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高齢者や男性に多い腎細胞がん―根治を目指す治療方法とは

公開日

2021年10月18日

更新日

2021年10月18日

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2021年10月18日

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腎細胞がんとは腎臓に生じるがんの1つで、がん全体のおよそ1%というまれながんでありながら、その患者数は年々増加傾向にあることで知られています。「検診や検査の精度の向上から患者数が増加しているが、初期の段階で発見される方が増えてきた」と話す九州大学大学院医学研究院泌尿器科学分野教授の江藤正俊先生に症状、治療方法などについてお話を伺いました。

検査精度の向上も診断増の一因

腎臓とは尿を作り、血圧や造血に関係するホルモンを産生する2つの臓器で、肋骨(ろっこつ)の下の方に左右に分かれて位置します。腎細胞がんとは腎実質という腎臓の細胞ががん化することによって生じるがんで、一般的に「腎がん」といえば腎細胞がんのことを指します。好発年齢は50〜70歳代で、高齢になればなるほどかかりやすいほか、男女比は男性の方がやや多いです。

腎細胞がんは10万人に6人程度がかかる比較的まれながんです。しかし年々増加傾向にあるといわれており、2017年の国立がん研究センターのデータによれば、1年間に2万0656人*が診断されています。この増加の原因には人口の高齢化や生活環境の変化も考えられますが、検診や検査の精度が高まっていることも大きな要因です。

*国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん登録)

喫煙や肥満などが発生に関与

主な発生要因には喫煙や肥満が関与していると考えられています。また腎細胞がん特有なものとして、北欧など乳製品を多く摂取する国での発症率が高いことから、乳製品の消費量と関連があると考えられています。

さらに腎細胞がんと関連する病気として、まれな遺伝性神経皮膚疾患「フォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL)」や、多発性嚢胞腎(のうほうじん)が挙げられ、これらの病気の方は遺伝性の腎細胞がんにかかりやすいといわれています。特にフォン・ヒッペル・リンドウ病の原因となるVHL遺伝子は、多くの腎細胞がんで遺伝子変異が見られることで知られており、フォン・ヒッペル・リンドウ病による遺伝性の腎細胞がんだけでなく、通常の腎細胞がんでも変異が見られることの多い、特徴的な遺伝子です。

7割は症状なく偶然発見

腎細胞がんは、初期の段階ではほとんど症状が現れないことが一般的です。ある程度進行すると、血尿・腰やおなかの疼痛(とうつう)・腹部のしこり(腫瘤(しゅりゅう))などの症状が現れ、これをきっかけに病院を受診することで腎細胞がんが見つかる方が30%程度います。

残りの70%程度の患者さんは、ほとんど症状のない状態で偶然に見つかります。たとえば、検診やほかの病気の検査などで尿検査や腹部超音波検査・CT検査などの画像検査を行った際に、たまたま腎臓に異常があることが分かり、腎細胞がんの発見につながるというケースが増えてきています。

根治を目指す「手術治療」と「凍結療法」

腎細胞がんの治療方法としては、手術治療、凍結療法をはじめとする局所療法、薬物治療、放射線治療などが挙げられ、がんの進行度合い(臨床病期)や患者さんの全身状態、年齢、希望などに応じて、これらの治療を組み合わせた治療方針を決定します。

根治を目指せる場合、もっとも基本的な治療は手術治療です。手術治療には、腎臓を全て取り除く「腎摘除術」と、腎臓を部分的に切除する「腎部分切除術」があります。また、「凍結療法」という治療も根治を目指して行われます。凍結療法とは体の表面から腎臓に向かって針を指し、この針からガスを流すことによって、がん細部を凍結・壊死(えし)させる方法です。2011年に4cm以下の小さい腎細胞がんに対して保険収載され、以降広く行われるようになりました。

実際の治療方法はどうやって選ぶ?

手術治療の腎部分切除術と凍結療法はともにがんが小さい場合に行われる治療方法で、どちらを行うかについては患者さんの年齢や腎機能の状態などから判断することが一般的です。基本的に凍結療法のほうが患者さんの体に負担がかかりにくい低侵襲な治療ですが、腎部分切除術のほうが治療の歴史が長く予後が良いことがわかっています。そのため当院では、高齢の患者さんや腎機能の状態が悪い患者さんには凍結療法を検討し、体力がある年齢の若い患者さんには腎部分切除術を検討することが多いです。

また、がんの切除が難しく進行した腎細胞がんに対しては、薬物療法や放射線治療を検討します。薬物療法は抗がん剤だけでなく、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などが登場し、ここ20年程度で飛躍的な進歩を遂げています。また放射線治療については、痛みを和らげるなど主に緩和治療の役割が期待できます。

がん医療の進歩による治療の変化

がんの診療技術の進歩はめざましく、とりわけ薬物治療の進歩には目をみはるものがあります。従来がんの薬物治療といえば抗がん剤による化学療法が主流でしたが、2000年代に登場した分子標的薬を皮切りに、免疫チェックポイント阻害薬などさまざまな作用でがんにはたらきかける治療薬が登場しています。さまざまな治療薬が登場したことによって、患者さんががんと付き合いながらより長く生活できるようになったことはもちろん、一度は切除不能と判断されたがんが薬物治療の効果で切除可能になるというケースも出てくるようになってきました。

ただし、新しい治療薬にはまだ分かっていないこともあります。たとえば免疫チェックポイント阻害薬は、その人が本来持つ免疫のブレーキを外すことでがんに対する攻撃力を高める治療方法です。有効な治療方法の1つですが、一方で免疫が暴走しやすく、誤って正常な細胞も攻撃してしまうなどの副作用(免疫関連有害事象=irAE)が生じることもあるため、長期的に使用してよいのか、ある程度効果が現れたら治療を中断するべきではないかという疑問も生じています。このようないまだ不明確な部分を明らかにするために、私たちはさまざまな治験に取り組んでいます。

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