現場で働く医師を守るために活動を行う医師会。神奈川県医師会理事の磯崎哲男先生(小磯診療所院長<横須賀市>:53)と小松幹一郎先生(小松会病院名誉院長<相模原市>:50)は、「若手医師が抱える不安や困り事、医師会への疑問などを聞き、医師会の活動につなげていきたい」と話します。では実際、若手医師はどのようなことに悩み、どのようなサポートを望んでいるのでしょう。磯崎先生と小松先生が若手医師4人の意見、質問に答えます【座談会後編】。
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山本先生
私は以前、血液内科医として大学病院などで勤務していました。そのまま専門医として働き続けようと考えていたのですが、子どもがほしいと思ったタイミングでキャリアについてかなり悩み、今は小磯診療所で常勤医をさせてもらっています。子どものことで急に仕事を休まなければならない場合でも周りの先生がフォローしてくださり、とてもありがたい環境で仕事をすることができています。ただ、やはり一般的には子どもを持つ女性医師が仕事を続けるのは大変なことだと思います。そうした女性医師をサポートするために、医師会でされている取り組みがあれば教えてください。
磯崎先生
厚生労働省の調査(2020年)では、女性医師の約半数は20〜30歳代だということが分かっています。そのため医師会としては、妊娠・出産を考えていたり、子育てをしていたりする女性医師の意見は積極的に吸い上げていかなければならないと考えています。
現在、医師会が行っている女性医師に対する取り組みの1つが、日本医師会女性医師バンクです(男性も利用可能)。女性医師のライフステージに応じた就労を支援する取り組みで、常勤・非常勤の求人のほか、予防接種や健診といった1日単位でできる仕事の斡旋などを行っています。
小松先生
女性医師バンクなどの女性医師を支援するさまざまな活動を行っているのが、日本医師会女性医師支援センターです。旧姓で働きたい場合にはどうしたらよいか、育休中にスキルや資格を維持するにはどうしたらよいか――など、男性・女性によらず、医師が知っておくとよい知識や情報がホームページ上にまとめられています。ただ、こうした取り組みを広く周知できていないのが現状です。
小竹伊津子先生(神奈川県医師会理事)
小松先生のおっしゃるとおり、女性医師支援センターの知名度は大きな課題ですね。また、女性医師のニーズは地域差が大きいと思うので、全国統一ではなく、それぞれの県や地域のニーズに特化した支援体制を模索していく必要があるのかなと考えています。
私自身もそうでしたが、女性医師はさまざまなライフイベントに合わせて働き方の方向転換を余儀なくされることが多いと思います。自分に合った道を探していくことは大切なのかなと思いますね。
久保田毅先生(神奈川県医師会理事/女性医師支援担当)
神奈川県医師会として行っている取り組みとして、女性医師等支援委員会があります。委員会メンバーは県内の郡市区等医師会(以下、地域医師会)の中で、女性医師のために積極的な支援や取り組みを行っている病院から選出されています。情報共有やディスカッションを行い、できそうなことがあれば各地域で取り入れてもらっています。
中島先生
私は成人先天性心疾患を専門としています。特殊な分野なため、横浜市内で診療しているのは私しかいません。近隣の病院や診療所から一手に予約を受けているので、新患予約は3か月先まで埋まっている状況です。家庭ではシングルマザーとして5歳の子どもを1人で育てており、近くに頼れる親族はいません。正直毎日いっぱいいっぱいの状況です。
循環器内科のように急性疾患を扱う診療科では、女性医師が出産後に働き続けることは容易ではなく、辞めてしまう先生も非常に多くいらっしゃいます。これは「復帰したい」と意欲をかき立てられるような環境がないことが理由の1つだと思っています。医師会には、私たちのニーズや意見を吸い上げて、誰もが存分に意欲を発揮して活躍できるような環境を作っていただけるとうれしいです。
磯崎先生
女性の出産や子育てに関して、私たちが行っている取り組みはまだまだ少ないのが現状です。今、本当に困っていることをこうして訴えていただくことが今後の医師会の取り組みに反映されていくと思うので、積極的に意見を聞かせていただきたいです。
小松先生
大学病院は地域の医療提供体制を維持するために必要不可欠です。そこで働く医師を守ることは、医師会の重要な役割です。皆さんの意見を聞き、集めた意見を行政に伝えていく必要があることをあらためて感じました。「このようなこと、言っても意味がない」と思うようなことでも、こうして私たちに伝えてくれれば、何かを変えられる可能性があるかもしれません。貴重なご意見をありがとうございます。
櫻井先生
