連載少子化時代の小児科医療

子供が減ってもまだまだ残る「小児科医療がすべきこと」

公開日

2020年10月20日

更新日

2020年10月20日

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2020年10月20日

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国立研究開発法人国立成育医療研究センター 理事長

五十嵐 隆 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2020年10月20日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

少子化時代の小児科医療【4】

少子化が進んでも、子育て中に親が抱く不安には変わりがありません。小児医療は、その不安にどうこたえていけばいいのでしょうか。国立成育医療研究センターの五十嵐隆理事長に小児科医療の現状と今後求められることについて聞くインタビューの第4回は、小児科医療が解決すべき課題がテーマです。

予防接種と健診は後回しせずに

新型コロナの影響で、小児科の受診が極端に減っています。ピークだった4~6月よりは持ち直しているものの、有効なワクチンと効果的な治療薬が開発・利用されるようになるまでの相当な期間、受診控えが続くと思われます。

ですが、予防接種と健診は「不要不急」ではなく、子どもにとって必要で後回しにはできないものだということを強く訴えたいと思います。一方、医療提供者には、感染への不安を減らすために医療設備側の感染予防対策をしっかりと実施し、そのうえで「小児科は感染が怖いところではない」ことを外部に向かってアピールしなければなりません。

オンラインで親に「安心」与えられるシステム作りも

厚生労働省は4月から、新型コロナ対策で暫定的に初診からのオンライン診療を許可しました。

今回のコロナ流行で、成育医療研究センターにコロナ対策室を設置しました。流行が始まってすぐに、対策室の医師が保護者の方にアンケートを行いました。その中で「感染予防を完全にして感染が起こらないようにした状況で、子どもの集団健診を受けますか」という問いに、28%が「受けたくない」と回答しました。予防策をきちんとしたとしても、健診に行かないという人が3割近くいたのです。

では「感染予防策をとったうえで個別健診を受けますか」という問いには、99%は「受ける」と回答しました。つまり、健診は必要なことと理解してはいながらも、「集団になることでの感染」に対する恐怖感が勝るということです。

それでは、「オンラインで相談できるような健診があれば利用しますか」という問いには、すべてオンラインというわけにはいきませんが健診会場に行けないときにある程度のことができるのであれば、約7割が「使ってもいい」と回答しています。若い保護者の方たちは、新しいツールを使うことに対して抵抗感がないのでしょう。

成育出身の小児科医が5月に1カ月間、経済産業省の補助を受けてオンライン“診療”ではなく、「相談事業」を行いました。「発疹が出た」とか「ミルクをどうやって飲ませたらいいか」といったような相談を、メールと電話の両方で受けて回答するというものです。

利用者で1番多かったのが、0歳児の親御さんでした。「頭をぶつけてしまった」「熱が出たがどうしたらいいか」といった事故や急病についての問い合わせも多数ありましたが、それ以上に乳児の子育てについて分からないことを聞きたいという相談が圧倒的に多かったそうです。心配なことが起こった時に電話やメールをすればできるだけ早く反応してくれる、答えをくれるというシステムがあれば、それは親御さんにとって非常に安心だろうと思います。事実、大変好評を博して多くの方から「また機会があれば使いたい」と評価してもらえたと聞き及んでいます。

そうした意味で、前回述べたAIもオンライン診療なども、もちろん限界はあるでしょうが、親御さんたちに安心を与えられるシステムになるのではないかと、今考えているところです。小児保健・医療にオンラインを使う際の有効性や問題点について研究することが重要です。

五十嵐隆先生

医療・学問だけで解決できない課題も

新型コロナウイルスの流行により、人々の生活スタイルが大きく変化しました。予防接種体制の改善により小児の重症感染症患者は減少していたことに加え、コロナによる生活スタイルの変化がさまざまな感染症の流行を減らしています。その結果、開業されている小児科だけでなく、これまで感染症患者を多く受け入れてきた基幹病院小児科の入院患者も減っています。さらに、医師の働き方改革も進んでおり、将来、小児が入院できる医療施設は集約されてくることが予想されます。

そのような状況が進んだ場合、子育て中の保護者の方が子どものことで不安がある時にはスマホを使ってメールや電話でアクセスできるような体制ができていると大きな助けになります。親御さんの不安を減らすために、今までにはなかった優れたツールを上手に使うことも検討すべきです。

わが国の小児保健・医療の現場では、子どもや子育てのために整備しなくてはならないことがまだまだたくさん残されています。少子化が進んでも、小児科は“斜陽産業”ではありません。

小児保健・医療の現場では、これまでの取り組みでは解決できない課題が多数出てきていることは、関係する人たちはみな分かっています。小児保健・医療に従事する者だけでなく、研究者、支援者、自治体や国などがタッグを組んで解決していく必要があります。このような取り組みが進む事で、日本の子どもたちはもう少し幸せになれるのではないかと思っています。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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国立研究開発法人国立成育医療研究センター 理事長

五十嵐 隆 先生

東京大学小児科教授、東京大学医学部附属病院副院長を経て現在は国立成育医療研究センター理事長を務める。日本小児科学会では前会長、現在は監事を務め小児腎臓病学を専門とする。これからの小児科医のあり方についても提唱を行うとともに、後進の教育や日本の小児医療をより良くするためのアウトリーチ活動にも積極的に取り組んでいる。