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甲状腺疾患「診断」主題のセミナー、隈病院が4年ぶり開催

公開日

2024年06月12日

更新日

2024年06月12日

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2024年06月12日

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甲状腺疾患を専門とする隈病院(神戸市)はこのほど、新型コロナウイルス感染症のまん延で中断していた「神戸甲状腺診断セミナー」を4年ぶりに開催した。甲状腺診療発展への貢献を目指し、病理医、細胞検査士、内分泌内科医、甲状腺外科医、耳鼻咽喉科医を対象に「診断」を主題とした情報発信を目的に行われ、今回が15回目。2日にわたるセミナーのうち、1日目の「甲状腺診療における新展開・新分類・新報告様式」をテーマとした講演から4演題の概要を紹介する。

欧米における甲状腺診療の現状

講演のトップを切って、赤水尚史・隈病院院長が「欧米における甲状腺診療の現状」として、バセドウ病の治療選択に関する日米欧比較と、甲状腺眼症治療法の現状について解説した。

バセドウ病は、1988年時点で日本の治療選択は抗甲状腺薬88%/放射性ヨウ素11%/外科的手術1%。欧州では同じ順に74%/24%/2%。これに対して米国では抗甲状腺薬は30%にとどまり、反対に放射性ヨウ素が69%で外科的手術は1%となっていた。

2011年の調査では、日本を含むアジアオセアニアは抗甲状腺薬71%でやや減少した一方、放射線ヨウ素が以前より使われるようになり29%、外科的手術はほぼ0となった。欧州では抗甲状腺薬がさらに増えて86%、放射性ヨウ素は減少して13%、外科的手術はほぼ変わらず1%だった。米国では依然として治療の第一選択は放射性ヨウ素で59%、抗甲状腺薬が40%に増えた。

甲状腺肥大の程度や患者の年齢によって治療選択の割合は変化するが、米国では放射線ヨウ素を使用する割合が日欧よりも高い傾向があると紹介した。

甲状腺眼症(中等症~重症)の治療に関して「副作用や侵襲が最小限か許容可能で、優れた効果を示す療法に対するアンメット・メディカル・ニーズがある」と指摘。発症機序が解明され、免疫や受容体に関係する分子に介入することで治療ができるのではないかとの発想から、B細胞、T細胞、サイトカインなどを標的とする治療法が開発されて臨床研究が進んでいる。特に「インスリン様成長因子1受容体(IGF-1R)」を阻害する新薬テプロツムマブ(Teprotumumab)は、米国で2020年から臨床応用され、日本でも臨床試験がほぼ終わり臨床的に意義のある結果が得られたことから、現在薬事申請がなされていると説明した。

取扱い規約第9版の主な変更点

2023年秋に改訂された「甲状腺癌取扱い規約第9版(日本内分泌外科学会・日本甲状腺病理学会編)」の変更点などについて、臨床面から隈病院の伊藤康弘・外科顧問が、病理面から廣川満良・病理診断科科長がそれぞれ解説した。

臨床面では、術前、術中、病理組織所見の各TNM分類*のうち、術中所見を重視して改定された。特に今回は主としてEx(腺外浸潤の程度)とN(転移リンパ節のサイズ)について大きく変更された。甲状腺は特殊で、特に病理組織所見ではっきりとした浸潤の証拠がなければExがネガティブになってしまう。術中所見を重視しているので運用には注意が必要だと伊藤氏は指摘した。

* TNM分類:がんがどれくらい進んだものかでがんを分類する方法。Tは原発のがんの広がり、Nはがん細胞のリンパ節への転移の有無と広がり、Mは原発から離れた臓器への遠隔転移を示す。

病理面では、主な変更点として以下の点が挙げられた。

・枠組みの変更
・文言の改訂・疾患概念の変遷
・低リスク腫瘍・高異型度腫瘍を採用
・組織発生不明の腫瘍を設定
  乳頭癌の亜型から篩状(ふるいじょう)モルラがん
  好酸球増多を伴う硬化性粘表皮がん
・甲状腺芽腫の登場
・遺伝子検査・遺伝子変異に関する記載の拡充
・報告書様式の改訂

このうち、正式に採用された「低リスク腫瘍」のカテゴリーには、「乳頭癌様核所見を伴う浸潤性濾胞(ろほう)型腫瘍(NIFTP)」と「悪性度不明な腫瘍(UMP)」という被膜浸潤・血管浸潤が疑わしいもの、「硝子化索状腫瘍(HTT)」の3つが分類されると解説。

また、高分化がんの中でも悪性度の強いものを新たに抜き出して「高異型度腫瘍」として分類したこと、これまで乳頭がんに分類されていながら特殊な遺伝子変異を持ち免疫のタイプが異なるものを「篩状モルラがん」とし、粘表皮がんに特有の遺伝子変異が見られない好酸球増多を伴う硬化性粘表皮がんとともに、組織発生不明な甲状腺がんとして独立させたこと、これまでの好酸性濾胞腺腫・濾胞がんが「膨大細胞腺腫」「膨大細胞がん」という名称になったことなどを紹介した。

甲状腺腫瘍とゲノム異常

講演の最後に、がん研有明病院細胞診断部の千葉知宏部長が「甲状腺腫瘍とゲノム異常」の演題で、甲状腺腫瘍におけるゲノム異常や個別化医療などについて話した。

日常的に遺伝学的検査が実施されるようになり、臨床医も遺伝子・ゲノムの知識が要求されるようになってきた。近年の研究で、甲状腺がんは単一のドライバー遺伝子変異によって生じ、その種類によってがんの形がある程度規定されていることが分かってきた。高分化な甲状腺癌である乳頭がんでは、BRAF遺伝子変異が、濾胞癌ではRAS遺伝子がドライバーになる症例が多い。甲状腺がんは数あるがんの中で「遺伝子変異が少ないトップ3」に入る。がん細胞のゲノムに生じる変異はその要因によって異なったパターンを示す。甲状腺がんにおいて生じる変異の原因については、大部分が分かっていないものの、シグネチャー解析(変異パターン)から放射線曝露(ばくろ)が多い人ほど転座の頻度が多くなることなどが明らかになってきた。遺伝子変異などゲノム異常と甲状がんの関わりについて基礎から解説した。

また、従来の「One-Fits-All-Treatment(万人に効く治療法)」から個別化医療(それぞれに合った薬を投与)へと考え方が変わってきている。ここで重要なのは、

1.相手の弱点(ドライバー変異)が分かっているか
2.弱点を攻撃する“武器”があるか

――の2点で、両方がなければ個別化医療は成立しない。

最後に

・遺伝子までの理解が必要になってきた
・甲状腺がんおける遺伝子変異は単純
・がんの分類は遺伝子異常に基づいたものになる
・個別化医療が実現しつつある――少しずつ効果を示す治療薬が開発されてきており、近い将来もっとよいものが出てくると信じている

――とまとめた。
 

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