ゴーシェ病は、先天代謝異常症であるライソゾーム病に属する疾患のひとつです。ゴーシェ病では、生まれつき糖脂質(グルコセレブロシド)を分解するはたらきをもつグルコセレブロシターゼと呼ばれる酵素のはたらきが悪くなるために、脾臓(ひぞう)が腫れたり神経症状が現れたりします。
現れる症状や重症度は病型によって大きく異なりますが、どのような治療が適応されるのでしょうか。また、患者さんが注意すべき点はあるのでしょうか。
今回は東京慈恵会医科大学附属病院の井田 博幸先生に、ライソゾーム病のひとつであるゴーシェ病の診断と治療についてお話しいただきました。
ゴーシェ病の原因や症状については記事1『ゴーシェ病の原因や症状-先天代謝異常症・ライソゾーム病のひとつ』をご覧ください。
ゴーシェ病の診断には、グルコセレブロシターゼと呼ばれる酵素活性の測定が有用です。記事1でお話ししたように、ゴーシェ病を発症すると、脾臓の腫れや、それに伴う血小板の減少、神経症状などが現れます。これらのような症状が現れたときに、グルコセレブロシターゼ(酵素)が欠乏していることを証明できれば、ゴーシェ病と診断することができます。皮膚の細胞を採取し、それを培養した細胞で酵素活性を測定します。検査の結果、グルコセレブロシターゼ(酵素)が欠損していれば、ゴーシェ病と診断できます。
ゴーシェ病の可能性を疑うとき、日本では小児科を受診される方が多いです。それは、記事1でお話ししたように、日本では5歳以下で発症する方が最も多いからです。
小児科の医師へのゴーシェ病の啓発が進んでいることもあり、小児科において疾患が見逃されるケースは少ないでしょう。時間がかかる場合があったとしても、最終的には診断を受けることができるのではないでしょうか。そのため、乳児や小児の方の場合には、小児科を受診されることがゴーシェ病の早期発見につながると思います。
比較的症状が軽い成人の患者さんは、血液内科を受診し、血小板減少という検査値異常によって見つかるケースが多いでしょう。私は、血液内科において脾腫(脾臓の腫れ)を伴う血小板減少を呈する患者さんを診た場合、ゴーシェ病を鑑別診断のひとつに加えるべきであると考えています。
ゴーシェ病の主な治療法は、酵素補充療法(ERT)になります。酵素補充療法とは、疾患に欠乏している酵素を補充する治療法です。この治療法では、2週間に一度、点滴静注によって酵素を投与します。極めて安全で効果も認められている治療法ですが、以下の2つの課題があるといわれています。まず治療を受けるために2週間に1度通院しなくてはいけないこと、また、薬が脳へは到達しないために神経症状には効果がないことです。
これらの課題はありますが、病型に関わらず、現状では多くのゴーシェ病の患者さんに適応されている治療法です。
新たな治療法として2015年に保険適用が認められたのが、基質合成抑制療法(SRT)です。このSRTは、糖脂質(グルコセレブロシド)の合成を抑制することによって、グルコセレブロシドの蓄積を軽減させる治療法です。SRTは経口薬であるため、治療のために頻繁に通院する必要がない点が大きな特徴であるでしょう。ただし、現在の薬剤は神経症状に効果は認められていません。したがって、現在のところⅠ型の患者さんへ適応されるケースが多く、酵素補充療法によってある程度症状が落ち着いた患者さんに用いられています。
適応自体はまれですが、治療法のひとつに骨髄移植もあります。この骨髄移植には、神経症状を抑える効果があります。神経症状が進行した患者さんでは移植が不可能であるため、実施のタイミングが非常に難しく、日本では、ゴーシェ病の患者さんに対して数例の実施報告しかありません。
ゴーシェ病の神経症状に有効な治療法が少ないなか、脳へ到達し神経症状に効果が認められる治療法として登場した治療法がケミカルシャペロン療法です。2017年11月現在、医師主導治験として実施されています。このケミカルシャペロン療法は、すべての患者さんに効果があるわけではありません。すなわち、遺伝子変異により不安定な酵素蛋白が産生される場合しか効果がありません。したがって特有な遺伝子変異を有する患者さんのみに効果が認められています。このように適応は限られていますが、神経症状に効果のある治療法として期待されています。
ここでは、私が長年ゴーシェ病の患者さんと向き合うなかで、日常生活や治療において注意したほうがよいと思う点についてお話しします。
まず、止血の効果がある血小板が少ない病初期は、出血しやすくなるため、怪我には注意する必要があるでしょう。
神経症状を伴わないⅠ型の患者さんは、きちんと治療をしていけば、予後は比較的良好な方が多いといわれています。仕事や学校など、通常通りの社会性活を送る方も少なくありません。しかし、そのためには、治療の継続が重要です。忙しいからといった理由で治療を中断してしまうことは、病状の悪化につながってしまいます。そのため、状況が改善されたとしても治療を継続することが重要です。
神経症状を伴い重症化する方の多いⅡ型の患者さんは、トータルケアが必要になります。何を目標にして治療をしていくかを家族で話し合う必要があるでしょう。また、気管切開し人工呼吸器を適応している患者さんが多いので肺炎には注意が必要でしょう。また難治性のけいれんを伴うことが多いので、けいれんのコントロールが重要になります。
ゴーシェ病は女性でも発症するため、妊娠・出産が可能かどうか気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ゴーシェ病の患者さんの中には妊娠中もERTを継続し、無事に出産している方もいます。妊娠した際に血小板減少が見つかりゴーシェ病と診断されるケースもあります。
ゴーシェ病によって脾臓が大きくなると子宮を圧迫してしまい、その結果、流産の確率が高くなってしまうといわれています。また、血小板が減少するために出血しやすくなるという危険性もあります。そのため、妊娠中もERTを継続しながら出産にいたるケースが多いと報告されています。SRTの使用は、妊娠中・授乳中、ともに禁じられています。
記事1でお話ししたように、母親がゴーシェ病であったとしても、父親が保因者でなければ子どもがゴーシェ病を発症する可能性はありません。
私は、ゴーシェ病の遺伝子変異や治療法の研究とともに、疾患の啓蒙や患者さんの悩みを聞く活動も行っています。たとえば、日本ゴーシェ病の会と呼ばれる患者家族の会ではアドバイザーをしています。同会では、まれな疾患であるゴーシェ病の貴重な情報共有の場を提供しています。
今後は、遺伝子治療や神経症状に効果のある治療など、新たな治療が登場する可能性もあるでしょう。稀少疾患であるゴーシェ病と診断されても落胆することなく、人生を前向きにとらえていっていただきたいと思います。
学校法人慈恵大学 理事/東京慈恵会医科大学 特命教授
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