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連載特集

人知れず悩む患者も多い1型糖尿病 治療の切り札「膵島移植」が保険適用に

公開日

2021年01月28日

更新日

2021年01月28日

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2021年01月28日

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血糖のコントロールに欠かせないインスリン(血糖値を下げるホルモン)が分泌されなくなる「1型糖尿病」患者の治療として大きな効果が期待される「膵島移植」が2020年4月に保険収載。京都大学医学部附属病院は国内で最初にその実施施設としての承認を得た。膵島移植とはどのような治療か、保険収載で何が変わるのか――。同病院肝胆膵・移植外科助教の穴澤貴行さんに聞いた。

 

1型糖尿病患者のつらい日常

「1型糖尿病の患者さんの中には日々、とても大変な思いをしている方がいます」と穴澤さんは言う。1型糖尿病はインスリンがほとんど分泌されず、インスリンを投与しなければ「ケトアシドーシス」という合併症を引き起こして最悪の場合は昏睡や死に至ることもある。

さらに、血糖値の変動が大きくインスリンの自己注射でもコントロールが難しい「不安定型(ブリットル型)」というタイプの患者は、低血糖や高血糖で昏睡状態となり救急搬送されたり死亡したりする人もいるという。

「1型糖尿病患者さんの中には、日々そうした恐怖と戦いながら日常生活を送っている人がいます。世間では『糖尿病』というと生活習慣病を思い浮かべる人がほとんどです。1型糖尿病の病態が分かってもらえないと思って、周囲に糖尿病であることを伝えてない人もいます。そうしたなかで、低血糖で倒れるなどすると周囲の人から驚かれるということもあります」と、穴澤さんは患者の苦労を代弁する。

「生活習慣」とは無関係、若年でも発症

糖尿病には2つの「型」がある。多くの人が思い浮かべるのは生活習慣病の1つに数えられる「2型糖尿病」であろう。体質に加えて体重過多や食事と運動などが発症の要因となるとされる。

もう1つの型が、上述の1型糖尿病だ。健康な人は、血糖値が高くなると膵臓のβ細胞からインスリンが分泌される。1型糖尿病はβ細胞が壊され、インスリンを出す力が弱まったり、出すことができなくなったりする。β細胞がなぜ壊されるかはっきりしたことは分かっていないが、自己免疫(異物を排除する免疫機能が自分の組織を攻撃してしまう反応)が関わっていると考えられている。2型糖尿病は成人発症が多いが、1型糖尿病は乳児から成人に至るまで幅広い年齢で発症する。

1型糖尿病患者は、基本的にインスリンを皮下注射する「補充療法」で血糖値をコントロールしながら日常生活を送ることになる。しかし、中には専門医による治療でも血糖コントロールが難しく、血糖値が上がりすぎて合併症を併発したり下がりすぎて救急搬送されたりするなどの患者は、常に命の危険にさらされることになる。

膵島移植とは

そうした難しい患者に対する"切り札"が、膵臓移植もしくは膵島移植による治療である。膵島移植とは、膵臓からβ細胞を含む膵島(別名「ランゲルハンス島」)を分離し、点滴で患者の肝臓に移植する。膵臓そのものを移植する治療に比べて傷が小さく、時間も非常に短いなど、患者の身体的負担は格段に小さくなる。そのため、2回、3回と繰り返し行うこともできる。

一方で、今のところインスリン補充療法から離脱できる状態になるには2回以上の移植が望ましいと考えられている。また、自分以外の組織を体に入れるという意味ではほかの臓器移植と変わらず、生着させるためには長期にわたって免疫抑制剤を服用する必要がある。

「それでも、これまでに移植を受けた患者さんは生活の質(QOL)が向上しています」と、穴澤さんはその効果を説明する。

膵島移植は2000年ごろから世界で臨床研究が始まり、日本ではこれまで「先進医療B」という枠組みの中で研究が行われてきた。2020年4月に保険収載されたが、実施できるのは「特定認定再生医療等委員会」の意見を基に厚生労働省の承認を得た施設に限られる。京都大学医学部附属病院は国内初の承認を得たほか、全国で約10施設が承認を申請あるいは申請準備をしている。

