長年、糖尿病治療の3本柱は食事療法、運動療法、薬物療法でした。しかし近年、それらに加えて「肥満外科手術療法」が追加され、注目が集まっています。2021年3月には日本肥満学会、日本糖尿病学会、日本肥満症治療学会の3会合同で声明を発表し、現在では各種ガイドラインに糖尿病外科手術が掲載されています。同手術の対象となる方、メリットや安全性について、門脇孝先生(虎の門病院院長)に伺いました。
肥満外科手術とは、肥満症を改善することを目指した手術です。たとえば、胃を細くして食べられる量を減らす方法があります。手術の対象となるのは、通常の内科的治療(食事療法・運動療法・薬物療法)では十分な改善が見られない肥満症の患者さん(18〜65歳)です。また、手術適応には目的に応じて2つのカテゴリーがあります。減量が主目的の場合はBMI35以上の方、合併症(高血圧症、脂質異常症、肝機能障害など)の治療が主な目的の場合はBMI32以上の方が適応となります。
メリットは、減量できる幅が大きいことと、それまで日常的にインスリン投与が必要だった患者さんが薬剤を必要としない状態になれる可能性があることです。
食事療法や運動療法で減量できる体重にはどうしても限界がありますから、手術で大幅に減量ができれば価値は大きいはずです。また、薬剤を必要としない状態、すなわち糖尿病の寛解状態に移行できることは、経済的な面でもQOL(生活の質)の面でも大きなメリットといえるでしょう。
手術を行ううえでいかに安全性を確保するかは重要な課題です。そのため日本肥満症治療学会では、肥満外科手術に関する専門認定施設の審査を行っています。
糖尿病の患者さんに対する肥満外科手術は、このような認定施設で医師(外科、内科、麻酔科など)や看護師、管理栄養士、臨床心理士、社会福祉士など多職種がチームとなり、協力して行います。
写真:PIXTA
日本でも安全性に関するデータが徐々に集まりつつあり、現在は安全に手術を行える基盤が醸成してきました。2014年には肥満外科手術の1つ「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術*」が保険収載され、臨床現場での今後の広がりが期待されています。
*腹腔鏡下スリーブ状胃切除術:胃の外側の大半を切除し、胃を細長く形成して食事摂取量を制限する術式
糖尿病が起こる原因は主に2つ、遺伝(体質)とインスリン抵抗性があります。
1つ目の遺伝については、たとえば日本人のインスリンを分泌する機能は欧米人と比べて2分の1ほどしかありません。つまり、日本人は欧米人よりも糖尿病になりやすいといえます(ただし、そのような体質を持つ者が全て糖尿病になるわけではない)。
2つ目のインスリン抵抗性とは、インスリンの作用が十分に発揮できなくなることです。インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンで、インスリン抵抗性があると血糖値が上がっていきます。そして、インスリン抵抗性の最大の原因は「肥満」なのです。肥満すなわち脂肪組織量が増加した状態になると、脂肪細胞が肥大し、インスリン抵抗性を引き起こすことが分かっています。このように、肥満は糖尿病という病気に密接に関わっているのです。
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