日本臨床腫瘍学会(石岡千加史理事長)は、市民公開講座「正しく知ろう! 最新のがん免疫療法~がん治療の進歩を分かりやすく紹介します~」をオンデマンドで配信している。めざましい進歩を続ける「がん免疫療法」について、専門家が解説する「現時点での最新情報」を動画で見ることができる。
同学会は、がん免疫療法に関する市民公開講座を2019年からシリーズで開催し、今回が第3弾。進歩したがん免疫療法の情報を一般向けに分かりやすく、かつ正しく解説する。
日本人研究者、本庶佑氏が開発し、2018年のノーベル生理学・医学賞受賞の「免疫チェックポイント阻害薬」で多くの人が知ることになったがん免疫療法。その後、さまざまな薬の開発や適用範囲の拡大など進歩を続け、がんの治療成績向上に大きく寄与している。がん治療の大きな柱になっただけでなく、初回からの使用が可能になる場合や手術・放射線との併用が可能な場合がでてきた。
一方で、これまでの抗がん薬にはみられない副作用もあり、対策も重要だ。
同学会はこうした背景も踏まえ、市民にがん免疫療法の知識を深めてもらうことを目的に市民公開講座を開催している。
市民公開講座では全10本の動画を公開。1本あたり15分前後で、まとまった時間が取れなくとも好きな時間に分けて見ることもできる。
また、内容に関する疑問や質問などは、各動画配信ページの質問フォームから送ることができ、配信終了後に同講座のページで回答の予定(ただし、個別の相談など回答できないケースもある)。
視聴は無料で、参加フォームに必要事項を記入するとオンデマンド配信の特設サイトを開くことができる。視聴は2022年12月28日まで、質問は同日17時まで受け付けている。
同学会のがん免疫療法に関する市民公開講座は、本庶氏のノーベル生理学・医学賞受賞を受けて2019年に「がん免疫療法難民にならないために」をテーマに1回目を開催した。新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて延期された第2回は2021年にオンラインで開催。「一人ひとりに最適ながん治療をめざして」をテーマに、がんゲノム医療を含め大きく変わりつつあるがん治療の情報を分かりやすく解説した。
今回の市民公開講座のテーマと演者、概要は以下のとおり。
北野滋久・がん研究会有明病院先端医療開発科部長 がん免疫治療開発部部長
がん免疫療法について、どのような治療であるか、どの種類のがんでどの時期に使用可能なのか、注意すべき副作用とその対処法、がん免疫療法を受けるにあたっての注意点、今後の展望について分かりやすく解説。
○胃がん 安井久晃・神戸市立医療センター中央市民病院 腫瘍内科部長
切除不能進行・再発胃がんに対する化学療法として2021年11月、免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブと化学療法との併用療法が、一次治療で使用可能となった。化学療法単独に比べ、ニボルマブを併用することで、奏効率の向上、無増悪生存期間・全生存期間の延長が認められている。免疫療法は、胃がんにおいて重要な治療戦略となっている。
○肺がん 荒金尚子・佐賀大学医学部附属病院 呼吸器内科 診療教授 佐賀大学医学部附属病院 がんセンター長
難治がんである肺がんに対し、免疫チェックポイント阻害剤は、全ての組織型、全てのステージで効果が実証され、今や治療の中心となってきた。2種の免疫チェックポイント阻害薬、抗がん薬を併用する複合免疫療法も適用されるようになり、この治療法の効果が期待できる患者さんは増加していると思われる。一方、副作用の種類、出現時期に個人差が大きいことは従来の薬剤と大きく異なる。半面、副作用出現例で効果が大きいことも報告されてきた。免疫チェックポイント阻害薬は副作用を適切にコントロールしつつ投与することで予後改善につながる肺がんの主要な治療方法といえる。
○乳がん 下村昭彦・国立国際医療研究センター病院 乳腺・腫瘍内科 がん総合内科医長
