2024年2月22~24日に第21回日本臨床腫瘍学会学術集会が開催された(名古屋市での現地開催とライブ開催併用のハイブリッド形式)。今回も医師・研究者向けのプログラムと同時に、がん患者さんやご家族、市民が参加できる特別プログラム「ペイシェント・アドボケイト・プログラム(以下、PAP)」も行われた。本稿では、PAPプログラムの中から、患者と医療者のコミュニケーションとがん診療の集約化・均てん化についてリポートする。
特別企画3では、患者と医療者のコミュニケーションについて、参加者の質問に答えながらよりよいあり方について語り合った。発言要旨を紹介する。
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がんの治療ではいくつも選択肢があることが多い。インフォームド・コンセント(IC)はだいぶ浸透してきたが、治療の選択肢を列挙して「どれにしますか?」と決定権を全て患者さんにゆだねてしまう“松竹梅型IC”や“自己決定権押しつけ型IC”はよくないと感じている。患者さんも、全部自分で決めたい人、医師にお任せしたい人、話しながら医療者と一緒に決めたい人など、考え方や価値観はさまざまだ。
医師はできるだけ客観的な視点で説明するようトレーニングを受けているが「私の家族だったら、…。私なら、〇〇を選びます。」などとI(アイ、 “私は”を主語にする)メッセージで説明することがおすすめだ。医師の主観的な感想、人間的な温かみのある意見として受け止めやすいだろう。
がん治療において、医療者が患者さんの気持ちを否定しないことは大事だと思う。「絶対に治りたいんです。治せますか?」と問う患者さんに対して、「治せません」と返すことは適切ではない。まずは「病気を治したいのですね。その気持ちは本当に大切だと思います」と肯定することでコミュニケーションが始まる。もしそのような対話が難しい場合は、味方になってくれるほかの医療者を探すこともよい選択肢になるだろう。
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患者と医療者の間には、コミュニケーションギャップがある。がん治療の経過とゴールがうまく共有できないことが関係性を難しくしている。私は医療者には必ず主語をつけて「“私たちは”この選択がベストだと思います」と専門家の意見であることが分かるように説明してほしいと考えている。We(ウィー、 “私たちは”を主語にする)メッセージであれば、提示された治療が唯一絶対の正解ではなく、医療者の価値観を含む選択肢の1つであると理解できる。価値観が異なると感じた場合は、セカンドオピニオンも選択肢となるだろう。
がん治療における意思決定は自分の人生の大事(おおごと)だ。“決める力”には個人差がある。管理職経験がある人などは、合理的な意思決定に必要なスキルが自然と身についていることもある。しかし、そうでない場合は意思決定をサポートしてくれる相談支援センターなどを活用したほうがよいだろう。家族もがんの経験があるわけではないため、相談相手として適切とは限らない。
また、自分のこと、とりわけ「自分のやりたいこと」は、たとえ医療者に尋ねられなくても必ず伝えてほしい。やりたいことが思い浮かばない場合は「やりたくないこと」「嫌なこと」でもいい。これらを紙に書き出して感情を切り離し、客観的に俯瞰することがとても大切だ。
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特別企画2では、がん医療診療体制の現状と課題について、特に集約化と均てん化に焦点を当てて講演が行われた。発言要旨を紹介する。
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健康問題における格差(disparity)は国際的にも古くからの課題で、とりわけ2000年以降、急速に論文数が増加している。がんは世界的にも重要な健康問題の1つだが、格差を生む要因は、経済状況、貧富の差、医療制度、医療提供体制、交通の利便性など非常に多様だ。社会的な格差が医療の格差を生んでいる。
2023年3月に閣議決定された第4期がん対策推進基本計画では、がん医療提供体制における均てん化*とともに初めて集約化が課題に挙げられた。これは2022年6月に取りまとめが行われた第3期がん対策推進基本計画の中間評価において、がん医療提供体制について全体の底上げは進んでいるものの、地域間および医療機関間で進捗状況に差があり、均てん化とともに集約化に向けて引き続き検討が必要であると言及されたことによる。全体の改善と格差是正(均てん化)は、異なる課題として取り組んでいく必要がある。
医療提供体制を整備するためには、人材の養成が必要不可欠である。がん対策基本法の基本理念である標準医療の均てん化を進めるべく「次世代のがんプロフェッショナル養成プラン(がんプロ)」では必要な人材の育成を進めている。がん専門医療人材は増加しているものの、地域間や医療機関間の格差はむしろ拡大し、結果としてがん薬物療法の専門医数が少ない地域では、がん細胞の遺伝子変化を調べ治療の手がかりを見つけるがん遺伝子パネル検査の件数が少ないなど、標準医療の医療提供体制に課題が生じている。
*均てん化:医療サービスなどの地域格差などをなくし、全国どこでも等しく医療を受けることができるようにすること
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宮城県では、がん患者さんのうちがん診療連携拠点病院を受診した割合が県全体で半数に満たないなどの調査結果を受け、県が独自にがん診療に関する病院の指定を行う予定だ。これにより、がん対策基本法に基づくさまざまな取り組みがより多くのがん患者さんに届くことが期待できる。また、宮城県は東北地方で唯一がん対策条例がなかったが、医療従事者とがん経験者からの要望を受け、県議会に検討委員会が設置されるなど、制定に向けた取り組みが進んでいる。がん医療に関わる格差を解消するためには、都道府県単位で行政、立法(議会)、医療従事者、患者と市民が議論を重ねていく必要がある。
集約化が必要と考えられる代表的ながん医療には、以下がある。
いずれも専門医などの人材要件を含む施設基準が定められている。さらに、先進医療、治験、適応外使用など選定療養、患者申出療養制度などへのアクセスも課題だ。
集約化のためには、オンライン医療連携、オンライン診療・相談、分散化臨床試験(医療機関への来院に依存しない臨床試験)など、遠隔医療の活用がポイントとなる。また、医療情報の完全な電子化、電子カルテシステムの共通化も必要だ。限られた財源と医療資源を効率的に運用していくために、さまざまなステークホルダーで議論していく必要がある。
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