私は、若手医師がステップアップできるような機会を医師会に作っていただけるとうれしいです。私にはこれから極めていきたい分野があるのですが、今の医局ではその分野のスキルを身につけることができません。医局を離れるという選択肢もありますが、横浜市内にその分野の専門医師がいないので、自身がその分野の専門性を身につけることができれば、患者さんが市内で治療を受けられるようになります。そのため、医局に所属しながら外部施設に一定期間学びに行ければと考えているのですが、その施設とのつながりがないのでなかなか実現には至りません。医師会にはいろいろな医局出身の先生方がいらっしゃるので、医師会というフラットな立場から、私たちと研修施設をつないでくれる存在になってもらえるとうれしいです。
磯崎先生
確かに医師会であればフラットな立場から研修施設の紹介ができるかもしれません。現在少しずつ進めているのは、医学生に対し初期臨床研修を行う病院の紹介ができないかということです。各病院がどのような研修を行っているかが分かる資料を作りたいと考えています。ご指摘いただいたように、若手・中堅医師に対する研修先の紹介については、今後検討していくべき課題だと感じました。新たな視点でのご意見ありがとうございます。
小松先生
医師がスキルアップしていくための武器はもちろん自分自身ですが、広いネットワークを持っていることも非常に大切です。櫻井先生がおっしゃったように、医師会の中にはさまざまな医局や病院の医師がいるので、病院で働いているだけでは得られない医師同士のネットワークを構築することができるのは、医師会に加入するメリットといえるかもしれません。
紫葉先生
私は外科医として手術手技の向上を目指しながら、このまま勤務医として働き続けていきたいと考えています。ただ、若手の外科離れが進むなど外科医を取り巻く状況が非常に厳しいなかで、勤務医を続けていくことに漠然とした不安を感じることがあります。医師会が私たち勤務医のために介入していることは何かあるのでしょうか。
磯崎先生
勤務医の労働環境を守ることも医師会の重要な役割です。地域医師会、都道府県医師会、日本医師会は、それぞれが市区町村、都道府県、国との太いパイプと交渉力を持っています。たとえば、医師の給与源となる診療報酬が2年に一度改定されるときには、診療報酬引き上げのために日本医師会が政府と粘り強く交渉します。日本医師会会員の半数以上は勤務医なので、彼らの意見をもっと聞き、活動に反映していかなければならないですね。
小松先生
若手の外科離れによる外科医の労働環境の悪化は、私も非常に危惧しています。診療科を自由に選択できるのは素晴らしいことですが、それによる医師の診療科偏在は深刻な課題でしょう。こうした医療問題に対して、医師会は行政と連携しながら議論を重ねています。このとき重要となるのが「現場の声」です。現場で働く医師たちのリアルな声を聞き、それを行政に届けることが、私たちの重要な役割です。
診療科偏在に対する取り組みの1つとして神奈川県とともに行っているのが、神奈川県地域枠(地域医療医師修学資金貸付制度)です。地域枠は卒業後に指定の地域や診療科で医師として従事することを条件に修学資金の貸付などを行う制度であり、全国の自治体や大学で採用されています。地域枠では診療科は自由に選択できるケースが多いのですが、神奈川県では選択できる診療科を8つに限定しています。医師たちを守るために、こうした取り組みを行っていることもぜひ知っていただきたいです。
中島先生
先ほどお話ししたように、私は横浜市内の成人先天性心疾患の患者さんを1人で診ていますが、いつまでもこの状態を続けるのは難しいと思っています。いずれは、地域の先生方とネットワークを作って、軽度であれば地域の診療所でフォローしていただき、有事あるいは数年に一度、当院で診療するような体制をつくれればと思っています。そのためには、勉強会など地域の先生方と交流を図る場をいずれはつくりたいと思っているのですが、そのときに医師会として何らかのサポートをしていただくことはできるのでしょうか。医師会の協力が得られれば、地域の先生方がより参加したいと思っていただけるのではないかなと思っています。
磯崎先生
スポンサー(後援)のような形で協力できる可能性は大いにあります。あとはたとえば、神奈川県医師会の関連組織である神奈川県内科医学会で循環器内科医とコラボレーションしながら、ネットワークをつくるための勉強会を続けることもできると思います。
また、勉強会を開催される際には、会員に対して神奈川県医師会から周知することも可能ですし、医師会の会報に記事を書いて、中島先生自ら情報発信していただくこともできると思います。さまざまな形で協力できるのではないでしょうか。
小松先生
医師会のネットワークは大いに活用していただきたいですね。もし具体的な話があれば、ぜひ協力させていただければと思います。
藤倉寿則先生(神奈川県医師会理事)
私は横浜市で循環器内科のクリニックを開業しています。医師会内のネットワークを使って「このような会を開きたいと思っている」と声をかければ、協力者はすぐに集まるのではないかなと思います。地域連携は医師会の一番の得意分野だと思うので、具体的なお話があればぜひご相談ください。
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