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連載特集

診断のきっかけ、仕事との両立、新型コロナ治療……潰瘍性大腸炎とはどんな病気か

公開日

2020年09月08日

更新日

2020年09月08日

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2020年09月08日

掲載しました。
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安倍晋三首相の突然の辞任発表で、原因として挙げられた潰瘍性大腸炎が注目を集めています。

これまでも、安倍首相は潰瘍性大腸炎と付き合いながら首相の職を続けてきたとされていますが、どうなると仕事の両立が難しくなるのでしょうか。また、一般に炎症を抑えるためには免疫の抑制が必要になることもあります。新型コロナが流行している現在、治療を継続するリスクはないのでしょうか。潰瘍性大腸炎について、札幌医科大学医学部消化器内科学講座教授の仲瀬裕志先生にお伺いしました。

血便を繰り返す場合は必ず受診を

指定難病でもある潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらん(ただれ)や潰瘍ができる炎症性疾患で、国内には約22万人の患者さんがいるといわれています。では、どのようなきっかけで発見されるのでしょうか。

この病気の症状としてもっとも多いのは血便です。典型的な潰瘍性大腸炎は、直腸から炎症が始まるので、血便が出ることが多いのです。血便の前に粘液便が出ることもありますし、粘液便が後ということもあります。それからしばらくすると、便の回数が徐々に増えていきます。血便または粘液便、次に下痢、腹痛、発熱というように症状が経過していくパターンが多いです。

潰瘍性大腸炎で現れる腹痛は、多くの方が経験したことのあるような通常の腹痛と同じです。排便の前におなかが痛くなることが多いですが、病気が進行すると大腸の炎症が継続するために排便の前以外でも痛みが現れるようになります。また、朝方に腹痛が現れるのも特徴です。

注意していただきたいのは、血便が一時的に消失したしたために症状がおさまったと勘違いしてしまうことです。また、痔だと判断し、ずっと痔の薬を使用する方がいらっしゃいます。痔の薬の中には炎症を抑える成分を含む薬剤があり、それによって潰瘍性大腸炎(直腸炎)の症状が少し治まってしまうと、発見が遅くなってしまうことがあるのです。

血便を繰り返しているような方は、自分で判断することなく必ず受診するようにしてください。それが潰瘍性大腸炎の発見につながります。

腹痛のイメージ
写真:Pixta

治療は進歩している

潰瘍性大腸炎の治療は主に薬で行われます。近年は、薬が非常に進歩しています。ステロイドが主流の時代もありましたが、病態の解明に伴い、効果のある治療薬が続々と登場しています。薬の選択肢が多様であるのは、潰瘍性大腸炎の原因が多様であると考えられるからです。つまり、効果のある薬は、患者さんによって異なります。

研究は現在も続けられているので、今後はさらに、1人ひとりの患者さんの状態に合わせて、効果のある薬を選択できる時代が来ると考えています。

仕事との両立には「体の状態をベストに保つこと」

潰瘍性大腸炎は、活動期と寛解期(完治ではないが症状が治まって穏やかな時期)に分類されます。ただし、寛解期になっても病気が再燃して再び活動期に入ってしまうことがあります。この再燃は、腸内環境の変化や、ストレスが関係しているともいわれています。

また、まれではありますが抗菌薬の服用が原因で、腸内環境が悪化することがあります。何らかの痛み止めを長期間飲み続けることで、腸管のバリア機能が低下し、炎症が進行しやすくなることも考えられます。

活動期と寛解期を繰り返すため、仕事を継続することができるかどうか、不安に感じられる方もいらっしゃるかもしれません。

潰瘍性大腸炎を発症したとしても、仕事は可能です。しかし、中途半端な状態で仕事に戻ることはお勧めしません。実際に、患者さんに「そろそろ仕事を再開してもよいでしょうか」と聞かれることがあります。そのときに私は、「一番悪いときを0、最もよい状態を10だとしたら、今はどの状態ですか?」と確認します。10に近いくらい改善しているのであれば、仕事を再開していただきたいです。しかし、体力が十分に回復していないのであれば、まずは治療に専念し、状態をよくしてから復帰していただきたいと思っています。

原因は1人ひとり異なる

潰瘍性大腸炎を発症する原因は分かっているのでしょうか。今のところ、残念ながら特定に至っていません。そのために「指定難病」であるのでしょう。私は、潰瘍性大腸炎の原因は1つではなく多様であると考えています。原因は患者さん1人ひとり異なるのではないでしょうか。現時点で考えられることは、ある特定の遺伝子に異常が起こることで病気を発症する人もいれば、遺伝子の異常がなくても発症する人がいるということです。

その中でも、遺伝子に異常がなく、他のさまざまな要因が影響し発症しているケースの方が多いと考えています。発症に関与していると考えられるものが腸内細菌(腸内環境)の乱れです。私たちの腸内には、さまざまな腸内細菌が存在しており、食事などの生活環境によってそのパターンは変化することがわかっています。それに伴って、免疫の異常が起こることがあります。

たとえば、水が変わるとおなかを壊すといわれることがありますよね。食べ物や飲み物が変わることで下痢をする。つまり、誰でもおなかの炎症が起こることがあるわけです。しかしそうした一過性の炎症とは異なり、潰瘍性大腸炎の人は腸内細菌のパターンの変化によって炎症を抑え込むシステムがうまく働かなくなって発症するのではないかと考えられています。

食べ物に制限はあるの?

大腸の病気ということで食べてはいけないものがあるのではないかと誤解している方が、よくいらっしゃいます。実際には、潰瘍性大腸炎であっても、病気の状態が安定していれば基本的に食べ物に制限はありません。ただし、食べ過ぎには注意していただきたいですし、できれば栄養バランスを心がけながら食事していただきたいと思います。

現在の課題の1つは、病院によって食事療法がばらばらであることです。たとえば、食物繊維をとることを禁止される場合もありますが、逆に食物繊維をとらないことで腸内細菌のパターンが変化し、腸内環境が悪化することがあります。これでは病気の状態の悪化につながりかねません。

腸内細菌のパターンを良くするような食事が大切です。そのためにはバランスのよい食事を心がけてください。

バランスのよい食事
写真:Pixta

新型コロナを理由に治療を中断しないで

炎症を抑える薬を使用すると、感染症にかかりやすくなるという特徴があります。そのため、新型コロナウイルスへの感染を不安に思われる患者さんもいらっしゃるでしょう。

現時点でわかっているのは、病気の状態が落ち着いていない患者さんやステロイド治療中の患者さん(コロナウイルスパンデミック状況下では、プレドニン<一般名:プレドニゾロン>1日20mg以下の投与にすることが推奨されています)とCOVID-19重症化との関連が報告されています。そのため、主治医と相談しながら感染には十分に注意してください。そして、状態が落ち着いている場合であっても、3密の回避や手洗い、マスク着用などに取り組んでほしいと思います。

実際に、新型コロナへの不安から病院の受診を控えたために、治療を中断してしまうケースもあります。それで病気が悪化してしまった患者さんもいらっしゃいます。

私が所属する札幌医科大学消化器内科学講座では「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下における炎症性腸疾患(IBD)患者さんへのお願い」という患者さん向けのパンフレットを作成しています。こちらも参考に、たとえ病気が安定していたとしても主治医と相談しながら治療を続けるようにしてください。

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