概要
ゴーシェ病とは、グルコセレブロシドと呼ばれる糖脂質が体の組織に沈着する病気で、“スフィンゴリピドーシス”という病気の1つです。日本での発症率は33万人に1人とされるまれな病気です。
ゴーシェ病は症状や進行速度によって3つのタイプがあり、肝臓や脾臓、骨に異常を引き起こすほか、日本ではけいれんや運動発達の遅れ、認知機能障害などの神経症状を引き起こすタイプがあります。
治療は不足した酵素の補充療法や基質合成抑制療法があり、また各症状を改善するための対症療法が行われます。
原因
ゴーシェ病の原因遺伝子であるグルコセレブロシダーゼ(GBA)遺伝子の変異により、ライソゾーム酵素の1つであるグルコセレブロシダーゼの活性が低くなり、グルコセレブロシドが代謝されずにマクロファージ(血液中の細胞の1つ)系の細胞に蓄積することが原因です。
この病気は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)することが分かっています。
症状
ゴーシェ病はグルコセレブロシドが体内に蓄積することで、全身の組織にダメージを与え、症状を引き起こします。グルコセレブロシドは主に肝臓・脾臓・骨髄に蓄積し、それらの臓器や器官に異常をきたします。
病型は“1型(非神経型)”、“2型(急性神経型)”、“3型(亜急性神経型)”の3つのタイプに分類されます。
1型は、貧血、血小板減少、肝脾腫(肝臓や脾臓の腫大)、骨の症状が引き起こされ、将来的に骨粗鬆症や骨髄腫などの合併もあるとされています。2型と3型はこれらの症状のほか、中枢神経症状として発達の遅れや退行、けいれん、運動麻痺、水平方向の目の動きの異常、認知機能障害などを引き起こします。日本では2型と3型を合わせた発症頻度が約6割を占めており、神経症状を合併する人が多いといわれています。
なお、発症時期は1型と3型は小児期以降ですが、2型は乳児期に発症して急激に進行していくケースが多くみられます。
検査・診断
ゴーシェ病が疑われるときは以下のような検査が行われます。
血液検査
貧血や血小板減少などからゴーシェ病を疑った場合は、血液検査でアンギオテンシン変換酵素(ACE)や骨型酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRACP-5b)が上昇していることを確認します。
画像検査
ゴーシェ病では肝臓や脾臓の腫れ、骨の異常などがみられるため、それらの状態を確認するためにエコー検査、X線検査、CT、MRIなどの画像検査が行われます。
骨髄検査
ゴーシェ病では骨髄中に“ゴーシェ細胞”という特殊な細胞がみられるようになります。そのため、骨髄を採取して顕微鏡で観察することにより、かなり診断に近づくと考えられます。ただ、見つけにくいこともありますので確認できなくてもゴーシェ病を否定することはできません。
遺伝子検査
確定診断のためには遺伝子検査も有用です。遺伝子検査は保険診療で実施できます。
病的な遺伝子変異が2つ確認できる場合はゴーシェ病の確定診断を下すことができますが、遺伝子変異の病原性が明らかではない、遺伝子変異が片方しか見つからない場合には確定診断とすることはできず、酵素活性検査が必要となります。
酵素活性検査
確定診断のために、リンパ球や培養皮膚線維芽細胞などを採取して酵素の活性を調べる検査が行われます。
治療
ゴーシェ病の基本的な治療は、不足したグルコセレブロシダーゼを補充する酵素補充療法とグルコセレブロシドの蓄積を抑える基質合成抑制療法があり、そのほかに現れた症状を改善するための対症療法があります。
酵素補充療法は肝脾腫や骨髄症状、骨症状に一定の効果が証明されていますが、脳内には届かないため神経症状への効果は乏しいとされています。
基質合成抑制療法は、エリグルスタットを内服することで貧血、血小板減少症、肝脾腫、骨症状の改善が認められていますが、神経症状に対する効果は期待できないといわれています。
対症療法は現れる症状によって方法が大きく異なりますが、具体的にはけいれんに対する抗けいれん薬などの薬物療法、運動麻痺に対するリハビリテーション、呼吸障害に対する呼吸補助療法、嚥下障害に対する胃瘻造設などが挙げられます。
また、3型における神経症状に骨髄移植が有効とする報告もありますが、移植片宿主病*(GVHD)などの合併症のリスクもあり、その適応は限定的と考えられます。
なお、ゴーシェ病の治療に対する研究は世界中で行われており、日本でも2型3型の神経症状を改善するためのアンブロキソールの医師主導治験なども実施されています。
*移植片宿主病:移植されたドナーのリンパ球が患者の身体を異物として攻撃することによって起きる合併症。
予防
ゴーシェ病は遺伝が関与する病気であるため、現在のところ、発症を予防する方法はありません。しかし、現在ではいくつかの治療法があり、それにより以前よりも予後が改善していますので、可能な限り早く診断されて治療を開始することが望ましいと考えられます。2020年ごろから国内のいくつかの地域では拡大新生児マススクリーニング検査の対象疾患に組み込まれており、これが広がることにより早期診断による予後改善が期待されます1)。
参考文献
- 一般社団法人 日本マススクリーニング学会(https://www.jsms.gr.jp/download/Exp_Screening_LabSummary_230720.pdf)
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