9月3日の「秋の睡眠の日」に合わせて、神経・精神疾患領域に特化した治療薬の開発と商業化に取り組む製薬ベンチャー「アキュリスファーマ」は医療情報メディア「Medical Note」内に睡眠関連疾患特集サイトを公開。これを記念し、専門家らを講師に招いて成長期にある子どもたちの正しい睡眠と課題について考えるメディアセミナー「“うかうか”してはいられない!日中の“うとうと” ~日中の居眠りがサインかも!家庭と学校の連携で気づく 子どもが抱える睡眠の問題~」を開催した。秋の睡眠の日は「9(ぐっ)3(すり)」の語呂合わせから、「睡眠健康推進機構」が制定。前後1週間の8月27日~9月10日を「健康睡眠週間」と定め、さまざまな啓発活動が行われている。
セミナーでは日本睡眠学会理事長/久留米大学学長、医学部神経精神医学講座名誉教授、内村直尚氏が「睡眠実態調査から見える子供たちのSOS! 成長期の子どもの睡眠と関連疾患について、大人たちが知るべきこと」と題して、子どもの睡眠の実態や睡眠に関連する課題などについて解説した。
睡眠の不足は子どもの脳と心、体の成長に重大な影響を及ぼすことがさまざまな研究から分かっている。
子どもにとって理想的な睡眠時間の目安は、小学生が9~11時間、中高生が8~10時間とされている。日本の子どもは10歳ぐらいまでは推奨時間内の睡眠が取れているが、小学校高学年を過ぎると推奨時間を下回るようになり、中学生になると明らかに推奨時間よりも短くなる。
子どもにとって睡眠は▽脳の休養、疲労回復▽脳の過熱を防ぐための体温低下▽記憶の固定▽身体の休養▽エネルギーの保存▽身体の成長(成長ホルモン分泌)▽免疫機能増加――といった役割を果たす。脳の記憶に関連する「海馬」は、睡眠時間が長いほど体積が大きくなる。また、睡眠は記憶の固定にも密接に関連し、学習したことを長期記憶として残すには睡眠が不可欠であることも示されている。
睡眠が十分に取れないと、記憶、学習能力、やる気や集中力、行動や感情の制御などを担う脳の前頭前野の活性が低下し、発達障害やADHD(注意欠如・多動症)に類似した症状を呈する。
睡眠は肥満とも関係がある。睡眠が不足すると甘味に対して鈍感になり糖分を多めに取りがちになる。また、満腹を感じるホルモンのレプチンが減り、逆に摂食を亢進させるグレリンが増える。
ヒトの生体リズムは脳の視床下部・視交叉上核という領域にある体内時計に規定される。ただ、この体内時計の「1日」は地球の24時間のサイクルよりもやや長いことが知られている。そのため、朝の光や食事のリズムなどによってヒトは無意識に体内時計をリセットしている。
規則正しい生活のためには朝食、運動、ヒトとの接触、昼と夜で受ける光のメリハリをつけることが大切だ。
大人でも、週末に昼近くまで眠ってしまう人がいる。土日に5時間遅寝をすると2泊3日でハワイ旅行に行ったのと同じだけの“時差ぼけ”が生じる。子どもの体内時計は大人よりも敏感で、1時間程度のずれでもリズムが乱れて自律神経やホルモン、代謝に影響が出る。子どもが夏休みの30~40日の間中遅寝をし、2学期が始まって1時間早く起きようとするとリズムが乱れ、
――などのリスクを高める可能性がある。したがって長期休暇中も規則正しい生活をすべきことが示されている。リズムが乱れることにより、うつや適応障害を起こして自殺につながることも分かっており、夏休み中にリズムを乱さないように過ごすことは子どもの命を守るためにも大切だ。
子どもには以下の表のような睡眠障害がみられやすい。
このうち、子どもの睡眠時無呼吸は大人以上に心身への影響が大きく、
――などが現れ、本来持つ成長の能力が抑制される恐れがある。
近年、小学校入学時に約10%の子どもに発達障害の可能性があるといわれるが、実は睡眠が十分に取れていないため誤診されている例も少なくないと考えられる。
