田村厚労相(右)に提言を手渡す森田朗・JUMP代表理事(中央)と近藤達也委員長(左)=JUMP提供
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の再流行や新たな感染症の出現に備えるため、日本ユーザビリティ医療情報化推進協議会(JUMP:代表理事=森田朗・津田塾大学総合政策学部教授)の医療情報利活用推進委員会(委員長=近藤達也・医薬品医療機器総合機構名誉理事長)はこのほど、法制度や医療体制の運用改善に向けた「情報戦略に関する提言」を田村憲久厚生労働大臣に提出した。COVID-19第1波の際には十分な情報活用ができなかったことを顧み、冬に向けて感染者の増加が懸念されることから、提言に基づき効果的な情報活用を期待するとしている。
提言によると、感染症流行時に正しい情報を社会に伝えることは、各個人が適切な感染予防行動をとるために必要であると同時に、社会不安を軽減し、風評被害の抑止にも役立つ。また、正しい政策的対応、治療法の効果に対する評価、適切な治療法の早期開発にも、正しい情報はなくてはならない。
情報を活用するためには▽「正しい」ことが目に見える形で正しいデータを収集し▽複数のデータソースを統合分析して得られた知識を検証し▽迅速に分かりやすく提供する――必要がある。
この一連の流れを実現するため、
1)正しいデータを収集するため医療者の入力負担を極力減らすICT化を進める
2)複数データソースの統合分析と検証が可能になるよう各種データベースの連携を図る
3)COVID-19による行動変容や安心を醸成できるような新たな社会インフラを作る
――の3項目の必要性を提起している。
COVID-19対策で情報連携の基盤が未整備だったことに加え、活用目的の説明が不足し十分な理解を得られないまま情報収集が重複して行われるなどした。それによって、医療者の負担が過大になる、正しい情報が生成されなかった、利用可能な状態にならなかった、などの問題が生じていた。改善のために、ICTを活用して医療者の負担を減らしながら正確なデータ収集ができるよう、以下の4点を求めている。
現在、厚労省の「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)」、同「感染症発生動向調査(NESID)」、同「新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS)」、日本集中治療医学会などによる「ECMOnet」など、官民でデータベースが生成されている。さらには保険診療に関する「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)」なども利用可能となってきている。こうしたデータソースの連携は、統合分析し検証を行うという点からも重要であるとして、次の2点を求めている。
正しい情報が適切に提供されることで各個人の適切な行動変容や社会の安心が醸成されることを可能とするよう、収集・分析された情報がプライバシーに配慮しつつ迅速に提供されるようなインフラを構築する必要がある。そのために以下の3点を求めている。
個人情報保護に関する法整備の遅れ(いわゆる「個人情報保護法制2000個問題」)によって、COVID-19第1波への対応では個人情報の取扱いに関して自治体ごとの判断を要し、効率的な情報共有などが困難だった。2000個問題の見直しが政府で進められているなか、上記1)~3)の提言を実施するためには、感染症法や新型インフルエンザ等対策特別措置法などの感染症関連法の時限的見直し、薬機法などの医療システム全般にかかる医事法制など複数の法律の見直しが必要となる。
また、迅速かつ効率的な感染症対策を進めるためには、医療におけるデジタルトランスフォーメーションを進めると同時に、患者・国民の人権を守る必要がある。
国家による感染症対策の実施にあたっては、透明性を担保し、民主的な手続きに則り、目的外や過剰にならないようにしなければならない。提言では、これらを実現するための個別法の制定を推進するためにも、全体的な方向性を示す理念法である「医療情報基本法(仮称)」の制定が望まれる、と結んでいる。
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