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がん放射線治療は体内を「見ながら」行う時代へ―千葉大病院で最新機器が国内初稼働へ

公開日

2021年12月10日

更新日

2021年12月10日

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2021年12月10日

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千葉大学医学部附属病院(以下「千葉大学病院」)で2021年12月*、高精細のMRIと放射線治療機を組み合わせ、従来よりも高精度でがんに対する放射線治療ができる「MRリニアック」が国内で初めて稼働を開始する。この装置と従来の放射線治療機の違いや可能性などについて、このほど行われたセミナーの概要を紹介する。

*2021年12月14日に臨床での治療を開始した。

がん放射線治療とは

がんに対する放射線治療は、手術、薬物療法(抗がん剤治療)と並ぶ3大療法の1つ。体の外側から放射線を照射してがん細胞を死滅させたり痛みを和らげたりする。侵襲(体への負担)が少ないため、高齢者や合併症のある患者でも受けられる。また、臓器の機能や形態を温存できる可能性があり、早期例に対する根治的治療から進行例の緩和ケア、QOL(生活の質)向上、生存延長まで幅広いニーズに対応する。

一般的な高エネルギー放射線治療で用いられる装置は「リニアック」といい、直線加速器を用いて高エネルギーの放射線を発生させ、多方向からがん細胞に正確に照射する。病状や治療目的により数回から数十回かけて治療を実施して、がん細胞を死滅させるのに十分な線量を照射する。

設置工事中のMRリニアックの“心臓部”

最近の放射線治療は「より狭い範囲に、正確に、短時間で」が目標とされ、正確にがんを捉えて正常組織を外すための画像誘導技術の開発を多くの企業、施設が競っているという。

MRIとの組み合わせで得られるメリット

千葉大学病院に導入されたスウェーデン・エレクタ社製のMRリニアックは1.5テスラ(テスラは磁場の強さの単位、大きいほど得られる画像の解像度が高くなる)の高精細MRIとリニアックを一体化させた装置で、同病院の宇野隆・放射線部長は「最大の特徴は治療ビーム照射中の体内が見えること」と説明する。それによって

・病巣の動きを見ながら正確に放射線を照射することができる
・アダプティブ・プランニング(即時適応放射線治療)が可能になる

――などの利点があるという。

治療中の体内の変化をリアルタイムで観察することで、呼吸などで動く臓器でも安心して正確に照射ができる。腫瘍全体に放射線が当たらないと生き残ったがん細胞から再び腫瘍が大きくなる恐れがあり、従来の装置では誤差の範囲をカバーできる程度のマージン(のりしろ)を設定せざるを得なかった。MRリニアックではこれを小さくして周囲の正常な組織への影響を最小限にとどめることも可能となる。

従来の装置では、放射線照射前の手順として、まず治療計画のための画像を取得し、コンピューターで放射線をどう当てるかの治療計画(どの方向から、どのような形で、どれだけの強さの放射線を、どの程度の時間照射するかなど)を立て、治療直前にもう一度CTで画像を取得して当日の臓器の位置などを確認する。大腸やぼうこうなど、ガスや尿によって動きや形態が変化しやすい臓器、それらに隣接する臓器では、場合によってはガスを抜いたり治療計画を変えたりすることなどが必要になる。CTで鮮明な画像が得られない臓器に関しては、金や白金などの小さな金属を体内に留置し「位置決め」の目印にすることもある。また、毎回行うCT撮像で治療とは直接関係ない放射線を浴びるリスクもあった。

MRリニアックでは施術前のCT撮影などを省くことができ、より侵襲の少ない治療ができるという。

難しかった膵臓がんの治療にも

千葉大学病院ではMRリニアックを、

  • 前立腺がん
  • 肺がん
  • 膵臓がん
  • 肝臓がん
  • 頭頸部がん
  • 乳がん・子宮頸がん
  • 脳腫瘍
  • オリゴ転移/オリゴ再発
  • 脊椎/傍脊椎腫瘍
  • 食道胃接合部がん

――などの治療に使用することを想定しているという。

宇野部長は「膵臓がんのように、早期のものを運よく見つけて外科がうまく手術しなければ長期生存が見込めなかったがん種も、狙って正確に放射線を照射することで治癒が期待できます。また、1回の治療で照射できる線量を上げ、治療回数を減らすことが可能です」と話す。

消化管は多量の放射線が当たると穿孔(穴が開く)や狭窄(狭くなる)が起こることがある。たとえば膵臓がんの場合、マージンを2cmとると十二指腸にも放射線が当たってしまう。そのため従来は化学療法と併用で1回の線量を下げ、5~6週間かけて25回の照射が必要だった。これが、MRリニアックでは十二指腸を避けて正確な照射が可能になるため1度の線量を増やすことで5回程度に減らし、治療期間も1~2週間に短縮できる可能性があるという。

従来の放射線治療装置との使い分けについては「放射線が苦手な消化管などのリスク臓器に隣接する腫瘍は、見ながら放射線を照射するのがもっとも確実です。よりメリットを発揮するためには消化管や脊髄など、がんを治すための線量を当てると正常組織の機能が損なわれるような臓器に囲まれていたり隣接したりしている腫瘍がまずは優先されます。今まで手術がメインだった肝胆膵領域の患者さんが、まずはMRリニアックの対象として優先されることになるでしょう」という。

宇野部長は「こうした特徴から、より高精度で患者さんにやさしい放射線治療が可能になるでしょう」と期待をかける。

エレクタ社によると、同型の治療装置は世界で37台が稼働中(2021年10月現在)で、さまざまな症例が集積されつつあるという。

国内では千葉大学病院のほか、大阪市立大学医学部附属病院、東北大学病院でも導入が進められているが、稼働開始は千葉大学病院が最初となる。当初は2021年春の稼働開始を目指していたが、新型コロナウイルス感染症拡大で外国人技術者の入国が制限されるなどした影響で、約半年の遅れが生じた。