再生医療でドナー不足解消の期待も

とはいえ、希望すればだれでも受けられる医療というわけではない。一番大きな問題は移植する臓器の不足だ。再生能力が高い肝臓や2つある腎臓と異なり、1つしかなく再生能力がほとんどない膵臓は、ドナー(臓器提供者)にかかる負担が大きく「生体移植はデメリットの方が大きい」と穴澤さんは言う。

一方で、心臓などと異なり膵臓は心停止後でも提供は可能。しかし、日本では脳死、心停止ともドナーの絶対数が非常に少ないのが現状だ。日本臓器移植ネットワークのデータによると、膵臓移植(膵腎同時移植を含む)の実施数は、多い年でも年間50例に満たない。さらに、少しずつ増えつつあった傾向に、2020年の新型コロナウイルス感染症が水を差したという。

移植では臓器提供を受ける患者(レシピエント)側の医師が、脳死・心停止後に臓器の摘出を行う。

「コロナの影響で、臓器提供する側も提供を受ける側も、感染リスクを極力減らすための検査や準備が必要となり、これまでより負担が増えています。そうしたこともあって、昨年(2020年)はドナーの数が大きく減っているのではないかという印象です」と嘆く。実際、同ネットワークのデータでは、2020年12月末現在の臓器提供件数が前年から4割近く減っている。

膵島移植では、"臓器不足"解決策の1つとして再生医療に期待が集まる。京都大学などではiPS細胞から膵島を作る研究が進められ、臨床試験の開始も見えてきているという。

「移植して十分に機能するような膵島細胞はできてきています。ただ、わずかにでも目的外の細胞が混じっていると将来腫瘍化するリスクがあるのではないかと考えて、今は安全性を究極にまで高めている段階です」と、穴澤さんは現状を話した。

また、再生医療で作成した細胞は、腫瘍化のリスクを回避するため肝臓に移植することは海外でも認められておらず、皮下に移植しているという。京都大学では、皮下への移植方法もあわせて研究が進められている。

移植を考えるべき患者は

保険収載されたとはいえ、膵島移植の認知度はまだ低い。「10年ほど前の知識から、長期成績はよくない、という印象を持っている糖尿病内科の医師も少なくありません」と穴澤さんは言う。だが、研究の成果で最近は成績も大きく向上しており、生着率などのデータも今後、正式に公表される予定だ。

保険収載を期に、対象患者の要件も多少緩和されるという。

「日本糖尿病学会と日本膵・膵島移植研究会で基準を見直しました。従来は安全性を確認する臨床試験だったので、基準は厳しくしていました。保険適用になり、できるだけ広く実施することを目指しました」

では、どのような患者が移植を検討すべきだろうか。

「糖尿病内科の治療でも血糖コントロールが難しい、たとえば、低血糖で年に何回かは救急搬送されている人、逆に血糖値が基準値(HbA1c:5.6%未満)を大きく超えて9~10%になってしまうような人は膵島移植を1つのオプションと考えてもいいのではないかと思います。そのような人は、膵島移植を実施している施設に相談してください。すぐに対象とはならなくとも、治療の目標が立てやすくなります」

従来の「先進医療」の枠組みでは、検査や投薬など移植以外の医療に関しては保険が適用されるが、先進医療の技術料に関しては患者の自己負担になっていた。保険収載で、患者の金銭的負担は大きく減ることになる。

「費用面で膵臓単独移植と同等になる、合併症のリスクが低い、入院期間が短い、体への負担が小さい、複数回の移植も可能――といった患者さんのメリットを考えると、今後は膵島移植が膵臓単独移植に代わるのではないかと考えます」と、穴澤さんはこの治療の将来性に期待している。

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