連載難病・希少疾患患者に勇気を

発熱や痛みを繰り返す「家族性地中海熱」を早期診断するために今医師がすべきこと

公開日

2020年10月01日

更新日

2020年10月01日

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2020年10月01日

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体が本来持つ免疫が暴走することによって体中に炎症が起こり発熱や痛みの症状が現れる遺伝性の疾患「家族性地中海熱(Familial Mediterranean fever:FMF)」は、適切な診断がつけば薬によって症状のコントロールができます。2017年には診療ガイドラインが登場し、全国の医師が診断可能になった一方で、まだその病態を知る医師は多いとはいえず、未診断のまま症状に悩む患者さんがいるのが現状です。長年にわたりFMFの診療・研究・啓発活動に尽力してきた久留米大学呼吸器・神経・膠原病(こうげんびょう)内科教授の井田弘明先生と、同大小児科准教授の西小森隆太先生に、FMFの診断を行うために大切なこと、これまで取り組んできたことなどについて聞きました。

治療可能なFMF患者さんのために広く疾患啓発を

井田先生:

発熱や腹痛、胸痛、関節痛などを発作的に繰り返す家族性地中海熱(FMF)*は、かつて診断が困難な病気でした。しかし、日本小児リウマチ学会により「自己炎症性疾患*診療ガイドライン2017」が作られたことで、現在はガイドラインに基づいた診断を全国の医師が実施できる状況になりました。私としてはこの変化が非常に重要だと思っています。

FMFの治療はコルヒチンによる薬物療法が第1選択で、その有効性は科学的にも証明されています。つまり、診断ができれば、コルヒチンなどの経口薬によって種々の症状の改善が期待できるのです。だからこそ、まずは確実に診断し、適切な治療に結び付けたいという思いがあります。また、未診断で症状に悩む方を1人でも多く助けるために、一般の方々・医師の両方にFMFという病気を啓発することが非常に重要だと考えています。

*家族性地中海熱:遺伝的な原因によって発症する自己炎症性疾患のひとつ
*自己炎症性疾患:自然免疫系の異常によって起こる炎症性の病気の総称

西小森先生:

なかなかFMFという診断がつかず、いろいろな病院を受診して回り、適切な治療を受けられていない患者さんがいます。FMF患者さんのQOL(生活の質)は薬の適切な使用によって劇的に改善する可能性があります。患者さんのためにも、「家族性地中海熱という遺伝性の病気があり、発熱や痛みを繰り返し、成人以降で発症することが珍しくないが、治療法は存在する」ということを広く知っていただくことが大事だと思っています。

井田先生:

より迅速な診断を行うためにはFMFという病気を知る医師を増やすことも重要です。そのために、私たちは2010年に「自己炎症疾患研究会」を立ち上げて啓発活動をしてきました。その結果、少しずつFMFを知る先生が増えてきており、以前に比べて診断に至るまでの時間が短縮されてきているのではないかと実感しています。

西小森先生:

自己炎症疾患研究会はその後、日本免疫不全症研究会、食細胞機能異常症研究会の2研究会と共同で「一般社団法人日本免疫不全・自己炎症学会 」を設立し、現在も学会全体で自己炎症性疾患の啓発活動を行っています。さらに、原因遺伝子であるMEFV遺伝子検査の保険収載について厚生労働省に働きかけをし続けた結果、2020年4月からMEFV検査が保険下で実施できるようになりました。このような私たちの取り組みが、1人でも多くのFMF患者さんを救うことにつながればうれしいと思っています。

成人発症も多いFMFは「原因不明の発熱」から見極める

井田弘明先生

井田先生:

患者さんが膠原病内科を受診する一般的なきっかけは、一定期間以上続く原因不明の発熱(不明熱*)です。不明熱でまず鑑別すべきは感染症とがんです。そして、どちらでもないというときに膠原病が疑われます。これらの3大不明熱を鑑別した後に診断がつかない場合、FMFなどの自己炎症性疾患を考えます。

FMFは成人での発症が珍しくありません。だからこそ小児科医のみならず、内科医もしっかりとFMFを診断できる知識を身につけていなければなりません。

FMFのなかには高熱が出ずに微熱が続くタイプ、典型的な症状である胸痛・腹痛よりも関節痛・筋肉痛が強いタイプなど、症状が典型的でないケースもみられるので、臨床症状からの診断が難しいことがあります。特に最近は新型コロナ感染を心配することによる精神的ストレスから発熱するケースも増えてきており、他疾患との鑑別をより一層慎重に行う必要があります。