睡眠関連疾患セルフチェックリストを使えばある程度、睡眠関連疾患のスクリーニングができる。
夜ぐっすり眠るためには、以下の「生活リズム10カ条」を守ることが大切だ。
子どもは眠気を適切に訴えることが難しく、学童期の睡眠関連疾患は診断が困難で見過ごされやすい。子どもの日中の強い眠気や居眠りは問題を察知するサインになり得ることから、大人の適切な注意と支援が子どもの心身の成長を助けることになる。
「少子化対策がいわれているが、数少ない子どもたちの未来を明るくして成長発達させるには、睡眠が必要。夜の睡眠だけでなく昼間の眠気を大人が敏感に察知して対応する必要があるのではないか」と内村氏は結んだ。
続いて内村氏に加え、木田哲生氏(堺市教育委員会主任指導主事/上級睡眠健康指導士、日本眠育推進協議会評議員)、沼田晶弘氏(東京学芸大学附属世田谷小学校教諭)、岩本まどか氏(アキュリスファーマ執行役員チーフ・デジタル・オフィサー)が登壇、「授業中の居眠りから考える子供の睡眠課題解消に向けて」と題したトークセッションが行われた。
中学2年生の親でもある岩本氏は「子どもは、0時ごろに寝る自分よりも遅くまで起きていることもある一方、部活の朝練があるときは6時に家を出る。睡眠不足を心配している」と、子どもの睡眠実態を把握できていない不安を話した。
沼田氏によると「寝ない人のほうが格好いい」と思っている子どもが多く、小学生に睡眠時間を聞いてもうそをつくため確実に把握ができないと指摘した。そのうえで、睡眠に関しては「早く寝る子が一番格好いい」という空気を作るようにしていると報告。メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手が毎日10時間睡眠を取るほか、2時間昼寝をしていることを明言していることに触れ「大谷選手の例は『睡眠をしっかり取るとスーパーマンになれるかも』『実力をもっと出せるようになるかも』と子どもたちに意識させる影響があったのではないか。大谷選手の発言は、寝ることが楽しいと思わせるチャンスになるかもしれない」と話した。
木田氏は、睡眠の大切さ、寝ないとどんな影響があるか、スムーズに眠るためにはどうしたらよいかを学び、睡眠や生活習慣の改善を目指す「眠育」を行っている。睡眠リズムの乱れによって学校に行きたくても行けない子どもと関わるなかで、心の支援に加えて睡眠についての支援もすることで不登校の改善につながるかもしれないと考え、研究者とともに睡眠教育を始めたと説明。木田氏は勤務校で2015年に眠育を始め、5年間で不登校生徒の割合を半分以上減らすことができたという。
木田氏によると、これまで面談してきた約200人の子どもの「眠れない原因」を分析したところ、大きく3つに分類できるという。1つは生活習慣や、スマートフォン、ゲームによって夜更かしをしてしまうケース、もう1つは過度なストレスや緊張、不安などの心理的な影響によるケースで、面談によって初めていじめや虐待などが背景にあることが判明。この2つの原因がほぼ9割を占めていた。残る1割は病気で、睡眠にかかわるもののほか、アトピーやぜんそくなどで睡眠の質が低下したり、薬の副作用で眠れなくなったりする。病気の場合は適切な治療を受けて改善させる必要があると指摘した。
内村氏は「夜の睡眠が十分に取れなかったり、昼間の病的な眠気があったりする子どもは少なくない。それによって子どもの成長・発達が阻害されることは日本にとっての損失だ。子どもに睡眠の問題があるとき、小児科でも診断できるところとそうでないところがある。日本睡眠学会は『睡眠科』を標榜できるよう厚労省と相談している。それができるようになれば睡眠の重要性があらためて認識され、日本が大きく変わることができるのではないか。睡眠をキーワードに、将来のある子どもを支えてゆきたい」と述べた。
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