連載特集

月経前に心身を苦しめるPMSは婦人科で治療を―LEP製剤連続投与法は月経回数減でQOL向上も

公開日

2022年12月08日

更新日

2022年12月08日

更新履歴
閉じる

2022年12月08日

掲載しました。
9fb9ec5de8

月経前のイライラや憂鬱(ゆううつ)感、むくみといった症状は、PMS(月経前症候群)の症状かもしれません。PMSは自分の体や心だけでなく、家族や周囲の人たちにも影響を及ぼすことがあり、つらい思いをしている女性も少なくありません。PMSは治療によって症状を和らげることができます。医療機関で行う治療のうち、いわゆる低用量ピルのLEP製剤(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤)の連続投与法は月経回数を減らすことができるため、QOL(生活の質)の向上につながる治療法といわれています。東京歯科大学 市川総合病院 産婦人科の小川真里子准教授への取材を基に、PMSに対するLEP製剤の連続投与法について詳しく解説します。

体と心 両方に現れる症状

PMSを疑って婦人科を受診される方に多くみられる症状は、情緒面では「イライラする」「気持ちが沈む」など、身体面では「お腹や胸の張り」「体のむくみ」などです。なかには「怒りっぽくなって家族に当たってしまう」「子どもを叱り過ぎてしまう」「理由もなく涙が出てくる」といった症状を訴える方もいらっしゃいます。

PMSの代表的な症状としては以下の2種類があります。

  • 情緒的症状:いらだち、不安感、気持ちが沈む、引きこもり など
  • 身体的症状:胸や腹部の張り、むくみ、頭痛、体重増加 など

ただし、どれか1つだけが生じることは少なく、複数の症状があるという場合がほとんどで、現れ方には個人差があるといえます。また、PMSの中でも著しい精神障害・精神症状を認める場合には、PMDD(月経前不快気分障害)と診断されます。

月経開始の1~2週間ほど前から心身にさまざまな症状が現れ、月経が始まるとともに症状が徐々になくなっていくというのが繰り返し起こっている場合、PMSの可能性があります。PMSの原因ははっきりとは分かっていませんが、排卵も月経もきちんと起こっている、つまりホルモンが正常にはたらいているからこそ現れる症状といえます。

月経回数減に加え月経前の不調軽減も

婦人科で行う治療としては、OC(経口避妊薬)やLEP製剤といったいわゆる低用量ピル、抗うつ薬、漢方薬の3つが主な選択肢になるでしょう。低用量ピルは、胸の張りやむくみといった身体的症状が強い場合に選択されることが多い治療法です。抗うつ薬は情緒的症状が強い場合に処方し、漢方薬はPMSに対しては全般的に対応できると考えられます。

これらの治療法の中でドロスピレノン含有のLEP製剤は、胸の痛みやむくみといった身体的症状の改善が期待できるとともに、連続投与法という服用方法によって月経回数を減らす方法が選択できるという特徴があります。

LEP製剤の服用方法には周期投与法と連続投与法の2つがあります。周期投与法とは、21日または24日ごとに内服した後に休薬もしくは偽薬を内服し、28日ごとに月経の出血が起こるように調整する内服方法です。一方、連続投与法ではさらに長い期間LEP製剤を休薬することなく服用し続けます。連続投与法では月経回数を最長で4カ月に1回に減らせるため、PMSの頻度を少なくするとともに月経前に生じる体の不調をも軽減することが可能なのです。

治療によって月経の回数が減ることに問題はないのでしょうか。現代の女性は、昔と比べて出産回数が減ったことによって生涯における月経回数が多くなっています。このことにより、子宮内膜症になるリスクが上昇し、不妊症などにつながることが明らかになっています。現時点で妊娠を希望されていない方であれば、これらの婦人科疾患のリスクを取り除くという意味でもLEP製剤の連続投与法で月経回数をコントロールすることを検討いただくとよいでしょう。

事情が変わって妊娠を希望するようになった場合は、LEP製剤の使用を中止すれば排卵は回復することも確認されています。

PMS単独では保険適用外、副作用の理解も必要

LEP製剤の連続投与による治療を受けるにあたり、いくつか注意点があります。

1.PMSに対する保険適用はない

LEP製剤を含む低用量ピルは、月経痛などの「月経に不随して現れる症状(月経困難症)」に対する治療薬であり、PMSだけでは保険適用はありません。そのため、全額自己負担になる可能性があります(2022年12月時点)。

ただし、PMSの症状がある方は月経困難症もあることが多いといわれています。PMSで婦人科を受診される方は、月経困難症の診断の参考にできるよう月経前や月経中に現れた心身の変化を記録していただき、その症状を診察時に伝えてください。

2.血栓症のリスクがある

LEP製剤は副作用として血栓症のリスクが高まることが明らかになっています。処方を受けたい場合は医師とよく相談するとともに、以下のような症状が現れた場合には血栓症の前兆の可能性があるため、速やかにかかりつけの婦人科にご相談ください。

  • 足の痛み、むくみ
  • 腹痛
  • 胸痛
  • 強い頭痛、突発的な息切れ
  • 急激な視野欠損や視力低下(急性視力障害)
  • うまく発音できなくなる(構語障害)

3.連続投与法で内服できるLEP製剤の種類は限られる

LEP製剤には複数の種類がありますが、連続投与法で内服できるものは限られています。また、さまざまな理由から連続投与法で内服できるLEP製剤を処方しない方針の病院もあります。連続投与法での治療を希望される方は、これらのLEP製剤を処方しているか確認してから受診されることをおすすめします。

月経前の症状で悩んでいる方は婦人科へ

1953年にイギリスの医師が月経前に現れる種々の症状を“The Premenstrual Syndrome(PMS)”と名付けた背景には、「女性は月経前症状をひたすら我慢しなくてよい、治療を受けることができる」というメッセージが込められていたそうです。

「現代女性は非常に多忙ですから、月経前の不調で悩まれていたとしても、誰にも打ち明けることもできずに1人で耐えてしまっている方がたくさんいらっしゃると思います。月経前の諸症状で職場や学校生活などに支障をきたしたり、困っていたりする方は、一度婦人科でご相談ください」と小川先生は呼びかけられました。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

特集の連載一覧