医療費が高額になった場合に患者負担が大きくなりすぎないよう、年収などに応じた自己負担額を設ける「高額療養費」制度の見直しについて、石破茂首相は2月28日、前回見直しから10年間の経済・物価動向の変化を踏まえた定率改定は予定通り2025年8月から実施したうえで、所得区分に伴う限度額の見直しについては今年秋までに改めて方針を決定する意向を表明した。同日午後に開かれた衆院予算委員会集中審議で野田佳彦・立憲民主党代表の質問に答えた。
政府は2025年8月から2027年8月までかけて、3段階で限度額を引き上げる案を策定していた。これに対し、医学系の学会や患者団体などから再考を求める要望や声明が相次いで出され、現在開催中の国会でも一部野党が予算案の修正案を提出している。
予算委で見直しの1年間延期を求める野田氏に対し、石破首相は、経済・物価動向に対応した2025年度の定率改定などは予定通り実施する意向を改めて表明した。一方で、いったん立ち止まって2026年度以降に実施する所得区分の細分化については「患者団体を含む関係者の意見を十分に聞き、高額療養費を能力に応じてどのように分かち合うか、秋までに改めて方針を検討し、決定することとしたい」と答弁。この見直しにより、当初「200億円程度」とされた財政効果は100億円程度になると説明した。
政治判断による全面先送りを求める野田氏に対し、石破首相は「高額な医療でも安心して受けられるためにどうしたらよいかを考えてきた。不安をお持ちの方にどうやって応えるか、政府を挙げて考えたい」と述べ、全面的な先送りについては否定した。
政府の方針について、日本臨床腫瘍学会の南博信理事長は「十分な議論もないまま高額療養費制度における自己負担額上限が引き上げられようとしていたものがもう少し議論されることになりましたが、解決されたわけではありません。公的保険制度の維持は重要な課題です。医療現場、特に患者さんの声を聞き十分議論を重ねた上で、制度設計をすべきと考えます。日本臨床腫瘍学会はこれからもがん患者さんのために努力していたいと思います」とコメントした。
制度の見直しに関し、がん治療に関わる日本臨床腫瘍学会、日本癌学会、日本癌治療学会は2月27日、連名で慎重な検討を求める声明を出した。直近12カ月間で4回目以降の負担が軽減される「多数回該当」の上限額のみ据え置く修正案が示されているが、がん治療ではほとんどの薬物療法は4カ月以上続くうえに、最近の抗がん薬は高額だ。そのため、声明では最初の3回の自己負担額上限が引き上げられることにより、適切ながん治療を受けることを躊躇する患者さんが現れることへの懸念を表明。「国民の声を聞き十分議論を重ねたうえで、政府案の見直しやがん患者さんの経済負担の軽減に向けてさらに検討する」よう求めている。
また、日本乳癌学会も2月26日付で自己負担上限額引き上げの凍結と透明性の高い政策決定プロセスを求める緊急声明を公表している。
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