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外国人への適切な医療提供と保険制度維持へ 打った手と残った課題―自見はなこ氏が講演

公開日

2023年01月31日

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2023年01月31日

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2023年01月31日

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ここ数年は新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行により日本を訪れる外国人観光客は大きく減少していたが、2022年10月より個人旅行も解禁されるなど入国制限が見直され増加に転じている。日本に滞在する外国人が増えれば、必然的に病気やけがの対応が必要な人も増加する。また新型コロナウイルスの罹患者であれば、コロナ専用の対応も必要とされる。言葉や文化、習慣が異なる国で安心して医療を受けてもらうために、そして医療を提供する側も困らないように、参議院議員 自見はなこ先生はさまざまな取り組みを進めてきた。2022年11月3日に札幌市で開かれた「第7回国際臨床医学会学術集会」での基調講演をもとに解説する。

「何とかしてほしい」の声に応えて

私は小児科医として勤務していたが、2016年7月に参議院議員選挙(比例代表)で初当選した。2017年7月に沖縄県を訪れた際、医師会より「外国人観光客の増加に伴いさまざまなトラブルが発生して大変なことになっている。何とかしてほしい」と陳情を受け、現地視察を経て、2018年から議員として本件の活動を開始した。

外国人への医療提供に関する課題は大きく2つに分けられる。1つは、観光、ビジネスなどで一時的に滞在している訪日外国人への対応である。日本の公的医療保険には加入しておらず、医療通訳、多言語対応、自由診療の価格設定、民間医療保険の加入などの課題がある。もう1つは、労働者など日本で生活している在留外国人への対応である。日本の公的医療保険に加入しており、本人確認(なりすまし対策)、被扶養者の認定要件、海外出産などの課題がある。

一時的に日本に滞在している外国人への対応

観光業と医療機関が連携して対応力向上を目指す

訪日外国人への対応については、2018年3月より自由民主党(以下、自民党)政務調査会「外国人観光客に対する医療プロジェクトチーム」にて検討を開始、同年4月に「外国人観光客に対する快適な医療の確保に向けた第一次提言」を取りまとめた。

提言では次の3つを柱に掲げた。

  • 宿泊業・旅行業・医療機関等における外国人観光客への対応能力の向上支援
  • 旅行保険への加入の勧奨
  • 外国人観光客増加に伴う感染症対策の強化

そのうえで、窓口業務から入院に至るまでのマニュアル整備、多言語に対応する医療通訳の養成、自由診療領域の診療価格の考え方の提示の必要性、都道府県ごとに観光部局と医療部局が連携して対策協議会を設置することなどを盛り込んだ。

先方提供

外国人観光客に対する快適な医療の確保に向けた第一次提言より引用

2018年5月に菅義偉内閣官房長官(当時)に提言書を手渡して申し入れを行った結果、2019年度には約17億円の予算が確保され、「訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業」としてほぼ全てが実現に至った。医療コーディネーターや医療通訳等の養成・配置、医療通訳・ICTツールなど多言語でのコミュニケーションの体制整備(希少言語は国で一元化して対応)、応召義務に対する考え方も含めた適切な対応の整理などが進展し、全都道府県で対策協議会の設置も決定した。

医療費の未払いを防ぐ―一つひとつ着実に

また、外国人患者を受け入れた病院の約2割が医療費の未払いを経験しているとの調査結果もあり、対策が急務であった。そのため、入国前に民間医療保険への加入を促す情報発信を行うとともに、過去に悪質な医療費の未払い等の経歴がある場合は再入国の拒否を可能とした。

具体的には、2021年5月から20万円以上の医療費未払い経歴がある訪日外国人の情報を厚労省が収集して、出入国在留管理庁へ提供する仕組みを開始した。同年8月より、出入国在留管理庁がこの情報を活用し、再入国時の厳格な審査に活用することで、新たな医療費未払いの発生を抑止することを目指している。

しかし、これらの情報収集に本人同意が必要とされていたため、2022年10月個人情報保護法の解釈上本人同意は不要であるとの事務連絡を新たに厚労省より出していただいた。課題を解決するためには、一つひとつの段階を注視していく必要があることを痛感している。

民間医療保険への加入義務化を―欧州でできることは日本でも

ダイヤモンド・プリンセス号に乗船し新型コロナに罹患(りかん)し日本で治療を受けた外国籍患者は約700名であったが、そのうち調査研究班で支払い状況や民間保険加入状況など詳細を把握したのは342名であった。当時、新型コロナは感染症法における指定感染症に位置付けられていたため、例え海外旅行保険などの民間医療保険に加入していても医療費は全額公費負担が原則であった。その結果、前述の342名に対する保険診療対象費用2億7801万円のうち97.9%(2億7219万円)は公費によって支払われた。私は、ダイヤモンド・プリンセス号で水際の現場監督を3週間船内でした立場から「支払う意思があるにもかかわらずそれができない制度はおかしい」と訴え、1年以上かかったが事務次官通知によって感染症法上の解釈を変更いただき、民間医療保険による支払いを可能とした。

