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γGTP上昇は「一生分のお酒を飲んでしまった」結果?!―肝機能異常と言われたら

公開日

2019年08月08日

更新日

2019年08月08日

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2019年08月08日

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湘南藤沢徳洲会病院 肝胆膵消化器病センター センター長

岩渕 省吾 先生

企業などで年1回行われる定期健康診断。その中でも、採血検査は自分の体の状態を知る手掛かりとなるものです。毎回、結果をきちんと確認していますか? 今回は、健診などで指摘される肝機能異常について、数値の見方や受診へのアドバイスなどについて説明しましょう。

定期健診で「引っ掛かって」しまった男性の嘆き

会社の定期健康診断で、肝機能検査の結果が「要精密検査」となり、専門の医療機関受診を指示されたという営業職の50代男性Aさんの話です。「若いころからずっと、お酒を飲む機会は仕事柄多いですね。数値は悪かったようですが、特に体の不調は感じていません。無理をしているつもりはないのですが、こんな結果が出るということは年なんですかねえ……」と、意気消沈しています。

症状で見つかるのは急性の肝臓病

肝臓は重さが1~1.5kgで、腹腔(ふくくう)内で1番大きな臓器ということもあり、普段は十分な余力をもって働いているので多少の異常では症状が出にくいものです。症状で気付くとすれば、普段感じたことのないような体のだるさ、それと同時に尿の色が濃くなる、胃のもたれや食欲不振、体がかゆくなる――などです。こうした自覚症状や体の異常で病院に行き、肝機能異常が見つかるのは、急性肝炎や薬による肝障害、アルコール性肝炎など、主に急性の肝臓病です。

しかし一般的には何の症状もないけれども健診や人間ドックでの採血検査で異常を指摘されることの方が多く、つまり採血検査や超音波などの画像診断を受けなければ、肝臓の異常に気付かないということです。肝臓が沈黙の臓器と言われるゆえんです。

良く知られている検査項目の意味するところ

採血検査で肝臓に関係する代表的な項目はGOT(AST)、GPT(ALT)、γGTPです。

GOT、GPT

共に肝細胞の中にある酵素で、肝臓に何らかの異常が起こると血液中へ漏れ出す量が増え、数値が上昇します(基準値10~35 IU/L)。

ただしGOTは全身の筋肉や心筋の細胞にも多くあるので、激しい運動の後や心筋梗塞(こうそく)の時にも増加します。GPTが正常でGOTのみ上昇している場合には、筋肉やその他の原因が疑われます。肝機能異常ということで来院される方の中には、スポーツジムやマラソンなど、これまでしなかった運動を始めたのが原因でGOTだけが上昇している方がいますが、これは心配ありません。

健康な人では、GOTの方がGPTよりもやや高いのが普通です。これに対し、健診でよくみられる脂肪肝やお酒による肝障害、サプリメントを含めた薬などによる肝機能異常の多くはGPTが上昇します。ただしお酒の肝障害でも進行するとGOT/GPT比は逆転してGOTの増加が目立つようになり、精密検査が必要になります。

γGTP

お酒との関連で「この数値が上がりすぎるとまずい」と、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

γGTPは解毒に関係した酵素で、肝細胞で作られ、主に胆汁の中に排泄(はいせつ)されます。胆汁は重要な働きをしており、肝臓で解毒された老廃物は胆汁の中に溶かされ、一旦は胆嚢(たんのう)にためられています。食事をすると、胆汁が十二指腸に流れ出し、食物、特に脂肪の消化に働きます。1日の胆汁の量は尿量の半分以上にも達しています。

肝臓で作られた胆汁が腸に流れ出る経路を「胆道系」といい、そこに異常がみられると血液中のγGTPは増加します。

40歳過ぎてγGTPが上昇するのは

さて、関心の高い方も多いお酒とγGPTの関係について説明しましょう。お酒の飲み過ぎでγGTPが上昇するのは、アルコールによる肝障害の第1歩で、γGTPが排泄されにくくなったサインと考えられます。この上昇は敏感で個人差も大きいのですが、GOT、GPTが正常でγGTP(基準値8~33IU/L)だけの100IU/L以下の増加であれば、1~2カ月の断酒で基準値に低下するはずです。断酒ないし節酒でもγGTPが下がらなければ、肝障害が進んできた可能性があります。受診して詳しく調べた方が良いでしょう。

