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連載「自分らしさ」に寄り添う在宅医療

命にもかかわる高齢者の肺炎 ワクチンで防げない「誤嚥性肺炎」とは

公開日

2019年06月13日

更新日

2019年06月13日

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2019年06月13日

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医療法人社団ときわ 大宮在宅クリニック 院長

清水 章弘 先生

肺炎」という病気の感じ方は人それぞれと思います。若い人にとっては「風邪がひどくなった」程度の印象かもしれません。一方、高齢者ならば「命にかかわる病気」と恐れている方も少なくないのではないでしょうか。実は、こうした感じ方はどちらも正しいと言えます。総務省の人口動態調査によると、肺炎は日本人の死亡原因で3番目に多いのですが、肺炎で亡くなる方の実に97%が65歳以上の高齢者なのです。それには、“高齢者特有の肺炎”があることも関連しています。

食事中のむせ込みが増えた

80代のAさんは高血圧、脂質異常症といった持病があり、病院に受診していました。しかし、体力の衰えなどもあって徐々に通院するのが難しくなり、2年前からは2週間に1回訪問する在宅医療を開始しています。Aさんのご家族から「最近、食事中にむせ込むことが増えたので、気になっています」との訴えがありました。また、Aさんご本人も「普段も唾液を飲み込むのが大変になってきた」とおっしゃいます。この時は、食事を柔らかくする▽小さく刻む▽食べるときはゆっくりかむ▽1口を少なめにする▽水分にとろみをつける――といった工夫をするなど、食事の注意をお伝えしました。

ところが、残念なことに数カ月後、Aさんに発熱や呼吸困難といった肺炎の症状が出てしまいました。

「誤」って「嚥」み込んで起こる肺炎

年を取るにつれて、物を飲み込む機能が徐々に低下していきます。最初に自覚するのが、Aさんのケースのように食事中のむせ込みが多くなることです。本人も周囲も「ちょっとむせているだけだから大丈夫」と思いがちですが、そうした認識が実は、危険から目をそらすことにつながっているのです。

冒頭で触れた“高齢者特有の肺炎”は、誤嚥(ごえん)性肺炎といいます。高齢者の肺炎を予防するために肺炎球菌ワクチンが定期接種化(公費助成による接種)されましたが、残念ながらこの誤嚥性肺炎は、ワクチンでは予防できません。

「嚥」という漢字はあまりなじみがないかもしれません。「の(む)」という訓があてられ、「のみくだす」という意味を持ちます。漢字の意味からも、誤嚥性肺炎という言葉を見ると「食べたり飲んだりしたものが気管に入ってしまって肺炎を引き起こす」といった印象が強いと思います。それだけならば、Aさんにお話ししたような食事の工夫によってある程度予防することができます。ところが実際には、横になっているときなどに唾液や胃液が気管に入ってしまうことが原因となることが多いのです。

横になる高齢者

口の中を清潔にし不要な胃薬はやめる

唾液による発症の予防策としては、唾液に含まれる細菌を減らすために口の中を清潔に保つ、歯周病などがあれば定期的に歯科医に受診するといったことが重要となってきます。

また、胃酸の分泌を抑えるような胃薬を常用している方もいらっしゃるでしょう。逆流性食道炎や胃潰瘍など本当に必要なときは服用する必要がありますが、食後の胃痛や胸やけなどを感じて胃薬を飲み始めたのをきっかけに、やめるタイミングを失して漫然と飲み続けている方も多いのが実情です。胃薬によって胃酸の分泌や働きが抑えられると、本来であれば胃で殺菌される細菌が生き残ってしまいます。そのような状態で誤って胃液が気管に入ると誤嚥性肺炎の原因となってしまうことがあります。特に高齢者はさまざまな症状で多くの薬を飲んでいることがよくありますが、薬の数が増えるほどに副作用のリスクも高まります。誤嚥性肺炎のリスクを指摘されたら、よい機会と思って服用している薬を見直していただければと思います。ただし、自己判断で勝手に薬をやめると、病気が悪化したり思わぬ症状が出たりすることもありますので、必ずかかりつけ医に相談してください。

誤嚥性肺炎は高齢になり飲み込む力が衰える(これを「嚥下<えんげ>障害」といいます)ことで起こりやすくなります。ですから、食べ物や飲み物に気をつけると同時に、飲み込む機能がどの程度なのかを内視鏡を使って検査することも大切となります。また、飲み込む機能を保つためにリハビリを継続して実施することも重要となってきます。

リハビリというと、身体動作の機能回復というイメージが強いかもしれませんが、実は「嚥下リハビリ」もあるのです。かかりつけ医やケアマネジャーさんなどに、受けられる施設が近くにないか問い合わせてみましょう。また、「日本摂食嚥下リハビリテーション学会」のウェブサイトには、相談窓口一覧がありますので参考にしてください。

目立った症状がないまま重篤化も

誤嚥性肺炎の症状としては、発熱、たんの増加、呼吸困難といったものがあります。ただ、高齢の方だと症状が出にくいことがあります。微熱程度でなんとなく元気がなかったり食事の量が減ったりといっただけで目立った症状がないまま、気づくと重篤な状態になることがあるので注意が必要です。

肺炎は、軽症であれば抗菌薬の内服で治療できます。ある程度重症の場合には、点滴の抗菌薬や酸素を吸うといった治療が必要になってきます。初めて誤嚥性肺炎にかかった場合なら多くの方は治療できます。

ところが問題なのは、「誤嚥性肺炎は繰り返してしまう」ということです。発症のたびに抗菌薬を繰り返し使用していると、次第に効かない細菌が出現するようになってきます。違う種類の抗菌薬を使用すれば効果があることもありますが、いたちごっこのようになってしまいます。

在宅で点滴治療も可能

最近では、自宅にいても医療を受けることができる在宅医療が普及してきています。抗菌薬の点滴は医療機関で行うものでしたが、在宅医療を受けていれば自宅でも一部は実施することができます。ですから、誤嚥性肺炎によって入退院を繰り返すといった負担をしないで、自宅でできる範囲の治療に切り替えるのも1つの選択です。

在宅医療

誤嚥性肺炎は高齢の方に多くみられ、病気というよりも飲み込む機能の低下が原因となっています。根本的に解決しようと無理をせず、どちらかというと老化現象に近いものと認識して、食事や口腔(こうくう)ケアなどに配慮し、かかってしまった場合でも早めに兆候に気づくことで重篤化を防ぎながらうまく付き合っていくことが大切です。

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医療法人社団ときわ 大宮在宅クリニック 院長

清水 章弘 先生

臨床研修修了後は放射線科を専攻。急性期病院や健診センターなどさまざまな医療機関において経験を積んだ後、非常勤として勤務経験があり、関心を寄せていた在宅医療に従事することを決意。2017年に医療法人社団ときわに入職。在宅医療に尽力してきた。同年7月には大宮在宅クリニック院長に就任。