東北大学と理研ジェネシスは、がん細胞におけるDNAの「メチル化」の状態を検査することで大腸がんに対する特定の分子標的薬の有効性を事前に判別できる検査キットを開発、2024年6月21日付で体外診断用医薬品として製造販売承認を取得したと発表した。この検査キットを使用することによって価格が高い分子標的薬の費用対効果を高められるほか、効果が見込めない患者の副作用回避も見込めるという。
従来の研究で、切除不能大腸がんの中で原発部位が「左側(左半結腸・直腸)」だと分子標的薬の一種「抗EGFR抗体薬」が効きやすく、逆に原発部位が「右側(右半結腸)」の場合は効きにくいことが分かっていた。
東北大学病院腫瘍内科の石岡千加史客員教授と大内康太助教らは、こうした効果の差がなぜ起こるのかを、遺伝子レベルで研究した。その結果、がん細胞のDNAのメチル化*割合が低い「低メチル(LMCC)」群では抗EGFR抗体薬の効果が高く、割合が高い「高メチル(HMCC)」群では効果が低いことが分かったという。
検査はがん細胞からDNAを抽出し、「バイサルファイト変換」という処理を施したうえでPCR法により増幅する。これまでの研究からLMCCとHMCCで差が出やすいことが分かっている16のDNA領域のうち、8領域以上でメチル化があればHMCC、逆に9領域以上でメチル化がなければLMCCと判定される。
*DNAメチル化:アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4つの塩基の組み合わせからなるDNAの配列のうち、「CG」と続く配列のCにメチル基(-CH3)が付加されることで起こる化学的修飾。遺伝子の機能を抑制するはたらきがあると考えられている。
分子標的薬は1997年ごろからがんの治療に使われるようになり、近年は新薬開発や適応拡大によりがんの治療成績が向上。石岡客員教授によると、2024年2月時点で日米で承認されている分子標的薬は170種類に及ぶという。治療薬の選択は従来、遺伝子またはゲノム検査を基に行われていたが、今回の検査キットのようにDNAの化学的修飾など遺伝子配列の変化を伴わずに機能を変化させる「エピゲノム」については調べられていなかった。
大内助教は、DNAメチル化状態の検査は「2023年に改訂された日本臨床腫瘍学会のガイダンス(大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス 第5版)に『進行再発大腸がん治療の一次治療および既治療例における抗EGFR抗体薬の選択補助に有用と考えられる』と記述されるなど、今後の切除不能大腸がんに対する治療決定プロセスを変えていくことが期待される」とまとめた。
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