若い頃は飲酒量が多くてもγGTPは上がらなかったのに、40~50歳を過ぎて酒量は減っているにもかかわらずγGTPが上昇してきた、ということがよくあります。これは長年の積み重ねで、少量のお酒でも肝臓の負担になり始めたことの表れと考えられます。個人差はあるものの、アルコ-ル性の肝障害は、若い頃からの飲酒量の総計が関係している傾向があります。

お酒がいっぱいに入ったコップにつぎ足すとすぐにこぼれてしまうように、ある年齢でγGTPが上昇し始めたということは、その人が「一生の内に、肝臓を痛めないで飲酒できる総量にまで達しつつある」とも言えるでしょう。

お酒

お酒以外の肝臓病でもγGTPは上昇することがあります。代表的なのは脂肪肝ですが、その他にもγGTPの異常から発見される肝臓の病気はいくつもあります。

肝臓自体に異常がなくても、胆汁の排泄路に異常が起こった場合、つまり胆石や炎症、あるいは腫瘍によって、胆汁の流れが滞り、腸への排泄が障害されると血液中のγGTPは増加します。

なお、お酒を飲まず、肝臓、胆道系に異常もないのにγGTPが高いという方も時々います。精密検査が必要ですが、体質的にγGTPが高いと診断される方もまれにいます。

肝臓の問題で異常が現れるその他の検査値

肝臓は多彩な働きをしており、私たちの体に必要なたんぱくや脂肪を作って栄養を貯蔵したり、有害物質を解毒・分解して解毒物を胆汁として腸に流し出したりします。これらの働きに問題がでると、他の検査値にも異常が現れます。

例えばアルブミン(Alb)は肝臓で作られ、体のなかで最も重要なたんぱく質です。肝臓病が進行して肝硬変に近くなると、血液中のアルブミン値が低下してきます。その程度により肝硬変や重症肝臓病の進行度が判定されます。

血清ビリルビン(Bil)も肝機能の大切な指標で、黄疸(おうだん)の数値を表します。通常は1mg/dL以下ですが、3~4mg/dLに増加すると皮膚や目が黄色くなり、黄疸症状の始まりです。黄疸は肝炎や胆道系の閉塞(へいそく)の徴候として重大なもので、速やかに受診を要します。

ただし、軽度のビリルビン上昇は時々あります。1度は精密検査を要しますが、「体質性黄疸」といって生まれつきの場合や、肝炎にかかったことがある方は、その名残でビリルビンの異常が続くことがあり、心配はありません。この体質性黄疸は運動や空腹が続くとビリルビン値が高くなることがあります。

ほかにも肝臓に関係した数値はいろいろあり、GOT、GPT、γGTPは肝臓の働きをチェックするというよりも、何らかの肝臓の異常を敏感に反映する、肝臓検査の入り口に相当するものです。

検査結果

異常の指摘で受診するときに必要な準備

肝臓の数値異常で受診を勧められた場合、来院する際の注意点を挙げておきましょう。

空腹で来院

血液検査やおなかの超音波検査が必要になることが多いので、空腹での受診が勧められます。

過去の検査結果や体重の推移

過去の健診や人間ドックの結果などもできるだけ持参しましょう。肝臓の数値異常が初めて指摘されたのか以前から徐々に増加したのかや、若いころからの体重の推移も参考になります。

薬やサプリメント

異常を指摘された検査日の1~4週前に、それまでに飲んだことのない薬やサプリメントを使用しなかったか、思い出しておきましょう。

飲酒量や家族歴

日本酒1合▽ビール大瓶1本▽焼酎2/3杯――がそれぞれ純アルコール量として30g前後に相当します。これを1単位とし、1週間で何単位ぐらい飲んでいるか、何歳ぐらいからどのような飲酒歴があるか。その他、両親、ご家族での肝臓病の有無なども問診されると思います。

これらは診断の重要な参考となり、申告していただくとそれだけでおよその診断がつくこともあります。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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湘南藤沢徳洲会病院 肝胆膵消化器病センター センター長

岩渕 省吾 先生

聖マリアンナ医科大学第二内科助教授、大船中央病院院長を経て、現在は湘南藤沢徳洲会病院肝胆膵消化器病センターでセンター長を務める。豊富な経験に基づき消化器内科全般を専門とするが、なかでも肝胆膵疾患のエキスパートであり、現代の多くの人びとにとって深刻な問題である肝硬変やC型肝炎の治療を専門とする。