現在、感染症法における新型コロナの扱いの見直しに向けた議論が進められており、仮に5類相当に位置付けられる場合、医療費は一部自己負担が発生する。更なる医療費の未払いを防止するためにも、私は外国人入国者に対して民間医療保険の加入義務化を提言している。欧州では、26カ国が参加するシェンゲン協定によりシェンゲン領域への入域に査証取得が必要な者は旅行医療保険(3万ユーロ以上)への加入が求められており、英国では査証申請時に税で賄われる医療サービスへの料金支払いが義務化されている。私の提言内容はすでに欧州で実現していることであり、日本でも実現可能と考えている。

国際的な人の往来再開に向けて―訪日外国人の新型コロナ対策

また、2021年に開催予定であった東京オリンピック・パラリンピックも視野に入れ訪日外国人のコロナ対策について、厚労大臣政務官としての任期を終えたのち、2020年11月より自民党政務調査会「訪日外国人観光客コロナ対策プロジェクトチーム」を立ち上げ検討を開始し、同年12月に「訪日外国人観光客コロナ対策PT提言」を取りまとめた。

提言では、次の5つの項目について必要な施策を述べている。

  • 入国前(水際対策、入国後の行動規制の履行確保)
  • 入国時(水際対策)
  • 国内対応(早期発見・早期対応、行動規制)
  • 出国の陰性証明取得支援
  • 人材確保

先方提供

訪日外国人観光客コロナ対策PT提言より引用

2022年2月には「水際対策強化に係る新たな措置(27)」として外国人の新規入国規制の見直しに反映された。外国人の新規入国申請は、入国者健康確認システム(ERFS)上で一元管理する*。具体的には、さまざまな省庁や在外公館と連携して、入国前の査証申請から、入国時の手続き(検疫、入国審査、税関)、スマートフォンのアプリ(MySOS)と連動することで滞在中の健康管理までを可能とするものである。

*2022年9月「水際対策強化に係る新たな措置(34)」により、同年10月以降全ての外国人の新規入国についてERFSでの申請を求めないこととされた。

在留外国人への対応

住んでいる人の安心を守る―国民皆保険制度の持続性を

在留外国人への対応としては、国民皆保険制度を維持し、在留外国人も安心して医療を受けられる環境を整備することを目指した。2018年7月より自民党政務調査会「在留外国人に係る医療ワーキンググループ」にて検討を開始し、同年12月に政府への提言を取りまとめた。

その結果、70年ぶりに次のような健康保険法の改正が実現し、2020年4月から適用が開始されている。合わせて年金においても第3号被保険者について健康保険法と並びで同様に国内居住要件を課し、認定の適正化の法改正を実現している。

  • 健康保険の被扶養者の認定に国内居住要件が追加

これまでは外国人が単身で来日して健康保険に加入すれば、母国に住んでいる被扶養者(3親等以内の親族)も健康保険に加入できることが問題視されていた。2020年4月から、日本に住んでいない被扶養者は健康保険の被扶養者にはなれなくなった。

  • 国民健康保険の適正な利用の確保

これまでは国民健康保険の利用に際して疑義がある場合でも、保険者である市町村には調査権がなく確認することができなかったため、市町村に調査権があることを明確化した。

  • 国民健康保険への加入促進策

保険料の未払いがあった場合は在留資格の更新は許可しない。

  • 出産育児一時金対策等

不正受給を防止するため、請求に必要な書類を統一化し審査を厳格化した。

  • なりすまし対策

これまでは健康保険証の利用に際して疑義がある場合でも、保険医療を担う医療機関が守るべき保険医療機関および保険医療担当規則(療担規則)では本人確認について規定がなかった。そのため、なりすましを防止するため医療機関が必要と判断した場合には、写真付き身分証明書(パスポート、在留カードなど)の提示を求めることができるよう療担規則を改訂した。

当たり前のことが当たり前にできるように

戦後70年以上の間、国際化が進行していたにもかかわらず、日本では健康保険制度や年金制度などそれを取り巻く関係省庁の対応について見直しが行われてこなかった。本当に当たり前のことが当たり前ではない、信じがたいような現状が放置されてきたと感じている。日本に滞在する外国人にも諸外国の事例を参考に応分の負担をしていただき安心して医療を受けてもらうために、また医療を提供する側も困らないように、そして日本の医療保険制度を守っていくために、今後も着実に取り組みを進めていく。

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