診断後の治療では医師が患者さんと相談しながら第1選択薬であるコルヒチンを上手に使うことが大前提で、どうしても効果が得られない場合に次の手段を検討します。たとえば、薬の副作用がひどいという場合でも、すぐに「効果よりも副作用が重い」と判断するのではなく、まずは服用量の調整や錠剤の分割などを試みて、副作用が出ない最低限の量を見極めるなどの工夫が求められます。

*不明熱:38度以上の発熱が3週間続いて3日間の入院あるいは3回の外来でも診断がつかない状態。

小児科医の目線から見るFMF

小児期発症のFMFの性質は不明確―遺伝子検査をどう組み入れるか

西小森隆太先生

西小森先生:

小児期発症のFMFは通常、思春期以降に腹膜炎、胸膜炎などの漿膜炎と言われるFMFに特徴的な症状が現れるとされています。小児期に診断される症例は成人ほど多くはありませんが、小児期の場合も通常、周期熱(繰り返す発熱)などをきっかけに受診されるケースが一般的です。その中でFMFの診断には、ガイドラインにありますように遺伝子検査などの検査を行いますが、臨床像からの診断が最も重要とされております。また、小児期に起こる周期熱の原因は、成人同様にFMF以外にも他の自己炎症性疾患や膠原病、細菌感染症、腫瘍などの可能性もあります。そのため、手当たり次第に遺伝子検査を行ってその結果に頼るのではなく、さまざまな病気の可能性を考えながら診断を行っていくことが大事だと考えます。

小児FMFの診療で大切な「つき合い方の土台作り」

西小森先生:

FMFは診断がついた後も基本的に一生つき合っていく必要のある病気です。たとえば症状の安定している方でも、薬の服用を1日スキップするだけで発作が出ることがあります。小児期に発症した場合はその分病気とつき合う期間が長くなります。私は小児科医として、どうすれば患者さんの症状が安定した状態で成人を迎えられるか、良好な予後を保てるか、長期間にわたる管理法をどうすべきか――といった「土台」を作っていくお手伝いができたらと考えています。

発症に関わる遺伝子検査の保険収載で変わること

井田先生:

医師がFMFを疑ったときにもっとも悩ましいのは「遺伝子検査をどこでしたらいいのか」だと思います。

西小森先生:

MEFV遺伝子検査が保険収載されるまでは、担当医がFMFを疑っても具体的な検査をどこにお願いしたらよいのかという手順が明確ではありませんでした。保険承認が下りたことにより、検査から診断、治療までの運用体系もクリアになってきていると感じます。

診療の専門家から患者さんに伝えたいメッセージ

井田弘明先生と西小森隆太先生

井田先生:

正しく適切な量の薬(コルヒチン)を服用していれば、基本的には諸症状をコントロールできるはずです。ただし、人によっては下痢などの副作用が強く生じることがあるため、つらい場合は主治医に相談して副作用のコントロールも併せて行っていきましょう。薬が効かない場合でも、近年では生物学的製剤など別の治療選択肢が広がりを見せています。どのような方法があるのかを一緒に考えながら根気強く治療していきましょう。

さらに、思春期以降は結婚や妊娠・出産などのライフイベントが発生します。それぞれの段階でしっかりと話し合い、どのような対策をするか、一緒に考えていきたいと思っています。自分だけで抱え込まず、悩んだときは主治医に相談してください。

西小森先生:

FMFはその名の通り地中海地方で最初に発見された病気であり、これまでは地中海地方に住む患者さんを念頭に置いた疾患情報が発信されてきました。裏を返せば、過去の情報は、必ずしも日本の患者さんにすべて当てはまるとは限らないということになります。実際に、かつては海外で示されたエビデンスと日本のエビデンスが合致しない、1つの遺伝子変異に対する考え方が異なるなどの問題もありました。

ただし最近では日本国内でも多様な情報が集まってきており、「日本におけるFMFの病態」が解明されつつあると感じています。また、「非典型例」と呼ばれるFMFの病態をどのようにとらえ、どう治療していくのかが課題になっており、将来的には「難病プラットフォーム」という形で患者さんを登録するシステムを構築したいと考えています。これにより、非典型例の病態、予後を明らかにし、適切な治療法を発見していきたいと思います。

この取り組みは、現段階では研究レベルになりますが、一人ひとりの患者さんにより適切な治療を届けるために、私たちはこれからも研究を続けていきます。

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