7月28日は「世界肝炎デー」です。肝炎という病気をご存知でしょうか。CMなどで「肝炎の給付金請求*」の話題を聞いたことがある方もいるでしょう。肝炎は国内最大級かつ世界規模の感染症です。日本では2002年から対策が行われ、啓発や医療費助成などが積極的に進められています。肝炎は誰でも感染の可能性がありますが、自覚症状がないことも多く、気付かないうちに進行し肝硬変や肝がんに進展する危険性があります。肝炎の種類や検査の重要性について、日本肝臓学会理事長の竹原徹郎先生(大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学)に伺いました。
*幼少期に受けた集団予防接種などでの注射器の連続使用とB型肝炎ウイルス感染の因果関係、あるいは特定の血液製剤の投与とC型肝炎ウイルス感染の因果関係が認められた場合、特別措置法に基づき、病態に応じた給付金が支給される。
肝炎とは、肝炎ウイルスの感染によって起こる肝臓の病気です。
代表的なものはB型肝炎とC型肝炎です。この2つは感染しても自覚症状がないまま進行し、慢性肝炎・肝硬変・肝がんの発病につながる可能性が高いです。B型・C型肝炎の問題は、このように本人が感染に気付かないままウイルスに持続感染し(ウイルス保持者を「キャリア」と呼ぶ)、結果的に命をおびやかすような病気に進展してしまうことです。
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一方、A型肝炎とE型肝炎は基本的に一過性の感染です。急性肝炎を発症すると38℃以上の高熱が出て、数日後に全身の倦怠感、食欲不振、吐き気、右季肋部痛(おなかの右上の痛み)などが現れ、さらに褐色尿(茶色の尿)、黄疸(皮膚や白眼が黄色くなる)が現れることがあります。A型肝炎の致死率は0.3%と高くはありませんが、50歳以上では合併症が起こりやすく致死率は1.8〜5.4%に上昇します。E型肝炎の致死率は1〜4%ですが、免疫不全のある方や妊婦は重症化しやすく致死率が20%にのぼることから、注意が必要です。
D型はB型肝炎に感染している人のみに感染します。B型肝炎の症状を増悪させますが、幸い日本ではD型肝炎ウイルスの感染例は少ないです。
B型・C型・D型は主に血液を介して、A型・E型は主に食べ物から感染します。
具体的には、B型肝炎は輸血・注射針の使い回しなどによる経皮的感染と、性交渉や分娩時の粘膜を介した感染があります。昔は母子感染が主な要因でしたが、1986年以降は感染予防のための注射とワクチンによって制御されるようになりました。一方、近年はジェノタイプ(遺伝子型)AというB型肝炎ウイルスが海外から持ち込まれる例が増加しています。ジェノタイプAは成人が感染すると持続感染する確率が高いことから、注意が必要な状況です。
C型肝炎はウイルスに汚染された医療器具や輸血用血液の使用、ウイルスに汚染された器具を用いて皮膚を傷つける行為(入れ墨、ピアスの装着など)により感染します。
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A型肝炎は、魚介類の生食や汚物により汚染された食物や水を摂取することで感染する経口感染がほとんどです。性行為(男性同士の性行為を含む)や輸血による血液感染も報告されています。また、E型肝炎はウイルスを保有した動物肉(豚、イノシシなど)の生食による感染と、ごくまれに母子感染や輸血による感染もみられます。
肝炎ウイルスが発見されて時間がたっており現在は感染制御の対策が講じられていることから、現在の日本では新たに感染することは少ないと考えられます。ただし、感染リスクはゼロではなく、誰でも感染している可能性はあります。さまざまな感染経路があり得るため、過去に一度も検査を受けたことのない方は一生のうち一度は肝炎ウイルスの検査を受けるべきでしょう。
特に、症状の出ないB型・C型肝炎の持続感染には注意しなければなりません。たとえば、B型肝炎の場合は母子感染防止事業が実施され始めた1986年以前、C型肝炎の場合は遺伝子断片が捉えられた1989年以前に生まれた方であれば、それよりも後に生まれた世代よりも感染リスクは高いです。肝炎ウイルス検査が推奨される方の条件について、詳細は厚生労働省のページをご覧ください。
現在、国を挙げて肝炎対策に取り組んでいます。そのため、過去に一度も肝炎ウイルスの検査を受けたことがない方は無償もしくは安価に検査を受けることが可能です。対応は自治体によって異なりますので、お住まいの自治体のホームページをご覧ください。
また、検査で陽性と判明した場合は医療機関で精密検査を受けましょう。
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日本では1994年にA型肝炎ワクチンが承認され、2016年からはB型肝炎ワクチンが国の定期接種に加えられました。世界180以上の国で接種が行われているB型肝炎ワクチンは非常に優秀で、獲得した免疫は少なくとも15年持続することが分かっています。
C型肝炎は、近年治療法が改良されてきました。2014年以降、ウイルスを排除するための飲み薬による治療が主流となっています。さらに、B型・C型肝炎は国の医療費助成制度を活用することが可能です。自己負担額は世帯の課税年額によって異なり、原則月額1〜2万円となっています(2021年現在)。
世界の例を見ても、日本のような恵まれた状況は当たり前ではありません。皆さんには、このような機会を逃さずに必要な検査や治療を受けていただきたいです。
「肝炎ウイルスの検査を受けたことがあるか」という問いに対して、どれくらいの方がはっきりと答えられるでしょう。肝炎は世界規模の病気で、持続感染による問題は非常に大きいのですが、肝炎を身近な問題と捉えている人が少ない現状があります。また、企業の健康診断などで肝炎ウイルスが陽性と診断されても、自覚症状がない・忙しいなどの理由で放置してしまう方も少なからずいるようです。誰にでも感染のリスクはありますから、ぜひ一生に一度は検査をしてみてください。そして陽性だった場合には精密検査を受け、必要な治療を受けていただくことが大切です。
国内最大級かつ世界規模の感染症である肝炎と命をおびやかしうる肝がんを撲滅するべく、日本肝臓学会では1999年より「肝がん撲滅運動」という啓発活動を行ってきました。その1つの取り組みが市民公開講座です。毎年全国の50地区で市民公開講座を開催し、市民の方々に肝炎や肝がんについて講演を実施しています。2021年は北海道・関東・中部・関西・中国の5地区で現地・オンライン開催で、8月1日に開催を予定しています。ぜひご参加ください。
2021年11月にはJDDW(日本消化器関連学会機構)の学術集会が行われ、B型・C型肝炎の治療に関する最新研究が発表されます。また、日本消化器病学会では肝臓や膵臓、食道や大腸などの消化器病に関する市民公開講座を開催予定です。ご興味のある方はぜひご参加ください。
厚生労働省では肝炎ウイルス検査後のフォローアップなどを地域で支える人材「肝炎医療コーディネーター」の育成を進めており、日本肝臓学会でもコーディネーター養成の支援活動を行っています。肝炎医療コーディネーターは保健師・看護師・職域の健康管理担当者などを対象にした資格で、疾患啓発や検査・治療の勧奨、肝炎患者さんを支える相談役としての活躍が期待されています。
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