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連載特集

肺がん診療の現況―非喫煙者の肺がん増加や新型コロナの影響など

公開日

2021年06月24日

更新日

2021年06月24日

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2021年06月24日

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この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年06月24日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

国立がん研究センターの最新がん統計によると、2019年のもっとも死亡数が多かったがんは肺がんです。近年は非喫煙者の肺がんが増加するなど傾向が変化し、肺がんは喫煙者だけの病気ではなくなっています。順天堂大学医学部附属順天堂医院の呼吸器外科で教授を務める鈴木健司先生(写真)に、肺がん診療の最近の傾向や、コロナ禍において懸念される診療の課題についてお話を伺いました。

非喫煙者に増える肺がん―女性に多い肺腺がんとは?

肺がんにおいて現在特に注目すべき点は、非喫煙者の肺がん発症が増えていることです。厚生労働省によれば、日本の成人男性の喫煙率は1966年に83.7%まで上昇したあと徐々に減少し、2018年には27.8%まで落ち込みました。これに伴って、喫煙によって生じる肺がんの患者数は減少傾向にあります。しかしながら、肺がんで命を落とす方の人数は男女共に年々増加しています。

肺がんによる死亡数増加の理由の1つに、高齢化に伴うがん全体の死亡数の増加が挙げられます。これに加え肺がん特有の理由として、喫煙に関係なく発症する「肺腺がん」の発症数が増加していることもあります。

肺腺がんは、現在肺がんの中でもっとも多いがんで、症状が現れにくく、CTによる画像検査をしなければ見つけることが困難です。また、肺がんは男性に多いというイメージを持つ方もいますが、実は肺腺がんは女性に多いことが特徴です。疫学上では喫煙習慣の有無に関係なく、男性より女性の方が肺がんにかかりやすいという報告もあります。この理由はまだ明らかになっていませんが、対になっているX染色体や女性ホルモンなど女性しか持たない何らかの特徴が肺がんの発症に関与しているのではないかと思われます。

私の外来にも「喫煙したこともない私が、どうして肺がんになるのか」とおっしゃる患者さんもいます。しかしながら、今や肺がんは喫煙習慣のない方でもかかる病気です。「自分は大丈夫」と思わず、定期的な検診あるいはCT検査を受ける必要があります。

非喫煙者の肺がん早期発見のために―検診内容の見直し

肺腺がんなど肺がんのほとんどは、まだその原因が明らかになっていません。そのため予防は難しく、検診によって早期発見して、速やかに適切な治療を行うことがもっとも大切です。しかしながら、現在国で推奨されている肺がん検診では、喫煙を原因としない肺腺がんの発見がしづらい状態になっています。その理由は、肺がん検診の検査方法にあります。

肺腺がんの発見にはCTによる画像検査がもっとも有力です。アメリカでは、肺がん検診としてCT検査を導入することにより、肺がんによる死亡率が20%も減少するというデータも報告されています。

しかし、現在日本で行われている肺がん検診は、胸部X線検査と喫煙者に対する喀痰(かくたん)細胞診検査のみです。しかも、胸部X線検査で肺がんが見つかることは、喫煙に関係するがんの場合でもほとんどありません。そのため、検診を受けても多くの人が肺がんを早期に発見できず、結果的にがんが進行して治療が遅れてしまうのです。

では、どのようなタイミングで肺腺がんが見つかるかというと、現状の多くは高血圧、糖尿病などほかに基礎疾患を持っており、定期的に通院するなかでCT検査をし、たまたま肺に異常が見つかるケースです。つまり、肺がん検診がうまく機能していないあまり、基礎疾患のない方、元気で病院を受診する機会の少ない方ほど、肺がんが見つかりにくい現状があります。

肺腺がんを含め、さまざまな組織型を持つ肺がんを少しでも早期に発見し、治療するためにも、日本は肺がん検診の内容を速やかに変更する必要があると考えます。CT検査を取り入れることで、検診でより早期の肺がんが発見しやすくなることでしょう。

新型コロナ流行も肺がん検診に影響

また、新型コロナ感染症が拡大する裏でがん検診の受診率が低下したことも問題として挙げられます。2020年4月から5月の緊急事態宣言発令後は、一時的に検診センターなどが閉鎖され、検診を実施しない医療機関もありました。また、感染症を漠然と恐れ、病院に足を運ばなくなった方もいるため、検診を希望する方の数も激減しました。

また、当院では実施していませんが、肺がんでは検診後、確定診断の前や治療計画を立てる際に「気管支鏡検査」を行う医療機関も少なくありません。気管支鏡検査は気管の中に小型カメラを入れて内部を観察する検査なので、医療従事者が患者さんの飛沫を浴びやすく、新型コロナウイルス感染のリスクが高い検査といえます。そのため、この1年は通常なら行われるはずの気管支鏡検査の多くが中止されたことにより、さらに肺がんが発見されにくい状態が続いています。

その結果、最近では当院にも喀血(かっけつ)で運び込まれてくる方、検査するとすでに心臓付近まで肺がんが浸潤している方など、かなり進行した肺がんの患者さんが緊急で運び込まれてくるようになりました。このように、この1年近くの間に減少した検診の受診率や検査数による影響は、確実に出てきています。

医療機関の感染対策を信じてがん検診を受けてほしい

私たち順天堂大学医学部附属順天堂医院は、感染対策を綿密に行ったうえで、がん検診を通常どおり行っています。これはがん検診を受けなかったことによって、がんが進行し、命を落とす人を少しでも減らしたいからです。新型コロナウイルス感染症も怖い病気ではありますが、肺がんも怖い病気です。特に喫煙に関係して生じることの多い「扁平上皮肺がん」の場合、進行が早く数か月で大きくなることも懸念されます。ぜひ定期的に検診を受け、早期発見に努めてほしいと常々願っています。

また手術に関しても、感染対策をしっかり行ったうえでスケジュールどおり実施しています。時には新型コロナウイルスに感染した患者さんが入院されることもありますが、感染対策のノウハウを生かして院内で広がることのないよう、十分に配慮して手術や入院を行っています。

このように、多くの医療機関が徹底した感染対策を講じ、感染を広げないよう細心の注意を払いながら日々の診療に当たっています。「この1年受けるべき検診に行かなかった」「体の不調があるのに、我慢して病院に行かなかった」という方は、ぜひマスクを着用のうえ、一度病院を受診していただきたいと思います。

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