乳がんでは、トリプルネガティブ乳がん(ホルモン受容体、HER2のいずれもないタイプ)と呼ばれる乳がんのタイプで免疫療法の開発が進み、2018年、2020年と2つの免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブ、ペムブロリズマブ)が国内でも使われるようになった。また、2022年からはトリプルネガティブ乳がんの術前化学療法にペムブロリズマブが使われるようになり、使用可能な患者さんが増えた。乳がんの免疫チェックポイント阻害薬の特徴や治療スケジュール、副作用について一緒に勉強する。
○婦人科がん 濵西潤三・京都大学大学院医学系研究科 婦人科学産科学 准教授 総合周産期母子医療センター長
婦人科領域のがんの90%以上は、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんが占めており、進行している場合や再発した場合、生命予後は不良だ。現在、抗がん薬未治療の進行・再発の子宮頸がんに対する第一選択薬として、標準的な抗がん薬治療と抗PD-1抗体(ペムブロリズマブ)の併用療法や、DNAの特定の部分(マイクロサテライト)が不安定や状態(MSI-High)や腫瘍遺伝子の変異量が多い(TMB-High)再発の固形がんとして主に子宮体がんや卵巣がんに対して、ペムブロリズマブが保険診療として認められ、該当する患者さんの予後を伸ばすことが期待されている。子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんに対するがん免疫療法の最新の情報と今後の展望や課題について概説する。
○食道がん 辻晃仁・香川大学医学部 臨床腫瘍学講座 教授 香川大学医学部附属病院 副病院長
がん免疫療法を単独で、または従来の抗がん薬に併用することで、がんを抑え込み縮小させ、再発を予防し、時には夢のように消してしまったりすることが可能となってきた。食道がんの治療では、新世代の免疫療法が臨床現場のがん治療に導入されている真っ最中。本公開講座で最新の食道がん治療について解説する。
○肺がん 福田実・長崎大学病院 がん診療センター 准教授 副センター長
肺がんの中で約90%を占める非小細胞肺がんII-IIIA期においては、手術に引き続き術後化学療法を行うことが標準治療になっていたが、術後検査でEGFR陰性かつPD-L1陽性(1%以上)の場合には、その後さらにがん免疫療法を行うことで治療成績が向上することが分かった。2022年5月より日本では保険適用になり、治療は3週ごとに12か月間行われる。
○乳がん 徳留なほみ・静岡県立静岡がんセンター 女性内科医長
乳がん、特にトリプルネガティブ乳がんの手術前後の薬物療法に、この秋から免疫チェックポイント阻害薬が導入されることになり、これによりトリプルネガティブ乳がんの治療成績が向上することが期待されている。その一方で、どのような患者さんが対象になるのか、あるいは副作用の問題など、今後さらに検討が必要な課題も残されている。日進月歩のトリプルネガティブ乳がんの手術前後の薬物療法について解説する。
松原淳一・京都大学大学院医学研究科 腫瘍薬物治療学講座・腫瘍内科講師
ゲノム情報を応用したがん免疫療法は、がん種を限定しないがん免疫療法とほぼ同義。日本の保険診療ではすでに、「高頻度マイクロサテライト不安定性」または「高い腫瘍遺伝子変異量」を呈する進行・再発固形がん症例に対して、免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブが保険適用となっている。本講座では、それらの検査(がん遺伝子パネル検査を含む)・治療について詳しく解説する。
後藤愛実・大阪医科薬科大学病院 薬剤部 薬剤師長補佐
がん免疫療法は従来の抗がん薬と異なり、副作用がないと考える人がいる。しかし実際には、免疫の活性化によって起こるさまざまな副作用がある。副作用が発現した場合には急速な経過をたどることもあり、どのようなときに病院へ連絡すべきかを理解することが治療を受けるうえで大切だ。がん免疫療法を受けているときの、注意すべき副作用の症状を解説する。
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