、研究で明らかになった成果を保険収載として臨床応用を進めてきた。保険収載されないとなかなか普及しないため、学会や患者会が連携して働きかけを行っていけるとよいと思う。

宇佐美先生提供画像

宇佐美先生提供画像

盛一享徳先生(国立成育医療研究センター研究所 小児慢性特定疾病情報室)

今回の診療報酬改定で、将来的に大きなゲノム検査につながるであろう網羅的な遺伝子検査が保険収載されたことは大きな進歩だと感じている。同じ病気でも複数の遺伝子が原因となっていることも多いので、複数の遺伝子を一度に調べられると診断までの時間も短縮でき、医療経済的にもメリットがある。               

日本語の医療情報は正確性に不安を覚えるサイトがあることも事実だ。検索サイトはよく仕上がっている。難しい情報を正しく伝えていくことは大変だが、支援いただける方を増やしつつ、正確性を損なわないよう信頼性を担保しながら着実に保守・更新を進めていただけるとよいと思う。関係者に「ここをみれば大丈夫」と信頼していただけるサイトとなることを期待したい。

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